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四つの終幕 IF

「うっ……うあ、こ……ここは……?」

 先程まで真っ黒な闇の中にいた筈であるのに、眼に飛び込んできた陽射しと青空にシャルは何が起こったのかと身体を起こす。すると次の瞬間ーー!

「ピュルル~~! ピチチチッ、クルルルルゥ~」

「うおっ!?」

 起きたばかりの身体を跳ね飛ばす勢いでルトが抱き着いてきて、倒れたシャルは地面に頭をしたたかに打ち付ける。

「痛ってぇ……ルト……? あれ、傷が、塞がってる……?」

 シャルはおぼろげな記憶を呼び起こす。確か自分は胸をばっさり斬られた筈だが、ルトが胸を押し付けてくる感触を頼る限りその傷は嘘のようになくなっていた。それどころか、ねじ切られた筈の翼も無い。いつの間にかシャルは人間に戻っていた。

「ピィ、ピィ!」

 ひとまず無理矢理にでもルトを退かして、立ち上がったシャルは辺りを見回した。目に飛び込んで来たのは、遠くに建ち並ぶ見覚えのある住居群……新生オルタナだった。

「……あいつらの町か」

 一体いつ頃の時代なのかは分からない。だが……自分達はあの町にいるべき本来の自分達に成り代わろうとすると言う、許されざる行いをしてしまった。町の人間に許容して貰えるかどうかに関わらず、行くべきではないと感じた……。

 もう少し周りを確かめていると、ルトがしきりに何処かを指差しているのに気付いた。何の変哲もない、小さな森に見えるが……。

「あそこに行こうって?」

「ピッ!」

「……分かった。どうせ他に行く所も無いしな」

 頷きあって、二人はその森目指して平原を歩き出す。そうしていると、シャルにはルトとのこれまでの事が次々と思い返された。ある日突然現れて、ぎこちなくも一緒に暮らして、クロク平野を出回って、ルーズを喪い、彼女を取り戻そうと躍起になって……失敗した。沢山の非難の声から逃げるように気付けば時間を跳んで、なくなった居場所を求めてもう一人の自分達に挑み……結局駄目だった。

「ルト……ごめんな」

「ピュル……?」

「色々だよ。結局親元には帰してやれなかった事も……俺の為に付き合ってくれたのに失敗して、こんな風に何もかも失くしちまった事も……沢山、痛い思いもさせちまったよな……」

 ルトは無言でぶんぶんと首を横に振って、シャルの左腕を胸に抱き込む。「自分だけはぜったいに味方だよ」とでも言いたげに。どくんどくんと、心臓の音が伝わってきた。

 するとシャルは立ち止まってーーきょとんとしたまま顔を覗き込んでくるルトの頬を両手で包み、涙を溢しながら言った……!

「ルト……ルト、俺は、僕は……お前が好きだ!! 女として……もう、どこへも行かせない。一緒になろう。いいか……?」

 ルトはその言葉をずっと待っていたかのように喜色満面に微笑むとーー彼女の身体から憑き物が落ちるように薄緑色の粒子が飛び散り、次の瞬間には彼女の背にあった翼は影も形もなくなっていた。

「シャル……ボクね、なんで喋れなくなっちゃったんだろって、前から考えてたんだ。理由は簡単でさ、ボクもうシャルにさえ言ってること分かってもらえればそれでよかったから、言葉なんてもういらなかったんだよね」

 ルトはこの瞬間、完全に人間の身体に戻っていた。ーー何故か? ひとえに、シャルとつがいになる為だ。

「でも、シャルがそうやって聞いてくれるなら……やっぱり言葉いる。ちゃんと答えてあげたい。もちろんーーいいよ! ずっとずっと、一緒に暮らそう!」

 彼はとうとう耐え切れなくなって衝動のままにルトを抱き締め、口付けをした。そして二人揃って、子供のように声を張り上げて泣いたのだった……。


「シャル、あそこね。ボクが育った森なんだ。中すっごく広いんだよ。でも実は……あそこのヌシでボクのお父さんしてくれてたドラゴンがね……たぶんもういないの。ボクがどうしてもゼザと戦ってみたくって、森を荒らして……殺しちゃった。だから森の動物たちはボクを見たら、逃げちゃうかも……」

「そうか……」

 森で暮らしていた? ドラゴン? だがシャルはもうルトが何を言おうと、信じる事に決めていた。自分でも信じられぬ程すんなりと頭に入ってきたのだ。

「ボク、みんなに謝って回るから。森がボク達を受け入れてくれるまで、がんばるから。ちょっとだけ不便なの、ガマンしてね」

「ああ。僕も付き合う。森暮らし、教えてくれよな」

「うん!」

 そう楽しげに話しながら、シャルとルトは森の中へ分け入っていく。確かに不便は多いかも知れない。だがここでならもう……二人を隔てる物は何もない。心ない声が飛んでくる事もない。その森の中が、二人の新しい居場所だった。

「ボク、いつまでもシャルと一緒にいたい。他には何もいらないよ」

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