若かりしアイゼン
ええと、次はいつの事を話すかな……。
あ、ボクね時々お姉ちゃんとリズと一緒に買い物に行く事があったんだ。その時の事がいいかな。
何かあったのかい? ところでルトはセリアの事は名前で呼ばないよね。ともかくウチの女の子は彼女ら二人だけです。いつもルトを挟むように三人で手を繋いで出ていって……歳は同じくらいなはずなのにルトだけ小さな妹のように見えたっけ。
「へー、この時でも市場は賑わってるんだね」
「市民は少しでも安く食べる物を手に入れようとすごく頑張って買い物するからね。お店の方も品物が余らないようにあの手この手で売っちゃおうとするから」
店側も生活が苦しい訳ですから普通なら物価が上がっていき街は恐慌に包まれかねないんですが、アレスタリアの人達はお互いの事をよく思いやっていますから値上げは最終手段でした。それに売れ残った物を兵士達に二束三文で買い叩かれてしまったら大損ですから。
「安い物を探すんじゃなくて美味しい物を探せるように、ルトには頑張ってもらわなくちゃね」
「そっか、私が初め来た時よりはお菓子の類が少ないんだね」
普段ボクは街でルーズの真似して喋ってたんだ。そのままのボクじゃ他と少し違ってるから街の人に変な目で見られちゃうし、ヴァルキリー様やったりしたらもっと悪目立ちして城の人が寄ってきちゃうからね。その時は普通でいなきゃだめだったって事だね。
「ああ、未来では今よりは締め付けが弱いんだね。ちょっと安心、これから酷くなる一方かとばかり思っていたから……すみませ~んお芋を少し頂きたいんですけど」
「いらっしゃい、ってセリアちゃんじゃないか。家の方は大丈夫? ただでさえ大家族食っていくのに大変なのに、ちょっと安くしとくから色々持っていきなよ」
「い、いえそういう訳には……」
「やったぁ♪今夜はごちそう!」
見に行ったお店のお兄さんは家の心配までしてくれてて、いい街だなって思った。セリアは遠慮したけどリズが喜んで横から受け取っちゃったから、その日は思ったよりもたくさん買えたんだ。でも……。
「何だぁ随分羽振りがいいじゃねえか。ンな小汚え看板出してる癖によ」
「えっ看板?」
後ろを見たらたまたま通りかかったお城の兵士が一人そのお兄さんに目をつけてたんだ。ボクは言われた事が気になって八百屋の看板を見てみたけど、ちょっと雨かなにかで色がくすんでるくらいで別におかしなとこはなかったと思う。
(ルト、今は刺激しちゃ駄目だからね)
リズが耳打ちしてきて、ボクたちは黙って店のカウンターからちょっと横にずれた。周りの人たちも、ボクの事はみんな黙っててくれてた。
「他所の人間に街の汚点を見られたらどうすんだ、城のメンツを丸潰れにするつもりか!」
「……申し訳ありません」
「ハン、罰として少し徴収していかなくちゃなあ」
お兄さんは仕方なさそうに言って拳を握りながら、兵士の人が売り物を両手いっぱい持っていこうとするのを見てるだけだった。それが一番いいって分かってるんだけど、ボクは今すぐ出ていってその人の喉を噛み千切ってやりたくなった。でもその前に、少し離れた所から男の人の怒鳴り声がしてきたんだ。
「そこ! 何勝手な事してやがんだ!!」
「げっ」
その声に兵士の人はびくってなって、顔を隠しながら慌てて逃げちゃった。
「すまんアンちゃん、ウチのバカどもがまた迷惑かけてたみてぇで。今日だけで五人目だぞ街でアホやってたのは……一度きつく言っておかねえとな。嬢ちゃん達も、ケガとかねえか?」
よく見る兵士の三倍くらい大きな剣を持った背の高いその男の人は店のお兄さんに謝りながら散らばった商品を拾い集めて、一番近くにいたボク達にも声をかけてきたの。
「お姉ちゃん……この人は? 鎧つけてるけど城の人?」
「この人が、アイゼン騎士団長だよ」
「えっ! これあのおじさん!? すっごい若い!」
ボクがついそんな事言っちゃったら、おじさん……じゃない方のアイゼンさんは、引きつった顔してたなあ。髭とかは短いんだけど、たしかにあの時とおんなじ所も多かったかな、自信たっぷりなんだけど気さくそうな顔でさ。
「おいおい嬢ちゃん……俺ぁまだ三十路前だぜ? ちょっと傷つくじゃねえかよぉ」
ルトも彼に会ってたんだね。そう、団長のアイゼンは……というより騎士団は、しっかりと市民を一番に考えてくれていたんです。問題があったのは彼らを領地拡大に酷使する王城と、増員されすぎて監督の行き届かない一般兵士達であって騎士団はその間で板挟みになっていただけだったんです。
「あはは、ごめんなさい……えっとさ、騎士団長さん……は今の街どう思ってるの? 外側きれいにしてなきゃいけなくて、貧乏で」
「ちょっとルト!」
「あー……それな。馬鹿馬鹿しいと思ってるよ、今のやり方じゃどう考えたって市民の不満が募るだろ、いずれ暴動が起こったって不思議じゃねえわな。だがどうする事も出来ねえ、俺らは城の命令には逆らえねえし、プライベートで何かしようと思ったって国守りながらじゃあそうそう時間もとれねえ。せいぜいこうやって買い物ついでに見回りするくれぇだな」
ボク、この人とは戦いたくないなって思った。まあ戦うことになったら負けちゃうって事はわかってるんだけど、街の状況をよくないって思ってくれてたんだもん。傷付けあう理由がないよね。
「そっか……はい、私たちは大丈夫。頑張って何とかするから」
「おう、期待してるぜ。悪ぃな苦労をかけて」
ボクたちはお別れの挨拶をして、団長さんを見送ったんだ。ボクもお姉ちゃんもリズも、周りで見てた街の人達もみんなやるせなくなってたよ……。




