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みつめあい

 長い間そうしていても、頭にかかったもやは晴れない。顔を伏せてうずくまっているうちに自分に近づいてくるトコトコという足音を聞いても、目を上げられない。

「シャル~……」

(僕、ルトの事笑えない位馬鹿だった……もう愛想尽かされたかな……)

「俺、俺、今まで何考えてたんだろう……」

「シャルはルーズのためだけに頑張ってたよね……後の事だってちゃんと決めてた」

「俺、ラムの奴に熱くなって言った……ルールを盾にしてるだけって。でも最近の俺は逆で……色々理由付けて常識を見失ってたんだ」

「……ね! シャルはこんな事しようなんて思ってなかったよね!? 誰がやりたかった事でもないもん! 悪い人なんていなかったと思うよ!?」

 これだけの事が起きても、まだ自分を悪く言ってこない。感謝しなくちゃいけないのは分かっているのに、追い打ちを食らった気分になる。

「そういう事じゃないんだよ! ゆっくり考えて分かった、僕のやってた事は子供の仕返しと一緒で、自分が損したからってだけで隣の世界を食いつぶそうとしてたんだ! 綺麗事ばっかり並べ立ててそんなんに大勢の人を付き合わせて……どんな性根の腐った奴より僕が一番タチが悪かった!」

「となりの、世界……」

 一度に言葉が飛び出したせいで整理が追い付かないのだろう、ルトも顔を突き合わすようにしゃがみ込んでしまう。

「どうしてこうなっちゃったんだろうね……最初はただシャルが、ボクのために外に連れ出してくれただけだったのにさぁ……」

 この言葉が、異様なほど強くシャルの頭に響いてきた。

 ボクの、ために……?

 そして彼の思考は最後の逃げ道を見付けてしまった。通る事は許されない道だが足を止められなかった。

(あ、あ……駄目だ、言うな! それだけは……!)

「……そうだよ、そもそもお前さえ現れなければ……」

 びくんと体を反応させたルトと、目が合ってしまう。二人とも光沢を失った目を互いに離せなかった。ここで視線を捕まえておかなければ、もう二度と顔を合わせられないと思ったから。

「もう向こうの都合なんてどうでもいい、今すぐ消えてくれよ! そうすれば俺はお前の髪だって毎日洗わなくて済むし、お前の起こすトラブルに巻き込まれなくていい! いなくなってせいせいするってもんだ……っ!」

(な、何言ってんだよ僕! どこまで最低なんだ、ルトを護りたい思いは何処に捨ててきた!? もう大事な家族だろ!?)

 一度決壊したら意思に反して言葉が溢れ出してくる。周りの視線が突き刺さるのもどうでもよかった。

 ルトの眼は酷く痙攣している。流石にもう出す物が無くなったか、ならば今こちらを見続けるのは尋常な痛みではないだろう。それでも頑なに目線を外そうとしない姿に、シャルは言い表せないものを感じた。ルトは拙い言葉で何を言っても助けにならないと気付いたのかも知れない。今目を逸らしたら全て終わってしまう、だが逆に見つめ合う事で自分の意思を明確に伝えようとしているのではないだろうか?

 つまりルトはこう言いたいのだ。

 ――ボクはシャルを見捨てないよ。

 ルトなりの慰め方はどんな疑いの念も飛び越えて自分を支えてくれ、シャル自身も安心してそれに応える事が出来た。

(ありがとな……お前、俺よかよっぽど大人だよ……)

 長い間そうしているうちに、少しづつだが落ち着いてくる。埋め合わせになるとは思えないが、照れ臭くていつも言えない言葉を視線に乗せようと頑張ってみると、いつものルトが持つとびっきりの笑顔が返ってきた。

「お前……! もう……大丈夫。ごめん、ごめんな……」

 仰向けに体を横たえたシャルに同じようにして寄り添ってくる。なぜこの温かみをすぐに思い出せなかったのだろう。

「シャル。お願いがあるんだけど、いいかな?」

 怪訝な顔をしていると不意に、ルトの長い髪が覆い被せられる。荒れ放題伸び放題のそれはどんな毛布よりも心地よかった。

「シャルはきっとまだ泣けるよね。ボクぜったい、笑わないから。バカだから、すぐ忘れちゃうから。全部見せて?」

 この性格になってから、他人に一番言って欲しかった言葉を言い当てられて。もうどれくらいに感じたか分からない程久しぶりに、シャルは子供に引き戻される気分を噛みしめた。

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