ご褒美と買い物と...
更新が遅くなり、すいません。
冒険者ギルドを出ると日射しがサンサンと降り注ぎ、手で目元に影を作って空を仰ぐと地球よりも大きく見える太陽が真上を通るところだった。つまり、今はお昼時。なので大通りには沢山の人が道を歩き、賑わっていた。
屋台から漂ってくる美味しそうな香りにユキの腹の虫が騒ぎだし、空腹を訴えてくる。これからの事やスカーへの褒美についてなどを頭の隅に一旦置いとくと、今日のお昼はどうしようかと頭がいっぱいになった。
斜め後ろに立つカリナを背の差ゆえに仰ぎ見ながら、ユキは問う。
「お昼をご一緒にいかがですか?」
「ごめんなさい、シエルと約束をしているのよ。だからまた今度お願いするわ」
「ユキ様の誘いをこと......」
「ううん、用事があるなら仕方ないよ。じゃあここいらで解散しましょうか。今日にでも行くらしいので、お家に帰っちゃダメですよ?」
「わかってるわよ。それじゃこの借りはいずれ、ね」
余計な事を言いかけたスカーの足を蹴り折りながら笑顔で返事を返す。あれは借りを作る目的でやったわけじゃ無いユキだったが、カリナの押しに負けて今回のことは貸し一つになった。ユキはいまだに納得いかない。
御飯の誘いを断られて、若干落ち込みながらも別々の行動となり、ユキとスカーは二人で大通りを進んだ。
「らっしゃいらっしゃい!オーク肉の串焼きはいかがかねー!一本30リルなのにこの肉厚なお肉はお買い得だよー!ピリッと辛くて美味しいよー!」
「いっらっしゃいませ~。リリルフィッシュの塩焼きはいかがですか~?リリル川から届いたばかりの新鮮なリリルフィッシュなので美味しいですよ~♪」
大通りでは客寄せのために呼び込みをしている屋台が多く、食べ物の種類も豊富だ。仕事休憩の人狙いのためかボリュームもあり、どれにしようかと迷ってしまう。
「お、あれなんか良いんじゃない?」
人の波に流されながら外に点々とある屋台、正確には料理と集客率を見ながら歩いていると懐かしい見た目の料理を出す店が目に入り、足を止める。ユキは同行者のスカーに軽く聞くと思わぬ答えが返ってきた。
「品物名はホットドッグ。初代勇者が初めて作ったと言われるソーセージをパンに挟んだ料理ですね。横長のパンに切れ込みを入れ、野菜とソーセージを挟み、最後にトマトソースをかけるという調理法です。1個あたりのお値段は50リンで、ここ一帯では人気の屋台なので味も保証できます。屋台の待ち時間は...15分くらいかと。どうされますか?」
「うん?...え?」
ただ食べたいか、食べたくないかの意味で聞いたユキは、その屋台の情報を詳しくペラペラと喋るスカーに返す言葉が見つからず、意味の無い返事が洩れた。まるで何回も来たかのように詳しい。
「食されますか?」
再度問いかけられる質問に今度はちゃんと答えることができた。
「う、うん。今日はホットドッグにしようかな」
「それでは買って参りますので、あちらのベンチでお待ち下さい」
銅貨を5枚ほど取り出してスカーに渡す。いつもと変わらない表情でスカーは銅貨を持ったまま屋台にできた列の最後尾へ並んだ。
冷静になったユキは考え事をしながらも大勢の人が入り乱れる人混みをぶつかることなく、スカーに指定されたベンチに座りこむ。
そこで気になったスカーのあの知識について原因を考えて...ユキは考えた末に結論を出した。
きっとスカーは一人で街に遊びに行ったのだ。最近はユキ一人で行動することも多く、その間はスカーは自由。ある程度お金は渡してあるので、買い物とかにでも行っていたから詳しかったのだろう。
ユキは自分以外に興味を持つことに嬉しさと若干の寂しさを感じて屋台に並ぶスカーを見つめる。それはまるで初めてお使いに行かせた我が子を見守る母親の気分で...
実際はユキが欲しがりそうな料理や良い食材、さらには良い武器や防具などを調べるために店を回り、情報収集をしていたからだが、ユキはそこまでは思い付かなかった。
スカーが常に考えてることは主のこと。自分から動くのは主のため。主のため害になる者はこっそり影から消す。餌付けされたスライムの忠誠心はとても重い。
「お待たせしました。ホットドッグを一つおまけしてもらって11個、熱々らしいので気をつけて下さい」
「おー、ありがとう!カプッあつ!ふーふー...パクッもぐもぐ...美人はお得だよね~、モグモグ、それ以上に面倒なことばかりだけども...知ってるのと違うけど美味しい。あ、スカーも食べなよ。冷めちゃうよ?」
「ありがとうございます。それでは一ついただきます。パクッ...我が主が食すにはまだ改善の余地が...仕方無いだろう」
口に含んだ瞬間、溶かされるホットドッグ。味わってないだろうと言われても仕方がない速さだが、驚いた事にちゃんと味を理解し、料理のダメ出しと改善点をぶつぶつと呟いている。手にあるホットドッグの残りを口に入れて食べ終えた。
「はぁ...」
もっと良い店を調べたスカーにとってはいまいちな料理。挟んだ野菜は少しへたってるし、少し焼き過ぎだ。それを誤魔化すように濃い味付けに溜め息が出る。
だが安全性と味は屋台での中でも上位に入るし、なによりユキが食べたいと言った料理なのでスカーの評価は真逆に変わるし、今は大好物だ。作り方は簡単なので、これよりも美味なるホットドッグをユキに作ろうと心の中で決意した。
しかし、もっと美味しい料理を今食べてもらいたいスカーは、いつの間にか持っていた物をユキに差し出した。チュロスのようなものを。
「ユキ様、こちらもいかがですか?」
「うん?ありがとう。パクッ...うまー!なにこれうまー!すごいよスカーこれ!どこに売ってたの?」
「僭越ながら私が作りました。お口に合ったようでとても嬉しく思います」
「え、あ、すごい!〈料理〉スキル高!Lv4なんていつの間に...ねぇねぇスカー?また作ってもらえるかな?」
「喜んで...喜んでお作りしますよ」
「やったね!んじゃそろそろ行こうか!」
立ち上がり、前を歩くユキの半歩斜め後ろを追従するスカーは珍しく笑顔のままだった。それに見惚れる通行人通行人の何人かは気付いたのだろう。顔色を悪くし、震えながらスカーから遠ざかる。なぜなら...よくみればその笑顔には隠された狂気が覗いてるからだ。
突然出たこの料理は〈変質〉を使い、体の一部をオススメ料理に変えてユキに出し、嬉しそうに食べてもらえる事に歓喜している笑顔なのだから......
満腹になったユキとスカーは大通りに構える店で旅に必要な道具を買い揃える。
野宿用のテント等はもちろんのこと、約1ヶ月以上の食料と水を6人分まとめて購入し、腐らないようユキの〈アイテムボックス〉にしまう。他にも鍋やフライパン、鉄網のような物にコップや皿等、前に買っておいた物でも予備として購入し、思い付く限り買いまくった。
段々と買い揃ってきたところで一件の店に足を止めた。この街に来た初日にずいぶんと濃い店長が居た店であり、実力差による恐怖から女物の服しか貰えなかったが...あの頃よりも強くなった。今なら男物を手に入れられるかもしれない。そう思ったユキはゴクリと喉を鳴らしてドアノブに手を掛ける。
「スカーはドア付近に待機し、退路の確保を。どんな危険な事が起きても冷静に判断して。ボクが目的の物を購入したらすぐ撤退するからね。それから相手を刺激しないこと...良いかな?」
「あの、ユキ様...」
「ふぅ、緊張して震えが止まらないぜ。これが成功したら今日の夕食は豪華にしよう。というかしてもらおう。うん」
「こんなことを聞くのもなんですが...この店はただの服屋だったと記憶しております。危険無かったと思いますよ?」
スカーが困ったような顔でユキに店を告げるが、もうユキの耳に入ってないのか覚悟を決めた顔で勢いよく扉を開いた。
キィッ、バン!
「いらっしゃいませ~♪あら?あの時の子じゃない!また来てくれたの?私とてもとーっても嬉しいわ~♪♪」
陳列棚を整理していたのか、曲げた腰を伸ばしてゴキゴキと鳴らしながら振り返ったその人。
ユキを見た途端元の低い声を裏声を使って高音に変え、それでも男と判断できる黄色い声をあげるその人。
白を主体にピンクで可愛く着飾ったフリフリの服は、さながら魔法少女のようなヒラヒラで可愛かっただろうそれを、筋肉が逞しくついた肉体で着るとピチピチに張りつめるさせて着たその人。
ユキが初めてブラの付け方を教えて貰ったその人、エリアルスが客としてきたユキ達を歓迎した。
そして視線がインパクトのあるエリアルスに向けられている時、陳列棚から何かを隠そうとして動くその腕をユキは見逃さなかった。
戦闘時のように踏み込み、加速すると魔導具の『アイテム袋』へ仕舞われる前に欲しかった商品を掴んだ。エリアルスはユキに女物の服を買わせたいようで前に来たときは隠されて、あっただろう場所には何も無い。
しかし、この街に来たばかりの頃よりも上げに上げまくったレベルによるステータスは伊達じゃない。きっと仮面を取ったら喜色満面の笑顔で仕舞うのを諦めたエリアルスから品を奪い取り、キレイに折り畳まれたそれを広げれば...
丈が2あるか無いかくらいに短く、男性で履いている人はほぼいないであろうそれは、女性物のショートパンツだった。
ユキは手に取ったそれをまじまじと見た後、スカーに見えるように掲げる。
「スカー!やったよ!半ズボンがあった!」
「それはようございました」
「あ~ん、見付かっちゃった♪見つかったなら仕方ないわね~♪黒のショー...半ズボンだけど、買うかしら?」
「買います!」
「そう言えば倉庫に後2着ほどあったかしらね~♪確か同色で」
「それも買います!」
「これからどんどん暑くなってくる季節ね~。そうなると半袖が欲しくならないかしら?」
「え?う~ん...なります、かね?良いのあるんですか?」
「これなんてどうかしら?薄くて通気性も汗の吸水性も良いのよ。ポイズンキングスパイダーの糸を使ったから滅多なことじゃ破れないし、濡れて透けることもないの♪元が黒色の糸で作ったから黒色の服だけど、上品な色合いに仕上げたわ♪そ、れ、に...黒が好きでしょ?縫い間違えて肩が出てるけど...逆にデザインも良くなって性能抜群なのよ♪♪どうかしら?」
「うぇ?えええぇっと...買います!」
「他にも......」
こうしてエリアルスに言われるがままに服を購入していき、ユキの体型に合わせるとかで奥の部屋へと引っ込むエリアルス。ユキは「良い買い物をした!」と言わんばかりの笑顔を浮かべた。
そんなユキにスカーは疑問に思ったことを質問する。
「ユキ様、それほどズボンが買いたかったのであれば、他の店で買うというのもあったのではないでしょうか?」
何もこの店に拘らなくてもいいのにユキがこの店で服を買う理由がわからなかったのだ。
ユキはその質問を少し困ったように答えた。
「確かに他の店もあるし、買ってみたりもしたんだ。でもね?肌触りと着心地が全然違うんだよ!この店はごわごわしてないし、サイズもピッタリとかじゃなくてその人の好みに合わせて調整してくれるんだ。エリアルスさんが作った服を着てしまうとこの街の、他の服は着られなくなっちゃうよ!」
「...つまり、品質と職人の腕が他の店では劣るということですか?」
「うん、ぶっちゃけるとそうだね」
この街の服屋に喧嘩を売るような事を平然と言ってのけるほど、この店の服は良かったとユキは語る。
スカーが感謝の言葉を言うと同時にエリアルスが服の調整が終わった服を持ってきた。ユキは代金をポンと出して〈アイテムボックス〉に仕舞った。
「服、ありがとうございました。近日中に街を出るので、またいつお会いできるかわかりませんけど、また会いましょうね」
「あらぁ、そうだったのね...お姉さん寂しくなっちゃうわ。この街に帰ってきたら絶対に会いに来てほしいわ♪」
「ええ、わかりました。それではまた」
お別れの言葉を伝えたユキはスカーと共に店を後にする。明日にはポックリ逝ってるかもしれないこの世界でも、あの濃い店長にはまた会えそうな予感を感じながら、ユキとスカーは帰路につく。明日はいよいよスカート以外をやっと着れるとユキは上機嫌だった。
その後、ご褒美の件を思い出したユキは夜寝る前にスカーを呼び出し、膝枕&耳掃除をしてあげると鼻血を出しながらも喜んでくれたようです。
お読みいただき、ありがとうございます。