訓練
ルトと出会ってから季節が三つ過ぎた頃にはもう多くの人が最低限身の護り方を覚えて、組織立った動きも出来るようになってきました。
「それじゃあ三つの班に別れて訓練をします。私とルト、リズが本番でルトが出すのと同じように号令をかけていきますから、街から城へ続く階段に張られるであろうバリケードを突破できるようにしておきましょう」
セリアがその日の訓練内容を宿のホールに集まった人達に告げます。まだここの存在は兵士達には漏れていません。ホール内には城への階段を模した坂と、その途中には互い違いに置かれた矢盾などの障害物を用意してあります。
まあお金が全然足りないから全部段ボールだったんだけどね。
切り詰める所は切り詰めて、装備の方は何とかなりそうでした。僕は思い付く限りのツテを色んな街で辿って頭を下げて回りましたが、思いの外多くの人が援助してくれたんです。これで後は囮にするのにちょうどいい町が占拠されるのを待つばかり……胸の痛い話ではありましたが。
「いい感じだね、兄ちゃん」
段々と実践的になっていく訓練を隅で見ていた僕とジュンは、初め自分達と同じように弓を番える事一つ出来なかった街の人達を頼もしく思っていました。
「訓練内容もその参考書も、全部ジュンが用意してくれたからね、城の動きもある程度分かるんだろ? 助かってるよ」
ジュンは町中にいる友達から噂話や兵士の動きを共有して貰って、おおまかな状況を判別してくれます。この弟がいなければ僕達は何度も危ない橋を渡らざるを得なかったでしょう。
「色んな家が蔵で腐らせてる本を譲って貰っただけだよ。騎士団は最近海岸沿いに南下するように領地を拡げてるみたいだから、多分あと一、二ヶ月もしたら大きな農村に当たるよ。そこがいいと思う。あと聞いた? 新しい防御設備の事」
「あの城の一番上に作られてる、大きな投石機のようなもの? 大砲だってあるのにどうして今さらあんなものを……」
「なんでもあれに巻き込まれると別の時代別の場所に飛ばされちゃうんだとさ。ルトがうちに来たのと同じものなのかな」
ボクがアレスタリアの近くで鳥に連れてかれた時に撃ち落とされたやつだね。この頃作られ始めたみたい。街の人達は時球の事あんまり知らないけど、城はちょっとずつ使い始めてたんだね。
「街の中にいるぶんには射程外だろうけど、本当に他所の街に応援を頼むのは難しそうだね」
「いくら電撃戦にしたって済んだ頃には城の前の人達が全滅してました、じゃ笑えないからね。少しでも時間を稼いで貰えるようにこうやって訓練して貰っておかないと」
「あと一、二ヶ月……そして別の方角に騎士団が遠征してくれたら、始まるのか」




