跳んでみる?
それからというもの、ルトは目に見えて暗くなっていた。
「……はぁ」
外壁内部に備え付けられた小さな椅子から、窓枠に頬杖をついてぼうっと外を眺める……もう何日目だろうか。視界の先には青々としただだっ広い平原が続くばかりで、特に何も起きる気配はない。
自分はこれから何をして過ごせばいいのだろう? これまでは目に映る真新しいもの全て面白かったが、先日の一件以来すっかり冷めてしまった。
(お父さんはボクにこっちで何をさせたかったんだろ? このまま時間が経てば何かあるのかな……)
一度戻って聞きなおす事は難しい。というのも、二十年後の街には中央塔はなく、彼女が知っている限り時球は父の持っていた一つしか存在しなかったからである。どこか別の場所に持ち込まれるようになったのか、絶対数が減ったのかまではルトの知りうるところではなかった。
「どうしたよ嬢ちゃん、ここんとこため息ばっかじゃねえか。ガラでもない」
見かねたガディウスが声をかけてくる。
「あ、うん……」
話す時間ならいくらでもあったので、ルトは拙い言葉でも自分の状況を伝えてみた。しばらく彼はちっと面倒な問題だな、と頭を悩ませたが、一つ提案を授けてくれた。
「嬢ちゃんがこれから何をしたいか、か……思うに、はじめにフェイさん家の真ん前にやってきたのにもなにかしら意味があるんじゃねえかな。今分かることと言ったらそれくらいなんだから、あの親子とは近しくなっておくに越した事はないさ」
「う~ん、そうだね。ボクももっと二人の事知りたい」
「そうだ、なんなら実際に見てみるってのはどうだ? 話すだけじゃ分からない事だって多いだろう」
「そっか! この街ならそれが出来るね!」
二人は同時に手を鳴らした。
次の日からルトは中央塔に通うようになった。
長い行列を我慢して中に入ると、放射状に道が枝分かれしたホールの先に小部屋がいくつかあるだけで内部は寂しいものだった。真っ白い壁と床に、無数に好き勝手な落書きがされてあるだけ。
ルトはさっさと適当な小部屋へ進んだ。本当に何もない、人一人がやっと入る程度の広さだった。壁に空いた穴から、横からコンベアの要領で流れてくる時球が取れるようになっている。
子供でも使いこなすその石の扱いに詰まるはずもなく、ルトは一つ手に取って念じるとたちまち姿を消し……またすぐに現れる。
「ふう、続きはまた今度。次はいつ頃に行こっかな~」
用を終えた彼女が戻ってきたのだ――ふと、帰ろうとするその足に何かぶつかった。見ればつい今しがたここで使用したばかりの時球が足元に落ちている。消耗品ではなかったのか? 少し不思議に思ったがルトは深く考えず、その石をもとあったコンベアに戻して塔を去った――その日は早くからよく眠れた。