【13】
今日から初めての遠征へ出発する。
洋子は、昨夜トイに言われた言葉を思い出していた。
「いいか、俺のパーティメンバーは熟練のベテランでヨーコより10は年上だ。単独依頼じゃない連携や知恵を見聞きして欲しい。討伐時、前方後方どちらが向いてるのか見極めたらパーティ内での立ち位置もわかってくる。ただ異世界から来たことだけ秘密にしとけ。なぁ?」
この間みたいにトイは優しく洋子の頭にポンッと手を乗せた。
『ありがとう、トイ。』
トイの優しさが伝わってきて、一瞬涙ぐみそうになった。
ボックスを使えないと遠征参加できない。洋子はボックスに着替えや食糧の他、薬草採取の袋や瓶、例のマイ図鑑2冊を入れてある。私物は全て自分で持ち歩けるのでとても便利だ。
パーティの必要な品を分担して持つ規則のため洋子も例外ではなく、ボックスの半分にテントより強いゲルみたいな家を運ぶ係になった。
この地に来た時に着ていた薄手のカーキ色のコートとスニーカーと麦わら帽子に、防御魔法陣と気温調整機能を施し着用した。
トイがひとこと、
「みんな忘れ物はないか?」
「「「「はいっ!」」」」
気持ちがいい返事が返ってくる。
メンバー① トイ
獣人族のリーダー。武術に長けておりパワーがあるため前方担当。頭の回転も早いパーティの要。
メンバー② トーマ
人族のサブリーダー。年長者で魔術師。回復魔法を使用する後方担当。パーティの頭脳。
メンバー③ ダニエル
鳥人族の後方担当。空を飛び風を読むパーティの防御。
メンバー④ アルフォード
愛称はアル。人族の前方担当。速さを生かした攻撃はピカ一。パーティの攻撃。
『あのぉ、私は必要ですか?』
「「「「はいっ!」」」」
②「酒を持ち運ぶスペース確保!」
③「ヨーコの手料理食べたいなぁ」
④「オンナの子大歓迎デス!」
地図を見てシャイン国から左側がサンド国である。
砂漠とオアシスがあり様々な種類の魔石がある。食用の岩塩は貴重な栄養素となり輸出品の代表とも言われている。
砂漠を抜けないとオアシスに辿り着かない。
《私はWeatherを持つ者》
オアシスまでの道を開けて歩けるよう伝えると、砂埃が風で舞い上がり道を作った。
《ありがとう》
砂漠を歩き続けて約半日過ぎる頃、オアシスが見えてきた。気温も下がり汗が引いていく。
「いつもは磁石や目印を見て歩くから倍の時間がかかるし砂漠で寝泊まりしないだけで体力温存できるのがいいな」
と、労いの言葉をかけてくれたアルさん。
「ヨーコは自分の価値がわかっていないんだよ?Weatherの魔法はスキルじゃない。鍛えれば取得できるものじゃないんだ」
トーマさんは魔術師ならではの言葉だ。
「ところでヨーコは砂漠の砂をどうするんだ?」
ダニエルさんは不思議な顔付きで尋ねた。
『この乾燥した砂を何かに使えるかもしれないから、少し分けて貰おうと思って』
木製の桶に蓋をしてボックスへしまう。
「ヨーコ、ゲルを出そう。今日はここてま宿泊だ」
私達はゲルを組み立て結界を張った。
夕食は遠征用の堅パン、香草入りカレー風スープ、魔獣の串焼き、林檎みたいな果実。
「「「「美味いっ!!」」」」
降るような星空を見上げて、旅はいいなと思った。
交代で見張りをするのは初めての経験なので、退屈で眠気と戦うのは辛いかと思っていたが、実際は微かに聞こえる魔獣の鳴き声が耳に優しい。肌を包むように吹く風はあたたかな砂の匂いがして心地よい。時々交わすお喋りも楽しかった。
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助けて…生き…
………応え……誰か……
お願い…彼を……
微かに誰かを呼ぶ声が聞こえる。仄かに感じるとれるだけで明確な場所はわからない。なんだか焦ったい。
《何処にいるの?》
[地底の 奥深…]
《どうすれば辿り着ける?》
[空…に耳を…]
《あなたは誰?》
[……地の…]
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もう聞こえない。誰かが私を呼んでいる。
ハッと目が覚めたら眠りの中で聞こえたのだとわかった。




