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彼の街へ

「それじゃあルトも起きた事だし、そろそろ次の世界へ行かなくちゃな」

「私もお前達の旅が終わるまでは、この空間で見守る事にしよう。フィアレスの外れの庵で静かに待つつもりであったが、事情が変わった」

「おう、なるだけあんた達に恥じない行いをするよ」

 レオに快く別れを告げ、シャル達はフードの男が指し示す壁面に向き直り剣を掲げる。

「今度はどんな世界なの? もう雪の中に放り出されるのはごめんだよ」

 ミミルの問いに男はわずかに見える口の端を持ち上げ、子供をなだめるように言う。

「大丈夫ですよ。あなた達もよく知っている世界です。ただ時間軸は同じでも、時代は貴女のいたものとは少しずれていますが……」

 彼が手を上げると暗い壁面に真っ白な画面が現れ、俯瞰視点から段々と風景が近付いてくる。広い荒野にドンと構えられた大きな街から延びる細いがよく整備された街道、三段に分けて造られた街の頂点には立派な城。そこへ上る階段の途中には大きな噴水の広場があって、一番下には市場が広がっていて――。

「あ、あれは……アレスタリアじゃないですか!」

「エイルさん。あなたは気が付かなかったでしょうが、あの城には大悪が潜んでいます。今回のあなた方の役目はそれを発見し対処する事です」


 しばしの浮遊感ののち、一行は人気の少ない住宅街の一角に降り立った。

「えっと……ここ、どこ? 私は知らないと思うんだけど」

「キャーいかにも貴族様が住んでるって感じの街じゃん、超期待できそう!」

「ミミルさんとミナさんは初めてでしたっけ。テオリアさんはこの近くに住んでいて、シャルさんはルトとちょっと立ち寄った事があると。ルトは……」

 エイルの指差し確認していく最後の一つは、突如街の中心の辺りから聞こえて来た鬨の声にかき消されてしまった。

「うおおおおお!! 女神に続けぇぇ!!」

「ついに一斉蜂起の日が来たぞーーッ!」

「愚かな王に神罰を下せ!!」

 それまで静まりかえっていた街の様子がそれを境に一変、簡単な鎧を着て槍を手にした男達が街の民家という民家から雪崩れ出て来て城へと続く巨大な階段を駆け上がっていく。

「な、何よ! いきなり物騒な!」

 城の方からも武装した集団が大挙して降りて来ており、噴水のある段と城のある最上段の間に構えられた陣の防衛に加わっていく。

「……始まったね。この日かぁ……やっぱりボクちょっと照れるな」

「ははは……みなさん、今この街では重税に苦しむ民衆達が王族と城の兵士達を相手に反乱を起こした所です。僕も参加していました」

「っていうと、俺から見て過去のアレスタリアなのか?」

「うん、ボクがシャルと一緒にこの街に来て帰る時、一年間この街にいたって言った事があったでしょ? あの時だよ。ボクと会ってから二年経った時のシャルから見て……十五年くらい前のアレスタリア」

「ま、待ってくれ。ややこしい……つまり……俺が三歳の頃の時代か。経験したのなら結果も知ってるんだろ? 反乱は成功したのか?」

「はい。王の喉元に刃を突きつける所まで漕ぎ着けた僕達は税を引き下げて貰い、今後は無駄な圧政をしないと誓わせて和解しました。なので僕達がこの反乱自体に大きな干渉をしなければ、その通りに事が進んでシャルさん達の時代が出来上がっていくと思います」

「ん? 税を下げて圧政をしない……?」

 エイルの説明に、シャルは何か引っかかるものを感じた。何なのだろう。どこかが食い違っているような気がする……いや、確かにここは自分達のいた世界の過去のはずだ。この時代の本来の流れを知る者の言う通りになれば、自分達の知る時代が到来する。何も間違っているはずはないのだ。

「で? さっき言われた大悪っていうのはどこ? どうやって近づくの?」

 ミナが考えを現在のものに引き戻す。そちらも問題だ。城にいる、とは言っていたが誰の事なのか全く分からないし、そもそもこの状況で入城する事など不可能に近いだろう。

「……仕方ありません、志願兵として反乱軍の傘下に加わりましょう。末端の兵力なら大した影響にはならないはずです。戦いの最後には兵のほとんどが城内に雪崩れ込む事になる瞬間があるはずですから、その時に城内をくまなく探しましょう」

「なるほどね、世界規模の悪さをしている奴がいるとしたらこんな国一つの反乱騒ぎどうでもいいだろうから、身を隠し続けるないしは最後にこっそり抜け出そうとするだろうからね」

「戦いはかなり長引きます、戦闘の合間にこの反乱について……つまり、この頃の僕とルトについて話そうと思います」

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