その日...2
更新遅く、申し訳ないです。
もう一組のパーティーが来るまでにそう時間も掛からなかった。馬車に近づいてきた男4人が今回の護衛仲間となる人達だろう。
トンガ家族が馬車の前に並び、自己紹介と馬車を守る配置について話さなければならないのでユキ達も彼らを出迎えた。
近づいて来た彼らは予想よりも若く、二十歳を越えてなさそうな青年達だ。扱う武器は『アイテム袋』に入れているようでわからないが、防具からして前衛が二人、斥候一人、魔法使いが一人でバランスも良い。
その中の前衛からリーダーらしき人物がトンガに近づく。トンガは笑顔で出迎えた。
「わたくし、ネコミー商会のトンガと申します。あなた方が今回依頼を受けてくださった冒険者達でしょうか?」
「はい、私達がネコミー商会からの護衛依頼を受けたパーティー、私はリーダーのエーニスです。依頼書の確認をお願いします」
「おぉ、確認しました。道中の安全を頼みますぞ」
「お任せください」
礼儀正しい言葉遣いに人受けの良い笑顔での対応、即席で繕った仮面っぽさが無い自然な受け答えは素か演技かはわからない。が、一つだけユキに解ることがある。
イケメンだ。栗色の髪が風に揺れるとキラキラと効果音が付きそうなイケメン。
整った顔立ちの彼に笑顔を向けられたら年若い娘達が黄色い声を挙げられそうなイケメン。
男達からは舌打ちがプレゼントされるだろう...実際にユキが舌打ちを2回した。
そんな黒い感情と舌打ちの些細な音に彼は気付くことなく、話は進む。
依頼書の確認を終えたあとはトンガの妻娘との顔合わせだ。妻ティリアとの会話にエーニスは丁寧に答え、世辞に美人だと言うていたが、表情は笑みを浮かべたままで眼も怪しい動きはみせていない。既婚者とは言え別嬪にこうも反応が無いと逆に心配になる。
もしかしたら異性ではなく同せ...を好く者かもしれないと考えるも、まだ一刻も経たない内に決めつけるのは良くないかと改め、ユキはふと自分の手に視線を落とす。今の自分に人の事はとやかく言えないと。
気落ちしてる間にトンガとエーニスがよろしくと固い握手を交わしている所を見ると話は終えたようだ。
エーニスが後ろに控えていた男3人と共に近づいてくる。
最初に話し掛けてきたのはやはりエーニスだった。
「あなた方が今回の護衛依頼を受けたパーティーでよろしいですか?」
「はい、今回の護衛依頼を受けた。パーティーリーダーのククです。パーティーは6人。内一人は非戦闘員なのでトンガさんの馬車に乗ります。なので実質的な戦闘員は5人と考えてください。前衛3、斥候1、魔法1です」
「わかりました。では私達の番ですね。私がパーティーリーダーのエーニスです。前衛2、斥候1、魔法1です。お互いのメンバーの紹介が終わり次第に馬車を護衛する配置、戦闘時の陣形や――」
先程までの人当たりの良い笑顔は消えて真剣みを帯びた顔でパーティーリーダー達は護衛についての話を始めた。
会話の内容を省略し、結果だけまとめる。
双方の合意の上で2つのパーティーは一旦統合し、パーティー(仮)のリーダーは護衛経験のあるエーニスとなった。
配置は馬車の前に4、中に2、後ろに3で体力の少ない魔導師は馬車の中で待機となる。
魔物、もしくは盗賊と遭遇した場合の陣形は前衛が4、後衛が2、そして護衛に前衛1、斥候が2だ。
夜営時の見張りは各パーティーから一人ずつ選出し、交代で三回。
後は緊急時のことが教えられたりしたが、ユキが1番驚いたのは食事についてだ。
パーティーで用意するのは非常食のみで食料はトンガ夫妻が用意する、とのことだった。
もちろん人数が人数なので協力必須らしいが。護衛依頼では依頼主が全員分の食料を用意するのは義務らしいので受付嬢の伝え忘れだろう。あの後は領主の不正発見や記憶消去などをやっていたので忙しかった。
しかし幸いユキには〈アイテムボックス〉があるで買ったものは腐らないし、無駄にはならないだろう。
エーニス達との打ち合わせは終わり、出発まで各々の自由となった。周りからエーニス達が離れると同時にククが脱力。石畳の上に座り込んだ。
「あ~...だれかリーダー代わってください~。疲れましたのです~!ふにゃあ~...」
「よしよし~、頑張りましたねー。そしてあと三週間頑張りましょうーククさん」
「はふ~...」
「お疲れ様です。お水をどうぞ」
「...ありがとね」
話疲れたククにユキが労いの言葉を掛け、頭を撫でる。愚痴を溢すククにルティアがシエル特製キンキンに冷えた水を渡しながらユキと同じく労いの言葉を掛けた。
「よし!頑張ろう!」
暫くすれば機嫌も治り、パーティーの前衛を集めて配置の相談し始めた。斥候の配置は決まっているのでククと誰が組むのか話し合った結果、「ユキ様の危険は私が排除します。さすれば次いでに馬車も守られるでしょう」「私とユキ様は主従の関係です」とどうしてもユキと離れたがらないスカーの事もあったのでカリナが組むこととなる。前がユキとスカー、後ろをククとカリナの配置に決まった。
出発までの余った時間は緊張でピリピリした空気になることもなく、いつも通りに雑談をして時間を潰した。
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ガタガタと揺れる馬車の音を背後に聞きながら門番にギルドカードを提示する。やる気の無さそうな門番は一瞥しただけで簡単に通してくれるのは不用心だと思うたが、わざわざ注意することも無いだろうとユキは足を動かした。
無事に南門を抜けたユキが振り返ると大きな防壁に遮られて街並みを観ることは出来ない。だが“初めての異世界で、初めての街”は大変な経験と共に思い出として心に残り、鮮明に思い出すことができる。
閉じた瞼に浮かぶ情景に浸っていれば、スカーに肩を叩かれて現実へと意識が戻った。もう馬車も、人も外に出れたらしい。ユキは慌てて配置に戻ると馬車が目的地へと前進し始めた。
「どうされましたか?」
先程の場面を見られていたのだろう。歩きながらエーニスが心配そうな眼をユキに向けていた。
「いや、何でもないよ。ただ居た日数がそう多く無いのに、この街を離れる事を考えると何とも言えない不思議な気持ちが浮かんできてね。寂しいのか、何なのか解らないけど、つい見つめていたんだ」
「ああ、なるほど。その気持ちは理解できます。生まれた街を出る時や、長く滞在した場所を離れる時に私も同じ気持ちを味わったことがあります。まぁ回数を重ねる毎に薄れてしまいましたが...ルッフルはどうだった?」
「......」コクリ
「ですよね。はい」
うんうんと懐かしそうに頷いているエーニスとルッフル。前の護衛担当はこの二人のようで斥候の名前はルッフル。ルッフルと言うと甘いお菓子を思い浮かべそうなのに、本人は目付きが鋭く喋らない寡黙な人だ。返事は頷くか横に振るだけ。あれでエーニスは意志疎通が出来るらしい。
何故できるのか気になっていたユキに気付いたのか、エーニスは苦笑いで教えてくれた。
「私達...後ろにいるアルドとマグトもだけど、みんな同じ村を出た幼馴染みなんだ。ルッフルの事も仲良くしている内に...かな。悪いやつじゃ無いからできるだけ仲良く欲しい」
「...考えておきます」
「ありがとう」
薄く微笑んだエーニスに内心「あなたと仲良くなってませんが」とも思ってしまうが、さすがに言葉にしてしまうとまずい。無難な返事を返した。
ちなみに敵を見つけた場合の知らせる方法はハンドサインだそうだ。
「ヒヒーンッ、ブルルゥ」
馬の嘶く声に振り向くとトンガがそれに気づき、御者台から手を振ってくれる。ユキは振り返しながら荷台を盗み見れば、ルティアとローニャが仲良く話しているのをティリアが優しく見守っているのが見えた。
「守りたい、傷一つ付けさせないように頑張ろうスカー!」
「ご命令とあらば...」
嫌々ながら返事をした雰囲気を感じたユキは、結果守れば問題無いと満足げに頷いた。
ちなみに魔導師のシエルとマグトは2台目乗っているので姿は見えない。そちらの馬車はお弟子さんが御者をしていると後々紹介された。20歳くらいの青年である。
まだ肌寒く感じる草原を走り、一行はカルネクト王国へと進み始めた。
行き先の国名を変更しました。その日...1修正。
アルカイト王国→カルネクト王国