【11】
今日もギルドの掲示板で依頼の他に【家賃をシェアして共同生活をしよう】や【パーティ募集】を閲覧していた。
家を購入するのか旅立つのかどちらにしてもギルは不可欠と思い、最近は魔獣被害のための討伐依頼も受注するようになった。
これも先日まで受講していたギルドの講習会のおかげだ。単独なので受注できる依頼は限られてはいたが。
「ヨーコ、久しぶりだな」
後ろから声をかけてきたのは、相変わらずイケメンオーラがダダ漏れのライトだった。
『元気そうね?』
「まぁな。どうした?ヤドリギを出るのか?」
>>確かにこの掲示板を見ていたらそう判断するよね?
『今すぐじゃないけど安定したら自給自足で暮らしたいの。家を購入するにはギルが必要でしょう?』
ライトは肩をすくめて、
「ヨーコは若いんだから冒険者の仕事を続けながら学校に通うこともできるぞ?」
ライトにジト目を向ける洋子。
『30の私が学校?ありえないわ』
「だからヨーコは18だろ?」
『………。』
毎回訂正するのも疲れてきた。
ライトは自らの側に引き寄せるように洋子の肩をポンっと叩いた。
「わかったわかった。洋子は30歳な。実は迎えに来たんだ。パーティ“暁月”のリーダーからの招集だ。一緒に来てくれ」
以前トイから“暁月”に顔を出すように言われていたのを思い出した。
シャイン国お抱えパーティ“暁月”は各属性を極めし者やランクがSSSの者が集まった最大のパーティだ。依頼内容に応じて各グループに分かれており騎士団も一つのグループとして在籍している。
行先は神殿跡。つまり洋子が遺跡みたいと言った「スタート」の場所だ。同じ道を逆に歩いている。
到着すると、どこからともなく現れたシヴァが洋子の左肩にとまろうとライトを軽く威嚇した。
「なんだ、この黒い鳥は?」
『私の友達。シヴァよ』
シヴァの真名は長ったらしい。愛称を決めたのは洋子だったので、愛称ならば他の人に教えても支障はないらしい。
シヴァが洋子の左肩にとまった。
[結界が張られている]
《来てくれたのね、ありがとう》
[強者共がウヨウヨしとる。油断するな]
気合を入れたのがわかったシヴァは何も言わず息をひそめていた。
洋子達が結界に入った。
「いらっしゃーい!!」
「ライト!遅いぞー!?」
「おおっ!噂の黒髪娘だぁ」
「お疲れさん!さっ飲むぞぉ」
お花見?宴会?打ち上げ?
みなさん揃いも揃って酒臭い。強者共は酔っ払い。
シヴァは一瞬で警戒を解き空気と化した。
お酒が注がれた木の器とトレイを受け取り、用意された椅子へ座った。
>>幹部の10名含むってことはライトもトイも幹部クラス?凄い人達とお知り合いなんだな、私。
大きな仕事がひと段落となり、働きを労わる食事会を皇子自ら開催して下さったという。
洋子の目の前にライトと年恰好が変わらない若い皇子が微笑んでいる。
「やっぱり騎士の礼も民の作法も知らないんだな?」
>>げっ!?冷酷腹黒皇子降臨?やっぱり?でも場違いなのは私だ。きちんと挨拶しなくては。
咄嗟に椅子から立ち上がり片膝をついた。
『申し訳ございません。初めまして、ヨウコ・サトウと申します。辺境な田舎からやって来て間がない者です。本来このような宴に参加する資格はございませんが、晴れの場故、何卒ご了承下さい』
………シィーーーーン。
静寂な時が流れた。誰も騒がず皇子と洋子の成り行きを見守っている。
「ぶわぁっははははははっ!!」
突然、皇子が大爆笑した。
すると、周りの人達もニヤニヤして、様子を伺っている。
「試すような真似をして申し訳ない。異世界から来た者がどんな奴か知りたくてな?」
………!!!
バ、バレてる。
何も言っていないのにどうして?
「ヨーコ、私はシャイン国第一皇子のオズデュランダルだ」
国一の光属性を持つお方だと噂に名高いだけのことはある。座っているだけで邪気を跳ね除ける力を感じた。
「この神殿跡は異世界からこの地に渡る者が辿り着く『始まりの聖地』だ。
ヨーコがここから出てきたのをライトが目撃し追跡した。ひとめ見て異世界から来た者だとわかったからだ。
この地には黒髪黒眼の者はいない。おまけに神殿跡には結界を施してあり、普通に暮らす者は出入りできない。君は容易く通り抜けたよな?
さて、ヨーコ。君はどうしたい?この数日間、平穏に過ごしてきたはずだ」




