朝のルト
僕はいつからだったか、母さんよりも早く起きてルトを起こしに行くようになりました。素のルトを少しでも見たかったんです。僕達は広いホールのあちこちに薄布を垂らして個室を作り、着替えをはじめとする諸々に使っていました。ルトはそれがなかった段階の暮らしで誤って着替えを……下着を着けたがらないので実質裸を見てしまってもまるで気にした様子もなかったので、そこを開けるのにあまり度胸はいりませんでした。もちろん狙って覗いたりなんてしませんが。
「ルト、起きて。またアル達に笑われるよ」
「うん……起こして~」
僕が少し遠慮がちに体を揺すりながら声をかけると、ルトは髪にくるまったまま手を真上に挙げます。立たせてくれって事なんでしょう。その手をとって力いっぱい体を引き起こすとルトは何とか立つ姿勢を作り、まだろくに開かない瞼を眩しそうに押さえます。
「シャル~……今日はなにするの……」
「うわっ。シャル……それは元の時代での知り合いなの?」
ルトはいつも無警戒に僕に寄りかかって、体重を支える事を求めて来ます。ほとんど抱き付くような格好でしたから僕は一瞬胸を高鳴らせるんですが、大抵はシャルさんの名前を呟いての事なので羨ましさを募らせていましたね。そのまま腰と首に手を回してちょっと力を込める事ができたらどんなによかったか……僕は一度もそんな事出来ませんでした。僕はその時も、シャルさんの影に遠慮してしまってたんです。
「ん? あぁエイル。うん、ボクのお兄ちゃん、大好きな人」
初め聞いた時のその説明にはショックを受けるというよりも困惑したかな、えっ?兄妹同士で?って。きっと視野が狭まってたんです。ルトの性格を考えれば意味は分かりそうなものなのに……そしてルトが「好き」をまだそう認識している事に気がついていれば、僕はあとになって後悔を抱える必要もなかったのかもしれません。




