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ハリボテの町

この部分は近々修正予定です。とはいえ大きな行動の変化ではなく、出会った男性が顔見知りではなく初対面になるというものです。なるべく急ぎますね

※少々あっさりとしちゃいましたが、修正しておきました。このシーンについて言及してる所は後々あったかな…そこも気付いたら直しておかねば

「ふー、ああいう所は苦手だ……おっさんのおかげで和やかには運んだけど」

 やっともとの部屋まで帰って来て、一息つく。大した時間は経っていないのにどっと疲れが出た。ひとまずルトを適当な服に着替えさせてやり、その間にシャルは軽食の準備を進める。宿の食事は食いっぱぐれてしまったのだ。

「ねえ、シャル?」

 匂いにつられて着替え終わったルトがよってくる。だぼっとした短パンにTシャツだけの地味な服装をこれでもかと着こなしている。

「なんだ?」

「あの洞窟にいたの、何だったんだろうね? ぼやけてて火の玉にしか見えなかったけど」

 ルトは自分と同じで濃い味付けが好きな癖に、調味料の類はあまり好まない。なんでも時間をかけて煮詰めるついでに、よくこうやって話すものだ。

「実は、今思えばそんなに害ある存在じゃなかったんじゃないかと思ってる。こっちが早合点して逃げていたんだし……ほら」

「やっぱり一緒かぁ。あの時は慌ててたけど、ちょっと優しい雰囲気とか小さな動物みたいな鳴き声がしてた気がするんだ。もしかしたら本当はいいもので、待ってって言おうとしてたんじゃないかな」

 簡単なリゾットとスープを、ルトはとても美味しそうにつつく。あっというまに皿まで舐め切ってしまう。

「そうだったら助かるな。今の所、帰るにはどうにかしてまたあそこを通らないといけないんだし」

「もし今度出てきたらこっちから近寄ってみようよ。ちゃんと話せればいいけどなぁ」

「なんにせよ、その為にはどこかでもう一人の俺達に勝てるだけの何かを手に入れてからだな。特にアテもないし、まずはあのちびっこい女王様に頼まれたキメラとやらを探してみよう」


 改めてゆっくり出歩くと、アレスタリアの立派な佇まいに圧倒される。完全に舗装された土地に所狭しと並ぶ家々はその一つ一つが高く、大きく。門や窓に装飾の凝らされたそれらと比べると自分の育ったオルタナの住宅街など霞んでしまう。町の入口から城へ続く登り階段の途中に用意された広場には大きな噴水が設けられ、街路の隅々まで街灯がそびえ、誰が見てもこのアレスタリアは完成された頂上都市と呼べるだろう。だが、それだけ恵まれた環境の中で行き交う人々はどうもそれらの景色を好ましく思っていないように見える。

(何だろうなぁ、手に入った物はありがたみが薄れるってだけか? それにしちゃ目つきが恨めしそうな……)

「さ~て、噂のキメラを探さなくっちゃね。どうしよっか?」

「んー、情報が少なすぎるよな。しらみつぶしに聞き込みするしかないかな。なんかこういう作業よくする羽目になるような……旅なんてそういうもんか」

「たくさんの人に聞いて、見かけた人がいればいいんだね?」

「え? まあそうだけど……」

 ルトはおもむろに道の真ん中に飛び出すと、いっぱいまで息を吸い込んだ。

「あっばかや……」

「だ~れ~か~ローブの人型キメラを知ってる人~!!!」

(やりやがった!! こんな都会でなんつー事を!)

 往来の人々は、口に両手を添えて叫んだ「つ」の字の姿勢のまま待つルトを迷惑そうに白い目で一瞥するだけで、彼女から一定の距離には入らずそのまま歩いて行ってしまう。

「………………れぇ? ポイントが悪かったみたい、次いこ次」

「待て待て待て! 何を釣りでちょっと失敗したみたいに! お前がそこまでアレだったとは思わなかったよ!」

 これ以上やられては堪らないと、肩を捕まえて思いっ切り揺さぶるシャル。

「こういう人の多いとこでは「誰か」は通用しないの! いくらやっても恥かくだけで誰も来ないんだから……」

 わざわざ自分が相手をしてやらずとも、他の誰かを頼ればいいだろう……全員がそう考えて、結局誰も反応しない。よしんば応対してやろうと思っても、周りが聞き流している中進み出るのは気恥ずかしい。だいたいそんなものだ。

 ルトを引き摺るようにして通りの端まで退避しシャルががっくりと肩を落としていると、予想に反して二人に話しかけてくる者がいた。

「どうしたのアル、こんな所で大声上げたりして……ってあ、人違いだったのか」

「え? ある?」

 シャルより一回りだけ背が高いその男性は見た所三十半ばくらいで、表情や物腰が柔らかく話しやすそうな印象を受ける。

「ごめんごめん、君と同じように髪を伸ばしてる家族がいてね。もう売り物にはならないのに気に入っちゃってまあ……と、そんな事はいいんだ。君達、何か困ってるのかい?」

「えとね、ボクたち町に出るっていうローブ着てるキメラを探してるんだ。やっつけちゃってほしいんだって。お兄さん知らない?」

「ああ、あのキメラを探してるんだ」

「知ってるんすか? ステラだっけ、女王に頼まれたはいいんだけど、どこにいるのか見当もつかなくて」

 男性はぽんと手を叩くと噴水広場から下りていく巨大な階段を指差して教えてくれる。それにしても危害は加えられていないとはいえ、キメラが町を荒らし回っているというのに緊迫感の欠片もなく微笑んでいるのはどういう訳だろう?

「うん、彼はほら、そこの階段を降りた所の市場で度々見かけるよ、結構有名なんだ。町に入った時に絶対通る所だから行けば分かると思う……しかし女王からか……こういうのもなんだけど、あんまり関わり合いにならない方がいいと思うよ?」

「え、どうして? 子供が玉座に座ってるのはちょっと妙だけど、特に問題ありそうでもなかったけどな」

「表向きはね。あの家は国を強くすることに酔ってるんだ。考えてもみなよ、領土を広げるって事は他国を滅ぼすって事……もちろん沢山人が死ぬし、お金だって使う。勝利してもまだ抵抗を続ける人達は虐殺される。そんな事を明確な目的も無しに好き好んでやらせるんだよ? そんな人間を喜ばせてやりたいかい?」

「うう……確かに考えてみれば。でもまあそのキメラを殺す位ならいいんじゃ?」

「もちろん今回は下の人間の為にもなってるから、君達は遠慮なく事を進めて構わないけど、忠告だけね。この立派な街並み……全部ヴィンスフェルト家の見栄なんだ、飾る事を強制されてて、蓋を開けてみれば家の中では貧しい暮らしが送られている。皆不満は溜まってるだろうし誰かが派手に焚き付けてくれればお城に一泡吹かせられるかもしれないんだけどな……おっと愚痴になっちゃったね。それじゃあ僕はこれで。気を付けなよ」

 彼はルトの頭をくしゃくしゃと撫でると、器用に人混みをすり抜けて見えなくなってしまった。

 二人は立派に整えられた町並みをもう一度見渡し、しばし呆然とする。

「この町がすごいの、お城と見た目だけってこと? イヤだね、そんなのむりやりさせてるなんて」

「ああ、この町に住むのはごめんだな……」

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