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なんでもできるテオリア

「さーて、もう少し運動しとくかな」

「がんばれ~!」

 ルトは気楽なもので、屋根の上に飛び乗り、寝転がってシャルを眺めている。

 今度は昔から参加していた防衛戦を思い出して、剣を交える相手がいるつもりで動いてみた。

「よっ、こうやって……! あーこんなじゃ駄目だなー……」

 しかし、それはすぐに取りやめてしまう。それまで気に留めなかったが、自分は練習する時はずっと独りで趣味的に剣などを振ってきたからか防御の腕が変わらないのに気付く。防衛戦で相対してきた者達の中には、そもそも彼と長時間打ち合っていられる程熟練した相手はなかなかいなかったのである。

(やっぱりちゃんとした相手が欲しいよな……)

「シャル?」

「ん? ああいけね、ぼうっとしてた」

「お~っ? 面白そうな事してんじゃん。ウチが相手やってやろっか?」

「テオリア。それは助かるけど、痛覚の事はいいのか?」

「痛いかもって分かってればあんまし痛くない、そこは人間も同じでしょ。それにウチにまともに当たる事はほぼないと思うけど?」

(ちくしょう、二人して……そりゃこの三人じゃ俺が一番弱いけどさ)

 何と言ったものか、自分は普通なのだ。テオリアは散々見せ付けられた通りだが、ルトもかなり戦闘力は高い。今はない武器が強力なのはもちろんだが、腕力が皆無なのを十二分に補う体力、敏捷性、反射神経がある。それに彼女は脚の力は異常に強いのだ。簡単な家の屋根までなら軽々と上がれるだけの跳躍力を乗せた蹴りが、見上げるほど大きなキメラを吹き飛ばすのをこの二年で何度も見ていた。

「そうだな。そこまで言うなら、胸を貸して貰おうかな」

 軽く身構えたテオリアと向かい合ってみると、なんだかルトが怯えさせられたのが分かる気がする。まるで黒い向かい風が吹いてくるかのような、潰されそうなプレッシャーを感じる。練習だと分かっていても鳥肌が止まらない。流石に「ほぼ最強生物」を自称するだけある。

「ど、怖い方がいいっしょ。へーきへーき、ちゃんと人間レベルの動きしかしないから」

「この、嫌味キメラめ」

 そして示し合わせたように互いに向かって高く跳び上がる二人。相手が相手、遠慮なく真剣を十字に振り切ろうとしたが、二太刀とも刀身を蹴りつけて逸らされ、そのまま肩に腕、足と置かれて空中で踏み台にされてしまう。着地したテオリアは無邪気に笑う。どこが人間レベルなのか。

「しちゃっ、と。考えなしに振り回すだけじゃウチには何億年あっても届かないよ?」

「分かってるさそのくらい!」

 シャルも負けたままではおらず、出来る事はありったけ試す。振る直前に剣を取り直してタイミングをずらしたり、剣を投げ上げてスライディングで後ろを取ってから斬り付けたり、回転を利用してモーションを反対にしたりしたが、どれも大振りな事には変わりなく、全て剣の腹を正確に蹴りつけられてずらされてしまう。

「ほらほら、ガンバ! 修行は結果じゃないよ、過程だよ~!」

 反してテオリアの攻撃は強烈だ。人間レベルで、というのは「力と型」だけらしい。人間相手なら一発パンチが飛んできたと思って受け止めたら実は六発重なっていて激しい振動と衝撃に襲われる、なんて事はない。数回籠手で受けただけで左手がびりびりと痺れだす。

(どうする? 重い剣だけで戦ってるからいけないんじゃ……そうだ!)

 シャルはベルトに付いた鞘を逆手に構えた。今まで手に取ろうともしなかったそれは軽く長さもあって、ずいぶん自分にとって具合がいい。やはり振り慣れた得物を包んでいる物だからか。

「おっ、気付いた! レベルアップだね!」

 それからシャルも緩急のついた攻撃で押し始めた。鞘が当たる度に、効いてないのに人っぽく姿勢を崩してくれるテオリアも人がいい。……この場合、何がいいと言うのだろう。

 しかし、次第に左手を離したぶん負荷のかかる右腕が悲鳴を上げ始める。剣の方がなかなか上がらなくなったのを気にしたシャルは一気に攻めにかかった。まだまだ余裕なテオリアのすぐ横まで飛び込むと後ろ回し蹴りを避けさせ、斜めに斬り上げる。左手で受け流したテオリアの懐に入り、さぁどうすると笑いながら彼が右腕を引くのを狙って、もう一回りしながら後ろ手に鞘を突き出す。繰り出そうとしていた拳の肘の所に鞘を引っ掻けて動きを妨害しすぐさま……逆手に持ち替えた剣を遠心力を使って上段から叩き落とす!

「あ~やられたなこれ! もうちょっと本気出してもよかったかなぁ?」

「冗談きついぜ……あっ!?」

 テオリアがその斬撃を受け止めようと肩を力ませると、当たったと同時に剣が折れてしまった。痛覚はともかく、どれだけ丈夫な体をしているのか。そして折れた刀身は面白そうに見物するルトの背中へ……。

「わひゃあっ!!?」

 ギリギリで身を翻すが、橙色の髪が何本かパラパラと落ちてきた。よっぽど驚いたのか、そのまま硬直して口をパクパクやっている。

「あ~あ。ゴメン、ついついお互いに力が入り過ぎちゃったかな~」

「いや……しょうがないよなこれは。ルトに刺さったらシャレになんなかったけど、二年前あれだけ振り回したからな、ガタもきてるか」

「そだなぁ……んじゃこうしよう! ウチが二人の武器を作ってやるよ!」

「えっ? ボクのLサイズも!?」

 願っても無い申し出に二人とも耳を疑う。

「そんな事も出来るんだな、お前」

「ウチに不可能はあんまりな~い。じゃ材料を用意してもらう訳だけど……」

「でも町には入れないし、パリフェアまで戻って掘って来いとでも……?」

「そういえば剣って何から出来てるの? 鉄? 鋼?」

「同じっしょそれ。簡単だよ、持ってきて欲しいのは……」


「まさかこれを要求されるとはなぁ……」

「いっぱい落ちてるからどんどん積めばいいだけで楽ちんじゃん!」

 再びアレスタリアの前、以前砲撃された所まで戻って来て、せっせと地面に散乱した時球をかき集める二人。まだ町の頂上に見える城は半分のまま手つかずだ。

「シャル~! こんなもんでいいかな~!?」

 貸してもらったリヤカーの三倍近い高さまで時球を積み上げた上に自分も座り込んでこんなもんでいいかと聞くルトに思わず時球の一つを投げつける。

「そんなにどうやって動かすつもりだよっ! ……ところで、どうした? お前さっきから町の方を見ようとしないけど」

 軽快に転がり落ちて逆立ちになった後、うつ伏せになったルトが車輪の隙間の向こうでふてくされたように口をすぼめる。

「ん……なんかボクあのお城キライになっちゃったみたいでさ……」

「まぁそれは俺も同じだけど、珍しいな。お前が何かを嫌がったりするのって」

「リーダーは強くて仲間思いじゃなきゃ……」

「……? 何? よく聞こえなかったんだけど」

「ううん、早く帰ろ! テオリアきっと待ってるよ」

「はいはい、とりあえずそれ半分は捨てて行こうなー」


「お、遅~いシャルルん~! ルト~お前いい武器使ってたんだなー。見て来たぞー」

 水色の光の粒を撒き散らしながら家の前にテオリアが現れて迎えてくれる。なんでも二年前の自分達の戦い方を観察してきたらしい。

「えっへへ、Lサイズはスゴいでしょ」

「ほえ? なんでLサイズよ? デカいから?」

「え? ボクの斧だから、それでだけど?」

「「Rアクスに改名した方がいいんじゃねーの~?」」

「えぇ~それはかっこ悪いよ~!」

 サイスは鎌なのだが? という指摘は喉まで出かかっていたが、それよりも一つ気になる事がある。

「それはともかく、時球でどうやって武器を作る気だよ? 時球は超硬くて熱にも強いしで加工は絶対にでき……」

 テオリアはおもむろに手刀で時球の一つを叩き割った。

「んっ? なんか言った?」

「わーったよもう好きにしてくれ……」


「よーし素体は雑に出来たから、部屋で本格的に作ってきますか! あ、絶対覗いちゃダメだかんな! 覗いたら……って、あ」

 黒曜石のように割られた時球を紐でとめただけの、ガタガタの二つの物体を抱え、ビシィと指差して釘を刺すテオリアの台詞の途中で、彼の大きな腹の虫が鳴る。童話と違って覗いたらそれまでの命だなと妙に納得した。

「うん、のぞかないよ。それでどうやってそれを武器にするの? 溶かせるの?」

「いや? 石とちゃうもんねぇ、とりあえず「言葉をかける」とだけ言っとこうかな。そしたら粘土みたいになるから、後はちちんぷいぷいで出来上がり~」

「そのちちんぷいぷい、の部分が気になるんだが……設備もないのに。んで? どれぐらいかかんの? それは」

「ぷいぷいを人間に教えちゃうとどえりゃい事になるの、我慢我慢。ところで完成品だけど、普通にいい武器、とびっきり強い武器、人類の手には余る武器、どれがいい?」

 言い方のせいでありがたみも緊迫感もあったものじゃないが、あまり本気で作り過ぎると一振りで国一つ滅ぼせるだけの危険な物体ができてしまうのだと彼は語る。自分らがやりたいのはそんな大それた事ではない。

「ん~……? じゃあとびっきりのやつね!」

「俺もそっちで頼む。まあこいつの武器は元々持ち主の手に余ってるけどな」

「む、ちゃんと使いこなしてるよ! 勢いがないと動かせないだけで……」

「うんうん、安心安心。これで最後を選んでたら即天まですっ飛ばす所だったよ~。んじゃ大体二つで……明後日の朝には出来るから明日はまた適当に訓練でもしててもらって。あ、デザインはウチの好きなようにさせてもらうからね!」

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