【26】
洋子は演奏していた一団の逆側に立っていた。
スッと、聖樹の杖を天へ向けた。
皆は固唾を飲んで見守っている。
《桜翠
陽気な春を》
《紅蓮
煌めきの夏を》
《琥珀
季節の変わり目を》
《紫雲
実りの秋を》
《瑠璃
静寂した冬を》
幻想の魔法で季節を巡る。
再び聖樹の蔓が踊るように洋子を包む。
芳しい花の匂いがする。
百年に一度しか咲かない聖樹の花が咲いていた。
洋子は微笑んだ。
《郁郁青青 落花啼鳥 旭日昇天》
聖樹の蔓が杖に戻った時、洋子の姿は消えていた。観衆の見つめる中で瞬間移動して見せたのが最後の魔法だったのだ。
盛大な拍手や歓声の渦に包まれた中央広場は皆の興奮覚めやらぬ中から騎士団の二人が飛び出してきた。
「ヨーコ、何処だ!?」
ライトが周りを見渡しながら、洋子を捜すが見つからない。
トイはガックリ膝をついて座り込んだ。
「ヨーコのバカ…」
力無く呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
城内ではオズ皇子が泣き崩れるアマテラスを抱きしめていた。
「ヨーコなら大丈夫だ。アマテラスよ、心配しなくてもよい」
アマテラスは首を横に振りながら、
「オズ?私はヨーコが事情を話してくれなかったのが悲しいのです」
皇子は指で彼女の涙を拭った。
「バカだな、アマテラスに話せば魔法は中止になっただろう。お前を巻き込みたくなかったのだろうな?」
「そんなこと嬉しくありませんわ」
皇子はアマテラスを抱っこして寝室のベットへ導いた。
「おやすみ、アマテラス」
金色の瞳を見つめて眠るよう暗示を掛けた。アマテラスは一瞬で眠りについた。
皇子は甘いくちづけを落とした後、寝室から出ていった。
自室に戻った皇子は、
「サンクチュアリー」
相棒を呼び出した。
[オズデュランダル様]
「アリー、ヨーコの居場所は?」
[オズには申し上げられません]
皇子は目を見張った。今までアリーに拒否されることは一度もなかったのだ。
唖然とする皇子へ、
[五色を纏う黒魔女から伝言がございます]
皇子は悟った。ヨーコは伝説の魔導師と同じ能力を持つ闇の魔法を使う魔法陣魔導師だと。最強だと謳われる自身より上なのだと。
[オズには国の存在を脅かす出来事があれば呼び出しには必ず応えるので捜さないで、アマテラスには必ずまた逢えるので悲しまないでとの事です]
「わかった。好きにしろと言った言葉に二言はないと伝えてくれ」
[オズ、ありがとうございます]
皇子は己の剣をゆっくりと撫でた。




