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うざい三人組と、父の考え

 四人が家に戻ったのは、ちょうど陽が沈んで景色に薄闇がかかった頃であった。

 シャルの家に入るやルーズは大きく伸びをして、満足そうに笑う。

「んぅー、ふう。ごめんね、なかなか抜け時がなくって」

「あの女の子たち、疲れるね……」

 机に突っ伏してぐったりしたルトは彼女に恨めしそうな目線を向ける。

「とりあえずは、ルトが拒絶されなくてよかったよ。これからどう転ぶか……」

 なぜ遅くなってしまったのかというと、帰り道でルーズの友達に捕まってしまった為である。その時の様子がシャルには納得いかないのだが……。


「ようやくウチが見えてきたな」

 ルトの用事も済んで、彼らは塔からまっすぐ東へと伸びる大通りを歩いていた。自宅はこの通り沿いなので、迷うことはない。

 ちなみに、ルーズの家はシャルの家の隣だ。

 もう間もなく腰を落ち着けられると思った時、不意に後方からいくつかの黄色い声が飛んできた。

「あっ! お~い、ルーズー!」

 すぐに三つの足音が――ガツガツという背伸びしたヒールの音が近づいてくる。苦手な相手なので誰かはすぐに分かった。

 声をかけられたルーズは彼女達に手を振り返す。

「久しぶり、フェルマー」

「おひさ! 一週間ぐらい?」

「ミレイユも、みんなどこ行ってたの? 最近見ないから気になってて」

「いやぁ~ちょっとホームシックになっちゃいまして」

「一緒にトゥルースまでちょっと小旅行にね、ねミミル?」

「ねー」

 フェルマー、ミレイユ、ミミル。思った通り、ルーズがよく一緒にいる遊び友達だ。

 彼女らはオルタナへ移り住む前に親類を病気で失って、十六の若さで一人立派に生活している。

 時々昔の地元の過去へ行って会ってみたりはしているようで、今回もその帰りと言った所だろう。

 ルーズと一緒にいればこの三人の目につく事もある訳で、多少は知った仲だ。ルーズに告げ口でもされるのを恐れているのか、他ほど酷い態度をとられる事は少ない。

 むしろこの内の一人、ミミル――栗色のポニーテールと青いカラーコンタクトが印象的な娘とは友達の垣根を越えた関係を構築されている。一方的に、だ。

「メンゴメンゴ、ルーズも誘えばよかったね……あれ? ねえ、オルタナにこんな子いたっけ?」

 軽い口調のフェルマーが、傍らのルトに気付いて問う。他の二人は知らない知らない、とうるさく首を振った。

「紹介するね、ルトっていうの。二十年くらい未来から来たらしいんだけど……色々あって帰れないみたいだからザウバー家に住むことになりました。ちっちゃい子みたいで可愛いんだよ」

「あはは……うん、ルト・セレス。よろしくね」

 注目を感じて何かせねばと思ったのか、ルトは器用にバク宙しバレバレの作り笑いをしてみせた。

「わあ、か~わ~い~い~!」

 ミレイユがきゃぴるん、と腹の立つ猫撫で声で叫ぶ。

「「――っ!」」

 シャルもルトも、見逃さなかった。彼女はルトのアピールには眉一つ動かしていない。

 その一瞬前、ルーズの可愛いんだよという台詞を聞いた時から、目をギラつかせてタイミングを伺っていた。

 一拍遅れて、フェルマー、ミミルも口々にかわいいかわいい、それだけを連呼する。

 ――ルトが、こっそりこちらに視線を送ってくる。物凄く嫌そうな顔をしていた。男だったら、次に「こいつらぶっ殺していいか」とでも言う感じの抗議の目だ。

(できれば助けてやりたいけど、言って聞く奴らじゃないんだ、我慢してくれ)

 どうにか堪えるよう身振りで示す。ルトはため息もそこそこに六本の手に揉みくちゃにされ始めた……。


 ルーズは、そんな事があったのですぐに疲れて眠ってしまったルトをシャルが二階に運んでいくのを見送って、踵を返す。

「それじゃあ私もそろそろ。今日はお疲れ様です」

 ぺこりとフェイに会釈をして、一瞬シャルとルトの一緒に寝ている様子が気になって二階を振り向き見上げるが――ふっと笑みがこぼれる。

(ふふ、あの二人がえっちな事になってたら、わた飴百個食べてもいいや)

「ああ、またね。暗くなったら流石に家の人も心配するだろう」

「小さい頃からよくこっそり泊まってたおかげで、丸一日家を空けたくらいじゃ親も動じなくなりましたけどね」

 悪戯っぽく笑ってドアノブに手を掛けようとした時、肘の辺りに硬い感触を覚える。あっと思った時にはガシャンとよく響く音を立てて、足元で何かが割れた。

「きゃっ! やっちゃったぁ。すみません、これって確か……」

 写真立て。割れたガラスを取り払って中を確認すると……今目の前にいる男性が一人の女性と共に、屈託のない丁度ルトのような雰囲気の少年の肩に手を置いて映りこんでいた。

「問題ないさ。ケースを換えれば済む。手を切らないよう気を付けて」

「リコリスさん、確か肺を悪くして……あの」

「……いいんだ」

「私やシャルはあまり使わないから細かい事は分からないけど、多分……」

 ずっとにこやかに微笑んでいたフェイは、力の籠った目でルーズを諭す。

「いいんだよ。私はね、どんなに確実な方法があっても、既に失われた命を呼び戻すなんてこと、したくはないんだ。時だけでなく、命の流れまでも捻じ曲げて望みを叶える……人間はそこまで偉い生き物じゃない。それに、それで彼女が帰って来ても同じ記憶を持った別の女。換えでしかないんだよ」

「……ごめんなさい、立ち入ったこと」

 ――この人は、ちゃんと決着をつけているんだ。

 ルーズは自分が少し恥ずかしくなって、そそくさと家を出た。


 軋んだ音を立ててドアが閉められると、フェイは小さく息をついて、それまでのにこやかな顔に戻る。

「さ、ガラスを片付けてしまわないとね」

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