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早い帰路

「さーて、ここをどうやって戻ったもんかなぁ」

「あぁ~そうそうここから来たんだったねぇ」

 すっかり忘れていたが、来るとき通った坑道は出口でルトが軽い落盤を起こした為に塞がってしまっている。目の前に積み上がる岩、これだけどけられればなと、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、それで状況が変わる訳でもない。

「どうしようもないかな……やっぱ」

「じゃあさ、トンネルは使わずに登っていってみる?」

「こっの壁みたいな岩山を~? セレス……その武器引いてか? 無理無理、そもそもそう簡単に越えられる山じゃないからこっち側を外界って呼んでるのに」

 クロク平野を時計と見立てるならこの針山のような険しい岩壁はさしずめ内部で回り続ける事を余儀なくするフレームのようなものか。これを登って越えた話は一つも聞いた事が無い。

(んまあ、手ぶらのルト一人ならいけるかもしれないけどな)

「邪魔な石を無理やり壊してみるか。よっ……せっ」

 作ってもらった剣を鞘から抜き放つと、それはキィンという風切音を発し、螺旋状に伸びる二本の樹の幹に無数のツタが絡んだような複雑かつ規則正しい紋様を纏った、濃い土色の刃がその姿を現す。形や長さは今までと寸分違わぬ、胸まで届く位のすらりとした長剣。

(やっぱり器用なんだなテオリア、ちゃんと形を合わせて作ってくれたんだ、レリーフまで入れてくれちゃって。一体どれ位斬れるのやら)

 試しに目の前の岩塊に思い切り打ち付けてみる。しかし残念ながらそれだけでは岩に跳ね返されてしまう。さすがにそれはないんじゃないかと思ってノコギリのように力任せに刃を行き来させているとやがてパキパキという音が上がった後、岩が真っ二つに割れた。

「ん~……? それってすごいのかな?」

「切れ味は今までとあんまり変わらないか……でも刃こぼれしないから力次第でそれなりなものは壊せるって感じか。やっぱりこのままじゃ単に軽くて壊れない剣とだけ思っといた方がいいな……それも結構すごい事だけど」

 とりあえず目の前の岩全部武器に頼る訳にいかないようなので、いったんそれは鞘に戻して溜め息をつく。

「地道に軽いのから一個ずつどけてくか……通れるだけの穴ができればいいんだし」


「んっしょ……取れた。これじゃ夜がきちゃうよー。ホントにこれ続けてくの~? もし遠くまで埋まってたらさぁ……」

「分かってるけど! 今はここでこうするしかないんだよ、出来るだけ早く頑張るしか」

 今二人には選択肢がない。もう入れないアレスタリア以外に人のいる所を知らないし、ここの他にクロク平野に戻る場所も知らない。ルトの武器で力任せに破砕する事も考えたが、衝撃が強すぎて今度こそ本格的に崩れるだろう。なんとも行き当たりばったりだと自分でも思う。いったんテオリアの所に戻る事はできるとはいえ、一度送り出されてすぐに踵を返したのではあまりにも申し訳が立たない。

(何日もかけられるような準備も出来なかったし、急がないと本気で行き倒れるしかなくなるぞ……おっ、穴が開いた!)

 塞がった入口の隅っこに、腕がやっと入るくらいの隙間が生まれた。何とかなりそうだと思えたその時、更にいい報せが入った。

「おーい、誰かそっちにいるのか!?」

 どうやら全く同じ状況の人間が中からも来ていたらしい。中に夕日が差し込んで気付いて貰えたのだ。

「はいー! 二人だけですが!」

「ちょうどよかった、意外と量が多くて手こずってたとこでさ! そっちにダイナマイトを通すから指示通り設置してくれや!」

「分かりました!」

 すぐに一繋ぎになった発破が穴から出てくる。今回はルトをしっかり手で制しながら慎重に向こう側の人間の指示に従う。

「ルト、頼むから今後爆弾は今からするみたいな使い方をしてくれよな」

「うん~……これさ、もうちょっと遅かったらボク達までドカーンだったのかな?」

「はは、それはまあ運がなかったって事で……本当によかったな」


「おー、速え速え。苦あればなんたらだな」

 あの時の火の玉も見当たらず、二人はスイスイと洞窟を滑走していく。

「おじさん達すっごくご機嫌だったね~。お酒までくれちゃって」

 ルトのセレスティアルスターにLサイズと同様にして付いている幾つもの取っ手とローラーのうち二つの車輪がトロッコ用のレールに上手く食いついてくれた事で、また長時間暗闇を歩き続ける必要はなくなった。

 気になるのはそれを試みたルトがなかなか車輪が乗らずに四苦八苦していたのに、シャルがやってみるとすんなりとレールに嵌まった事だ。

「どうしろっつーんだかな。まぁここを余計に往復するのは精神的にきついのはよく分かるよ。直線的で終わりが見えないもんなぁ」

 さっきの団体はシャル達の協力で無事に洞窟が開通したのを喜んで機嫌よく握手を求めてきて互いに礼を尽くした後、「もし石材だったらアレスタリアに急いで行けば言い値で売れると思いますよ、行ってみればすぐ分かるから」と言った途端嗜好品の類を投げ出してくれ、こちらの反応を待たずに嬉しそうに出発してしまった。

「得な商売は早い方がいいってのは分かるけど、抱える程の弁当とか煙草とか貰ってもな。こっちの荷物になっちゃうじゃん。第一、俺未成年だけど?」

「未成年って?」

「二十年生きるまでは駄目なものがあって……あぁこれで振り向くと呑んでるんだろうな、ほらみろ……ってあれ、そんな事なかったか」

 大きな酒瓶を一本振り回して重さを楽しみながらしきりに地面を蹴っているルトは、ちゃんとしらふのままでいた。

「これがダメなの? そんなルール全然知らなかったよ。瓶を見たのは初めてだからどうやってフタを開けるのか分かんない……分かる?」

(あぁ、それも知らないよな確かに)

「はは、あと三年知らなくていいよ」

「ちょっと飲むだけでその夜は長く気持ちよく眠れて便利なのにな、そっかダメなんだ……」


 ここまで来てしまえばもう見知った景色、次の日の昼下がりにはオルタナは目と鼻の先という所まで戻って来た。セレスティアルスターに寝そべってキックボードのように漕ぎ進めているルトは、少し前からオルタナの北西に見えている森の方に何度も目を奪われている。

「なんかあるのか? あそこ」

 やがて気付いたシャルが気にして訪ねてくる。ルトにとってその森はとても大切な場所なのだが、そこが何であるのか上手く説明出来る気がしない。

「え? あ、ううん、何でもないよ?」

(うーん、まぁ今は行かなくてもいいよね……びっくりさせちゃうかもだし)

「さ、急ごう! 今度こそあの二人をやっつけるの!」

 ブーメランから飛び降りてリードを掴むと、到着を待ちきれずに街へと先走るルト。

(……でももうちょっとだけ見てたいかも……)

 その時、その森で小さな爆発音がして一本の木が倒れるのがぼんやり見えた。

「誰かいるな、爆発か……もしかして」

 シャルは爆音で察しをつけたようだが、ルトはある種の確信がある。あの森に何か用がある者といえば、自分以外にいないと知っているのだ。

「うん! きっと、ボクだ」

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