もう一人の自分達の事情
「ちょっと出かけてくるね、シャル」
「ああ」
いつも通りの軽装に大きな籠や袋を持って、まだ使い慣れない玄関からルトが出て行く。
シャルにはすぐに分かった。あれはまたキメラと殺し合いをしてくるつもりだ。ルトは今朝からクスクスと含み笑いをしてばかりいたし、今も嬉しそうな笑みを浮かべていたからだ。
ルトはこの街に来てからというもの、毎日のようにキメラを殺しにいく。それで喜んでくれる人達は多いし、頭を使う作業はできなかった、なにより彼女もやりきれない怒りをぶつける対象が欲しいのだろうと思っていた。
しかし、そうでない事はすぐに分かった。元々持っていた性分が何かのきっかけで目覚めてしまったのか、彼女は戦いそのものを楽しみ、殺し合いで遊んでいる。出会った頃から彼女は戦いの時には楽しげに笑っていたものだが、今では戦いが予感されただけで嬉しくて笑いが堪え切れなくなるのだ。
一日に何十体ものキメラを狩り、帰ってきて自分や街の大人達に褒めてもらう事で、返り血まみれの彼女は幸せそうに笑うのだ。あまりに頑張ってくれ過ぎて、クロク平野のキメラが全滅するのも時間の問題だろうと言われている。
「なんで、そんな生き方するようになっちまったんだろうな……あの時成功していれば、こっち側のルトみたいに普通に暮らして普通に笑えていたのか……」
街ではその小さな変貌に驚く者も多かった。なんでもこちら側の世界のルトはいつも大人しくしていて人懐っこく、キメラが出れば討伐に出てはくれたが能動的に挑みに行く事など一度もなかったという。
「くそっ、俺達とあいつら、何が違う……? 同じシャルとルトじゃねえか」
机に突っ伏して歯噛みするシャルは自分の胸の中で、ドス黒いものが渦巻いているのを感じる。これは……嫉妬だ。
二人はエルミ達を味方につけ、こちらのシャルらと同じようにオルタナに挑んだ。だが、彼らは塔まで制圧しきる事ができなかった。背後で聞こえた仲間の悲鳴に、何度か助けに戻ってしまったのだ。それにより、オルタナ側の戦力は時球で次々と増援を呼ばれて人海戦術で押し戻されてしまった。
その後どうなったかは、言うまでもない。手伝ってくれた村々の人々の犠牲は取り戻す手立てがなく、エルミ達には話が違うと責められ、オルタナでは完全にシャルとルトは凶悪な逆賊と晒し上げられ、撃退されたことをあげつらって笑われていた。
途方に暮れた二人は、平原をアテもなく彷徨った。方角もろくに確かめず、ただフラフラと飲まず食わずで何日も。自分達の居場所などクロク平野のどこにもない、いっそこのまま人知れず行き倒れてしまおうかと思われた頃、メイレンに行き着いた。信じられない事にそこでは、自分達のオルタナ襲撃から二年近く経過しているらしかった。時球なしで、気付かない内に少しだけ時間を跳躍していたらしい。
そして、今に至る。自分達にはこちら側の自分達を押し退けて成り代わるしか生きる道が残っていない……そう思った二人は戦いに踏み切った。原動力は嫉妬心から来る強い怒り。何も反論する事なくついてきてくれるルトには感謝しかない。ルトのためにも、やっと手に入れた居場所を手放すまいと彼はじき逆襲に戻ってくるであろう自分達に闘争心を燃やしながら街の再建に励むのだった。




