表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/370

二年前の自分達

「ここだな……? って、本当にこんなとこに?」

 メイレンで聞いたと言うので現地で聞き込みをした所、町の西端の路地の奥にある何の変哲もない小さなあばら家に行き着いた。もう少し大きなイメージがあったので拍子抜けしてしまう。

「そうは見えないけどなぁ~。おじゃましま~す……わ!」

 ルトが扉ごと後ずさるように開けると、中から大量の矢が飛んでくる。仕掛け扉になっていたようだ。もっと豪快に開けていたら蜂の巣になっていたかもしれない。

「な、俺の言った通りだろ。噂を流して正解だったな」

「やっぱり二人で来たね! う~んと、はじめましてかな、久しぶり、かな?」

 出てきたのはたった二人。だがその二人というのが……。

「あ~っ! あそこにいるの、シャルそっくり!」

「あの緊張感のない顔は古今東西探してもお前以外にゃないだろうな」

 二年前の自分達と寸分違わぬ姿をした相手がそこにはいた。直後丸腰だったルトに、オルタナを襲撃したあの日のままの真っ赤な切っ先が突き出される。宙返りしてかわして、天井に頭をぶつける。

「あうっ」

「お前達の町、俺達が貰う! 大人しく席を明け渡せ!」

 とりあえず距離を取るルトだが、どうにも近づけずに近くにある皿やら窓やらを投げる迷惑行為に留まる。

「おい、何でそうなるんだよ!? お前ら、俺達だろ!? 何がしたくてここに来た!?」

「したいんじゃなくて、いたいんだ。でもボクは思いっきり体を動かしたいだけだけどね」

 もう一人のルトがお馴染みのブーメランを飛ばしてきた。壁を崩しながら一直線に向かってくるそれを防ぐ自信はない、ルトと同じようにして受け止めるしかない!

 出来る限り高く跳び、回転するそれの側面に付いている取っ手をタイミングを計って掴み、足がついたら勢いを殺さないよう回って、どこかに放り投げる。もう何度も見た挙動だが、自分の動体視力じゃ運任せだ。次やったら腕がなくなると思った。

「そっち飛んでったぞ、使え!」

「あ、うん!」

 二人のルトが飛んで行くそれを回収しに走る。こちらの、十七歳の方が圧倒的に近い。だがそれを奪取する事は叶わなかった。

「そんなに近付いてると、危ないよ~?」

「へ?」

「ふ~ん、こっちのあいつは同じ事思い付いちゃいなかったのか」

 跳び付けば届く程の距離を追走していたルトの目の前でブーメランは隣家の石壁に噛み付き、火花を上げたと思うと……爆発を起こした。高温の爆風がルトを直撃する。

「うゎぁあああ!」

 走っていったのと同じだけ吹き飛ばされ、シャルのすぐ前の地面にばったりとダウンするルト。何が起きたか分からない、といった顔の彼に向けられたのは、笑顔。歓喜、安心、憎悪、不安、期待、果ては自己嫌悪まで感じさせる難しい笑みと、ただただ純粋に楽しそうな笑みだった。

「ありゃりゃ……運が悪かったかなぁ、てっきりボクもやってると思ったのに。でもまだシャルがいるもん、いい勝負できるだろうなぁ、う~~っ」

「お前目醒め過ぎ。どうするよ? 俺なら勝ち目が無いってちゃんと判断して……」

 一瞬迷ったが、向かっていく方を選んだ。大きく振り被って、鞘ごと目の前の自分目がけて叩きつける。

「それでもっ! 簡単にオルタナを、渡せるか……っ!」

「それでも自分だけ無傷で降参なんて格好悪い事、出来ないだろうなっ!」

 自分が普段からしているように、剣の腹で殴るように受け流される。

「ルトは我慢しててくれ、面白い事になるから」

 彼は相棒を手で制すると、手入れのされていない剣をおもむろに左手へ持ち替えた。

『そらっ!!』

 体を回して肩口から一直線に振り下ろす。手首を返して真上に、腕を狙う。大上段に構え、力任せに叩き落とす。……その一連の動きはまるで鏡に映したように、刃と刃がずれ合う事無くぶつかって互いの足を後ろに滑らせるのみ。

「うわ~あぁ!」

 同時に突き出した切っ先が衝突して、支えきれずに二人ともがたたらを踏むと彼女は心底感嘆して拍手を始める。

「くっそぉ……余裕見せやがって……」

 シャルは意地になって何度も衝突を繰り返した。それこそ馬鹿の一つ覚えのように、何度も。だがその度に全く同じ動きが立ちはだかる。一度弾いては踏み込んでもう一度……、そのうち一発たりとも刃の激突を避けられなかった。そうこうしている内に体力的な限界が訪れて、次の一振りで剣は大きく宙へ舞い上がる。

(俺ってこんなに鈍ってたのか……? 左の腕で、まだ遊ばれてるって……)

「二年も間が空いたらしょうがないって。おし、これでやっと……」

「あ、終わった~?」

 最初はサーカスか何かのように見入っていた十五ルトも途中から段々飽きてきて、いつの間にか倒れたままの十七ルトの背中を木の棒でつっついていた。しゃがんだすぐ脇に灰色の剣が突き刺さるのを驚きもせず一瞥するとルトを背負ってこちらに歩み寄って来る。

「はいっ。ボクこうなっちゃうと長いけど、少しくらい動かしても平気だから頑張ってどこかに逃げちゃって? ごめんね」

 ルトがルトを自分に受け渡してくる。妙な図だが、笑うような気分にはなれなかった。自分たちの居場所はこれで奪われたのだ。

「悪いな、大幅な方針は変えないからよ、新オルタナにとって俺は今まで通りのシャルさ」

「ちょっと待った、殺さないのか?」

「自分の死体を見る程夢見の悪い事も無いと思うけどな……あ、そうだ。俺ならこんな理不尽受けて納得は出来ないし、どうせそのうち取り戻しに来るだろ?」

「――当たり前だろ! 絶対出て行ってもらうからな!」

「分かった、皆にはちゃんと説明しとくから遠慮なく来いよ?」

「はあ? お前、何がしたいんだよ?」

「目的は二つだけだ、住む所が欲しい、出来れば今みたいな大人なオルタナ。もう一つは……お前と戦って一度でも多く負かしてやりたい! あの時塔まで押し入る事に成功しやがったお前を! ……もちろんその後の事も聞いたさ、でも俺には関係ないね」


 何の前触れもなくそれまでいた居場所を取って代わられて、知り合いの目の届く所にはもういられない。シャルの足を向けられる方面は一つしか残っていなかった。オルタナ、メイレンの他にクロク平野でそれまで通り残っている北東のパリフェアを目的地に、シャルは全身に軽い火傷を負ったまま目を覚まさないルトを背負って、平和そのものといった静かな草原を歩く。あれから丸一日経ったがシャルの心中は堂々巡りを続けている。

(なんでいつもいつも僕のやる事なす事、大事な所で崩れちゃうんだよ……! 僕はそんなに我慢が足りないか? 大人しく皆と同じ堕落した生活してれば良かったっていうのかよ……)

 どんどん気分が沈んでいくのが手に取るように分かる。昔から同年代に理不尽に疎んじられた後こうなっているのでもうある程度は慣れたが、今回はさすがに重みが違った。自分の二年を横取りされたようなものなのだから、悔し涙を落としたとて誰も不思議に思わないだろう。

 それでもこの状態の無意味さは身に染みて分かっているので、何とかしてそこから脱しようと画策するが、一人きりではどうしようもなかった。

(こんな時こいつがついててくれればな……っていい加減にしろ俺、こいつが来てから何かと言えばルトルトルトで頼りっきりじゃんか。自分で……あれ?)

 ふと、ある事に気付く。二年前までの自分は、落ち込んだ時どうやって持ち直していただろうか? 思い出せない。いや、本当は持ち直してなどいなかったのではないか。今思うと毎日ずっといじけたようになって、ただひたすらに誰かが殻を破ってくれるのを待っていた風に考えられる。

(そこへこいつが現れて……はた迷惑で馬鹿で恥を知らなくて、時折核心を突くと思えば当たり前の事も知らなかったりする奴だけど。本当に救われたもんだな……)

 ルトと暮らした二年間、ひっきりなしに常識を無視した行動をして時にはトラブルを呼び込んだり時には物を壊されたり、ただただ笑わせてくれたりを繰り返すルトを嗜めたり叱ったり後始末に追われたりしているうちに、いつの間にか後ろ向きな考えの連鎖から引っ張り出されていたようだ。

「ま、お前はそんなつもり全然なかったんだろうけどな」

 陽はさっき頭上を通り過ぎたばかりだが、ルトを降ろして野営の準備を淡々と進める。胸も腹も尻もついでに頭もすっからかんで、髪を入れてもとても軽いルトを背負って歩いて疲れた訳ではない。何気無く振り返ってみてありがたみが見えてくると、ゆっくり横にしてやりたくて仕方なくなったのだ。

(しっかし、二回も全てを失ってから最初得た物に気付くなんて皮肉なもんだな。親父……俺、いや僕、もしかしたらちょっとずつ昔に戻れるかも)

 見ていると気の抜けてくるぽあっとした顔をひとしきり撫でてやってから、シャルも暗くなる前に仮眠をとる事にした。


 翌朝、とりあえずルトを脱がせて、軟膏を塗り直してやる。最初見た時はちゃんと治るのか不安だったが、すり傷が消えた今見ると深刻な状態でもないようで、これなら痕も残らないだろう。頬杖をつき、普通なら見るのも躊躇われるような部位も含めてひたすら手を滑らす。改めて、色気はどこにも感じられない……。

(もうあんまりこいつの裸に抵抗なくなっちゃったな、どうなんだろそれって。……ん~、どんな衝撃受けたか分かんないけど火傷はそこまで酷くないんだから、そろそろ意識が戻ってもいいはずだと思うんだけどな……)

 ちょうどその時、示し合わせたように瞼が上がって、ルトが体を起こす。

「っ!!」

 心臓発作を起こしたかと思った。

「……あれ? ボク町にいたんじゃ……? また気絶しちゃったのか~ってうあうぅ、いたい~、いひゃいよハ~ウゥ。ほっぺつねんないでつねんないで~~」

「タイミングってもんをちったぁ考えろぉ!」

 満面の笑みで怒鳴っている自分が何だかとてもおかしかった。


 丸一日何も口に入れていなかったルトが荷物を軽くしてしまったので、その日の昼過ぎには草原の横断もすんだ。

 シャルはパリフェアには来たことがない。興味を惹かれるような話を耳にする事がなかった為だが、それも着いてすぐに納得した。

「ふえぇ~、岩山に木の足場がついてる~、それに洞窟がいっぱい! ねえあそこ何なのかな? カンカン~って音がしてくるよ、行ってみようよ!」

 ルトの言う通りの、典型的な鉱山の村がそこには広がっていた。地面にはトロッコのレールが敷かれ、昼時な事も手伝ってそこここから作業員の賑わう声が響いてくる。

「ちょっと待てって! 今回は遊びに来たんじゃないだろ。それに見ればすぐ分かりそうなもんだけどな、いかにもな坑道じゃんか」

 メイレンが食糧を生産するように、クロク平野全体に石材を供給している所と考えて差し支えないだろう。しかし物の修復が容易なオルタナでは必要が少なかったはず。ともすると、ここは何かの形で外界と繋がっていると思われる。

「こう、どう?」

(そっからか……)

「あー…………みんなで石と鉄、掘ってる! そんなとこ」

「なるほどぉ!」

(さーてひとまず馬鹿は置いといて、これからどうすっかな? ここで発掘やっててもいいけど……なんか違うんだよな。せめてルト用に武器を用意できないとオルタナを取り返すなんて夢のまた夢だし)

「おい! 危ねぇぞそこのチビ助!」

 ルトが何気なーくレールの縁に乗って、初めて見る景色にキョロキョロしている所に、貨物を満載したトロッコが勢いよく突っ込んできて、彼女の腰に命中した。

「え? ぎゃぅッ! いっちちちち……」

 ルトはぽーんと跳ね飛ばされ、カーブでぶつかった為にトロッコも脱線して積んであった袋が辺りに散らばる。

「う~わ、いちちで済んでよかったなこんなもんぶつかって。すいません、すぐ戻しますから! ん、なんだこれ、黒い……粉?」

「あっそれ! それボクいる! 買えないかな?」

「量にもよるぞ、こいつは東の方からもう注文入ってるんだからよ」

「うんうん、一袋だけでいいからさぁ」

「迷惑ついでにおっさん、もしかして山向こうに抜けるルートがあるんスか? 出来れば通らせてもらいたいんだけど」

 惜しげもなく紙幣を出して口の破れた袋を抱え込むルトの代わりに脱線したトロッコを戻して、外界に出ようとする。ここに滞在するのが何となくイメージにそぐわないのもあるが、シャルも先があると分かると興味が湧いて来ていた。

「なんだ知らねぇのか? ほら、そこを下りてったとこのでかいトンネルがそうだよ。通り抜けは自由だが、太い道をずっと直進してかないと脇道に逸れたら迷いやすいからな、気ぃ付けな」

 男性が指差した方を登っていくとその先は広い下り坂になっていて、家くらいの大きさの穴が口を開けている。中にも人がいるのは薄ぼんやりと確認できるが、その先は何も見えず、どこまで続いているか想像もつかない。

「ふぁ~~、長そうだね~」

「とりあえず飯を済ませたら一気に抜けるとするか」

 なにせ地図で拳ほどある山を抜けるのだ、かなりの距離に違いない。財布と相談しながら、腹を満たせる所を探しに繰り出した。

「んで? その粉は何なんだ?」

 ここの男達はオルタナの崩壊で大した生活の変化もなさそうで、仕事の合間に満足そうに酒を飲んでは歌を口ずさんでいる。外との繋がりの方が強いのだろう。自分のしでかした事を突きつけられる事がないという点では、羽の休まる所だ。

「これ? これはね……んむ」

 そこに混じってシャルは箸で、ルトは髪をあて布代わりにして大雑把に切り分けられた鶏肉を齧っている。二人ともこれが好きで、二年前もルトがこんな食べ方をしてルーズに説教を食らったのを覚えている。

「こうやって炭を混ぜ込んで、こうすると……っと、ほら!」

 いつの間に買ってきたのか(いや、自力で作ったのかも知れない)、木炭を砕いて入れ、卓にあった水を注ぎ、手が黒くなるのも気にせずかき回しだした。ドロドロとしたそれを丸めて紙でくるめば……。

「できた~、爆弾だよ。やってみる? 結構楽しいよ」

 言われるが早いか、それにならう。始めて武器を振るいだした時のように胸が高鳴って、人目もはばからずにそんな作業を繰り返した。

(わ、面白れぇ。そういえば小さい頃からこういうのがやりたかったっけ……、いつから忘れてたんだろ。今なら笑う奴なんていないもんな!)

 特に外紙をねじって油を付ける作業が童心を呼び起こした。オルタナではこんな風に手が汚れる事はすぐさま非難の対象だったから、否応なく潔癖な事しか出来なかったのだ。

「おお、案外いいなこれ。な、まだ残ってるか?」

「うん! うまいうまい、こんな感じで全部使っちゃおう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ