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療養してた

 玄関口でのフェイさんへの挨拶もそこそこに、私はリビング脇の階段を登っていく。先日の誘拐事件の後、ルトは帰り道で倒れてしまったのだ。外傷は全く見当たらなかったものの肉体に大きなダメージと疲労を被ったらしく、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。だからここの所毎日三時にはベッドで安静にしているルトのお見舞いに来るようにしていた。

 シャルの部屋のドアに手をかける。そういえば小さい頃はよくこの部屋に泊まったっけ……女の子の友達と同じくらい、シャルとは一緒に遊んだ。オルタナに越して来て少し経ってからずっと、彼は何かに興味を示す事が少なくなっていたから自分がいちいちリードしてあげる必要があったが、彼のそばは居心地がよかった。

 何か話をすれば真剣に考えて自分の意見を述べてくれるし、男の子の遊びにも女の子の遊びにもとりあえず付き合ってくれた。面白みは薄くても平等性と平穏がそこにはあった。お泊まりしなくなったのは、一緒に寝るのが憚られる年齢になったあたりか――現在彼は普通にルトと共に寝起きしているのだし、私が意識しすぎていたのかも?

「ルトー。おやつ持ってきたわよー?」

「ルーズ~!」

 部屋に入ると、困った顔のシャルに抱きついていたルトがこっちにも嬉しそうに駆け寄ってきて身を摺り寄せた。私はちょっと驚いて彼女を引き剥がす。

「きゃ、こらっ、女の子がそう軽々しく抱きついたりするもんじゃありません」

 ルトがシャルにくっついているのはいつもの事だからもう見慣れたものだが、あんまり男の子を挑発するのもいかがなものか。

「え~? なんで?」

「普通はそんな事しないし。はしたないと思われるわよ」

「ん~、普通じゃなきゃダメなの? はしたないって思われたらいけないの? あ、はしたないってどういう意味?」

「むむむむ……!」

 屁理屈をこねて、と思ったが、同年代の子が考えている事をあまり頭ごなしに否定するべきではないか。別に自分はこの子の母親ではないのだし……。

「あ! それよりルーズ! わたあめ買ってきてくれた!?」

「あぁ、はいはい」

 私が買ってきたそれを取り出すとルトはさぞかし美味しそうに齧りつく。彼女は食べたいものを聞けば必ず肉か綿あめだ。持ってくるならこんな子供だましの砂糖の塊より、クレープやチョコレートケーキの方がよくはないか? 自分達の舌が肥えているとでもいうのだろうか。

「しかしもう歩けるのね、よかった。寝たきりだと大変だったでしょう?」

「うん! でもシャルがつきっきりで看病してくれたから、そんなでもなかったよ。ヒナ鳥になったみたいだった」

「へえ。いいとこあるじゃんっ」

「まあ元はといえば俺と一緒にいたせいだしな、ルトには悪いと思ってさ」

 そこで違うよ、とルトがシャルの口を無理やり塞ぐ。

「悪いのは全部あいつら。ボクがそうだっていったらボクにとってはそうなの。ね? だからボクはシャルにはありがとうなの」

 ボクがどうか。それがいつもルトの考え方の基準となる所だった。いい意味でも悪い意味でも自分勝手。だから確固たる意見になる。社会的な動きに慣れて人に合わせる事を最優先とするオルタナの風潮と比べて、それはとても好ましく、光り輝いて見えた。

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