【14】
[洋子、どうした?]
目覚めたら涙を流していた洋子を心配してシヴァが声をかけた。
《呼ばれたの。紅蓮や瑠璃と似ていた。早く応えなければ間に合わないかもしれない。でも、わからないの。誰を助けて欲しいのか、何処に行けばいいのか。シヴァならわかる?》
[落ち着け、洋子]
シヴァが諭した。
[大丈夫だ。一度聞こえたならば必ずまた届く。また聞こえる]
紅蓮[まだ時は満ちていない]
瑠璃[まだ洋子は目覚めていない」
[洋子、熟すまで待つのも大切だ]
シヴァは洋子の耳元にそっと囁いた。
《わかったわ。この遠征を終えてから考える。ありがとう》
ーーーーー
「トーマとヨーコ、サクッと魔法で魔石発掘頼んだぞ!俺達は見張り役だからな」
「『………」』
トーマは肩を竦めて、
「今回はヨーコいるからラッキーだな。毎回魔法は俺一人だからコキ使われてさー」
『魔石が眠る場所を探して掘るのね?』
「あぁ。多種多様になるのは仕方ないしな」
トーマに背中を預ける形になって目の前を探る。
………ここだ。
意識を集中して下へ降ると魔石を発見した。
発掘した魔石を木桶入れると、
「ヨーコ、早過ぎだろ?」
トーマが目を見開いたまま呟いた。
魔石発掘は一日で目標量を達成した。翌日は移動して岩塩を発掘した。海がないシャイン国では貴重な塩となる。
遠征は無事終了した。
遠征に必要な時間が約半分で済んだので、パーティのメンバーは大満足だった。魔獣に襲われる可能性も低くなるし被害も激減する。
シャイン国に帰って来た時、ホッとする気持ちより終わってしまう寂しさが勝り内心驚いた。
久しぶりのヤドリギに泊まるのが楽しみ。以前と同じ部屋の鍵を手渡してくれたのは、お腹が大きくなった娘さんだった。
パーティの皆で飲み会をしていたが、一人ずつ引き際を心得てるので、最後カウンターに残ったのはトイと洋子だった。
「なぁ、ヨーコ。“暁月”の一員になれよ?他の遠征依頼も楽しいぞ」
トイが私を勧誘する。
『暁月みたいな大所帯は苦手なのよね。自然の中に身を置くことが好きだとわかったの。だからこそ自由でいたいわ』
「そうか。俺は生きているから冒険者をしてるかな。冒険者として意識するよりずっといい」
洋子は果実酒を飲み干してから改めて感謝の気持ちを伝えた。
『トイ、今回は本当に誘ってくれてありがとう』
トイは洋子の頭を撫でて、
「ヨーコの順応性と協調性には予想外だったな」
と、戯けた。
『そう?前の世界ではリーダーだったのよ』
「へえぇ~ヨーコはしっかりし過ぎてるから補佐向きだと思ってたんだけどな」
『マイペースだから補佐には不向きかも』
「俺達のチームで遠征依頼あったら行こうな?」
『うんっ!』
これからも時々飲みに行こうと約束をした。
《依頼を受注しながらギルを貯めて、自然に囲まれて自由に生きよう》
あの時、遠くで聞こえた声がシヴァや双龍達には聞こえなかったという事実が、どれだけ稀有な意味を持つのかを、洋子は理解していなかった。




