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境界線の向こう側  作者: 柚子
16/74

【16】

洋子は立ち上がった。


目の前にそびえ立つ岩山が消え失せた。

そこに薄い碧色の鱗が瞬く黄龍が優しい瞳で私を見下ろしていた。


〈地龍である私の声に気付いたのは貴女だけです。感謝致します]

《月影を支えて下さったのですね。琥珀(コハク)、私は佐藤洋子です》

穏やかだが少し皮肉めいた笑い声が辺りに響いた。


〈ふふふ。大地を司り緑龍とも呼ばれる私に琥珀と名付けるとは酔狂な洋子だこと]

《そう?緑龍だからこそ樹木から生まれる琥珀と似ていると思ったし、地肌の黄色が鮮やかで素敵だと思ったの。今なら変え[私は地龍の琥珀ですよ?]


[地龍は真名が気に入ってるわ。ただ素直になれないのよ]

洋子の背後から声をかけたのは貝殻の裏側やシャボン玉を彷彿させる桜色の鱗が眩しい翠龍だ。


桜翠(オウスイ)。私は佐藤洋子よ。琥珀に寄り添うあなたがいたから間に合った》

[ただの気紛れよ。あたしは風龍の桜翠。早く笛の音を聴かせてよ?〉


洋子の視界に龍へ歌っている月影の情景が映し出された。踊る風に舞いながら笛を吹いている。あれ?


右眼には異世の姿が視える。

左眼には現世の姿が見える。


シヴァが左肩に留まった。

[洋子、右眼が赤い。闇の力を得た証だ。月影と同じ足枷を嵌めた儂を恨むか?]


………赤い目?


洋子は鏡を取り出して自分の顔を見た。

右眼が見事な緋色になっていた。順応性ある洋子は気にしなかった。


『私が月影を背負うことは自分で決断したわ。シヴァは悪くない。シヴァはずっと私の側に居てくれるだけで嬉しいんだから、ね?』

シヴァは洋子の首筋に優しく頭を擦り付けた。

[あぁ。側に居させてくれ]

魔力が高い者じゃなければ赤く見えないと言ったが「視える」ことには変わりないらしい。


洋子の足元には素朴な竹の笛が落ちていたのでそっと拾った。先程見た月影の笛と酷似していたので、月影の笛と認識していいだろう。


シヴァと龍達へ問いかけていた。


《教えて下さい。五色を纏う黒魔女とは?私には五色が五行説に思えたんだけど違う?》


五行説とは洋子が居た元の世界での理。古来中国由来の自然哲学の思想である。


・風(木行)蒼翠色[風龍]

花や葉が木の幹の上を覆っている立木が元で樹木の成長・発育する様子“春”


・火(火行)紅色[炎龍]

光り輝く炎が元で火のような灼熱の性質“夏”


・土(土行)黄色[地龍]

植物の芽が地中から発芽する様子が元で万物を育成・保護する性質“季節の変わり目”


・光(金行)白色[天龍]

土中に光り輝く鉱物・金属が元で金属のように冷徹・堅固・確実な性質“収獲の季節の秋”


・水(水行)黒色[水龍]

泉から涌き出て流れる水が元。命の泉と考え胎内と霊性を兼ね備える性質“冬”


《Weather魔法そのものだと解釈したの。間違えてる?》


桜翠[この世界の理では五色]

紅蓮[洋子が居た世界の理では五行説]

琥珀[同じ意であり異なる言葉]

紫雲[五色を纏う黒魔女洋子よ]

瑠璃[五色の糸を紡ぐように]

シヴァ[五色の力を結ぶように]


[五色の力を融合させよ]



洋子は唇を笛にあてた。息を大きく吸ってから月影への弔いの歌を笛で奏でる。ずっと前から知っているように、躊躇せず曲を奏する。


泣き叫ぶような哀愁漂う風のごとく

激しい怒りみたいな灼熱の炎のごとく

枯れ地から根を張る逞しい草のごとく

天から降り注ぐ煌めく陽光のごとく

絶えず流るる慈愛の水のごとく


桜翠、紅蓮、琥珀、紫雲、瑠璃が姿を現す。

刹那で永遠と思われる時間が過ぎてゆく…


月影から洋子へ引き継がれた。


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