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決定打

 ――パリィン……ガチャン。

 窓からよく陽が差し込むとある朝、そのガラスを割って陽光とは別の硬い物が部屋に飛び込んできた音でシャルは目を覚ました。

「んー、何だ何だ……」

 彼の右腕を抱え寄せるようにして寝息を立てているルトを引き剥がそうとするが、なかなか腕を離してくれない。毎日の事なので、もう慣れたものである。

「ほらルト、起きろー。朝だぞ、これじゃ俺が動けねぇから」

「うぅ~、まだ寝足りないよ……」

 まだ覚醒しない意識でベッドに手をついて渋々上半身を持ち上げたルトその人は、初日こそ日の出前に起きたものの実はとても寝ぼすけだった。というより、夜に寝て朝に起きる習慣がなかったようである。丸一日起きている事もあれば、夕方から翌日の昼まで眠っていたりする。お腹が減った時に食べたいだけ食べ、眠くなった時に寝たいだけ寝る、が彼女のスタンスであった。最近は時間移動を繰り返しているというので、それがさらに顕著である。

「窓、割れたの~? 何それ?」

 シャルがガラスの破片を避けながら窓から入ってきた物をつまみ上げる。

「ビンか……? うわ、油かよ!」

 ご丁寧にも底に穴の開けられたビンからはドクドクと黄色い油が溢れ出てきて、さしもの彼も嫌な顔をする。シャルの部屋は二階にあるので、その窓にこんなものがぶつけられるとくれば完全に悪質な嫌がらせであった。ミミズの這ったような汚い字で「消えろ」とだけ書かれた紙まで巻きつけられている。

「シャル……やっぱり、イジメ? ひどいね……」

「……なぁ、お前はどう思ってる?」

 床の油の掃除に悪戦苦闘しながら、シャルは静かに問いかける。どういうこと?と聞き返すルト。彼はルトがどんな思考をするか試そうとしていた。

「どうしてこういう事をされるのか、されるようになったのかって事さ」

 うーん、と一度唸ったきり考え込むルト。正直、ここで「何か嫌がられる事をしたんじゃないか」だとか「虐められる方にも原因があるんじゃないか」とか言うようならば、こいつとはうまくやっていけないだろうとシャルは思っていた。

 歩み寄る努力など、数え切れない程した。自分の方から拒絶してしまったら、彼らはやり直しの機会を失ってしまうから。しかし、全ては無駄であったのだ。

 だがやがてそれも杞憂に終わり、ルトはまるで頭の中を覗き見でもしたように、彼の最も望む答えを返してみせた。

「ん~……分かんない! あと、どうすれば解決するかも、分かんないよ。そんなのシャルが今までずっと考えてきてたはずだもん。ボクがいきなり分かるわけないよ」

「そっか」

 シャルは心底安心し、彼女に出会えた幸運に感謝した。この子になら何も遠慮することなく、自分らしく接する事ができるだろう。すぐに実行できるかはともかく、彼はそれが可能な相手である事を確信し、この日から彼女の事を大切にしようと思うばかりか出来る事なら親元に帰したくないとすら考え始めたのである。

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