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この件はこれで終わり

...すみません

久しぶりの更新です



 ククに素顔を打ち明けた夜から一夜明け、翌日。ユキはギルドマスターに会うために冒険者ギルドへ訪れていた。正確には休んでる病院のような施設とか、宿とかを聞くためである。あんなに重症を負わせてしまったのだからさすがに動けないだろうと思うが、この世界には魔法やポーションがあるので治らないと一概には言えない。


 宿を出る前にスカーが着いていくとユキから離れようとしなかったため、今回はスカーも同行している。


「あ、ユキさん。丁度良かった。ギルドマスターがお待ちしていますよ」


 受付の列に並び、ユキの順番で対応したのはここ数日お世話になっているレミリィだった。仕事の時間割りはわからないが、こう何度も会うと狙ってやってるのでは?と思ってしまうが、ただのまぐれだろう。

 そんなことよりも、驚いたことにギルドマスターはもう治ってるということだ。何ヵ月単位で治療しないと治らないような傷だったのだが、さすがファンタジー。それともただギルドマスターが見た目通りのタフな男だった、のかもしれない。

 昨日の約束のことが気になるユキは、案内のために前を進むレミリィの後ろを続いて歩いていく。当然一緒にいたスカーもついてくるがーー。


「あ、すみませんスカーさん。ここからは関係者以外立ち入り禁止なんです。ユキさんしか許可されていないので、あ、ち、ら、でお待ち下さい」


「む...私はユキ様のパーティーメンバーであり、従者でもあります。よって一緒に行ける資格があると思いますが?」


「ふっ、ギルドマスターが呼んだのはユキさんだけで、それ以外の者は入れません」


「あなたは?」


「私ですか?私はユキさんの案内をしなくてはなりませんし、なによりも関係者なので入ることが許されているんです。わ、た、し、は!」


 二人の視線が交差し、間からはまるで火花がバチバチと見えそうなほど睨み合う。

 ただし、スカーは悔しそうに睨んでいるのに対して、レミリィは勝ち誇ったようなドヤ顔だ。二人の表情から見ても勝敗は明らかである。

 もはや口論では勝てないと悟ったスカーはすがるような目でユキを見つめた。その目を見たユキは理解したように頷く。スカーはそれに希望を見出だしたがー。


「うん、まぁそういうことなら仕方ないよね。スカーはここで待ってて」


「くぅ...わかり、ました。有事の際はお呼びください...」


 レミリィの方に同意しただけだった。

 最後の希望を砕かれたスカーは絶望した表情で肩を落とし、とぼとぼと壁際に歩き出す。そこを好機と見た冒険者達が勧誘、もといナンパをしようと席から立ち上がった。


「それではユキさんこちらです」


 そんなスカーを視界から無くしたレミリィは笑顔でユキをギルドマスターのいる部屋へと案内するために前を歩き始めた。

 ユキもついていくが、ふと足を止めると小声で「スカー」と呼び掛ける。普通なら聞こえない距離だろう。だがどんなに小さな声でもユキの声を聞き逃さないスカーはぐるんと首を回して呼び掛けに応じた。一緒に行けない悲しさと悔しさ、ユキに呼ばれて嬉しさが半々で混ぜられたような複雑な表情でユキを見ている。

 そんなスカーの目を見返しながら、先程と同じ声量で言葉を続けた。


「大人しく待ってたらご褒美をあげます」


 変化は即座に現れた。

  複雑そうな顔が真面目で凛々しい騎士のようにキリッとした表情になり、邪魔にならない壁際で姿勢正しく立つ。やる気に満ちた瞳は真っ直ぐ前を向いていて...男装してたらすごく似合いそうだ。スカーを『お姉様』と慕っている女冒険者達も立ち上がっていたが、今のスカーなら捌ききれるだろう。

 機嫌の治ったことに安心したユキは、レミリィとの間に空いた距離を縮めて後ろについていった。



 コン、コン、コン


「ギルドマスター、ユキさんをお連れしました」


「...入れ」


「失礼します。ユキさんこちらへ」


「失礼します」


 昨日も使った部屋の前できっちり3回、扉をノックすると中からギルドマスターの声が聞こえた。

 先に入室したレミリィに促されて部屋へと入る。ソファーへ視線を動かせば、そこには無傷でユキに手を振るギルドマスターが見えた。...何故か対面のソファーには見覚えのある後ろ姿も確認できる。


「おう、ちょうどいいタイミングで来たな。呼ぶ手間が省けた」


 ギルドマスターが視線をユキに向け、それを追うように座る女性が頭を動かす。ユキを薄茶色のポニーテールを揺らして振り返った顔は話の中心人物、カリナだった。


「えっ、ど、どうしてカリナさんが?」


「それはこっちのセリフだけど...ギルドマスターが軽く説明してくれたわ。冒険者ギルドに入って呼び出し受けたから私が何かしたのかと思って来てみればね?あんたが私の家の事、それも私に内緒で進めていたのを知ったのよ」


 つまりこれはカリナさんが偶然知ったとかそういうことではなく、ギルドマスターが教えたということになる。知られたくなかったユキはどういうことかとギルドマスターを睨んだ。


「納得いかねぇ、て顔をしながら睨むな。大方なんで教えたのかって怒ってるんだろ?」


「それはっ...」


「嬢ちゃん。今回の目的はカリナの令嬢としての記憶を周りから消すことだろう?なら記憶を消したあとにカリナがその事に知ってなきゃいけないだろ。消したことを知らないで戻った場合、屋敷の野郎共からしてみれば上玉の別嬪さんが来たから襲うだろうし、もしかしたら思い出してしまうかもしれない。そんな敵地に何も知らないで入ることになったらカリナが困ったことになる」


 今気がついた、とばかりに目を見開くユキをギルドマスターが呆れたように溜め息を吐いた。


「...嬢ちゃん。ほんとにわからなかったのか?ちょっと考えればわかるだろ?カリナを助けたかったってのは嘘だったのか?」


「そんなアホな子を見るような目で見ないでください!今回はちょっと冷静さに欠けていたと言いますか、頭の大部分カリナさんを助けることに使ってたからです。冷静に物事を考えればボクだって簡単に気づいてましたし、それほどカリナさんを助けたかったんです!」


 ユキは胸に手を置いてアホではないと主張を述べる。自分はアホじゃ無いと、カリナを助けたかったのは本気だと強く言い切った。

 それをギルドマスターはニヤニヤと、カリナは信じられないような顔で、レミリィは鼻息荒くユキを見ていた。

 三人の顔を見たユキはカリナの反応を見て理解した。ギルドマスターがユキに言わせたかった言葉を。


「ユキは...なんで私を助けてくれるの」


 カリナにはわからなかった。

 初めて会ったときは怪しい格好だったが、ルティアを助けてくれたことから悪いやつじゃないと思っていたし、パーティーに入れてからは信用できると思うようになっていた。

 だが優しいのはわかるが、今は疑いの方が強い。隠していた実力も、容姿も驚きだし、なによりここまで厄介事に首を突っ込む理由がわからないのだ。

 そんな疑問がカリナの口から洩れる。


「仲間を...友達を助けたかった。自分には助ける力があり、できるのなら今まで助けられてきた分をこれから返していきたい。だから生きて欲しいんだよ」


 笑顔で、けれども真剣さを帯びた言葉で自分の想いをカリナに伝えた。


「私は...死ぬ覚悟だってできてたのよ?あんたはそれの邪魔をしたのよ。やっと祖父母と、母様に会えるのに...」


 この成り行きを見守る方針なのかギルドマスターとレミリィは静かで、カリナの声の震えもユキに伝わる。

 「祖父母と母様がそれで喜ぶとでも思ってるの?長生きして欲しいと思うはずだ」とか定番だろう。が、ユキは違った。死人に口無しとあるように亡き人は何も語らない。過去を掘り起こすよりも未来に希望を持てた方が気持ち的に良いと考えて、ユキはカリナに優しく話しかけた。


「死ぬ覚悟をしてるってことは本当は死にたくないって、生きたいと思ってるなら助かる道を歩こう?ルティアちゃんとククさんを入れたパーティーで世界を見て、冒険して、美味しいものを食べて...これからもっと楽しくなるよ」


 ユキはカリナとの距離を縮めるために歩き出す。


「ボク達と一緒にいこう」


 カリナが座るソファーの前まで近づいて立ち止まると右手を差し出す。この手をとればカリナは一緒に行くことの意思表示となるだろう。とらなかった場合は拒否となる。しかし、カリナはこの手をとるという確信がユキの心にはあった。

 事実、カリナはおずおずとゆっくりした動作でユキの手をとった。  


「これからもよろしくね」


 にっこりとユキが微笑みを浮かべると、カリナも固かった表情が和らぎ、「ありがとう」と笑顔で感謝を伝えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「すみませんお待たせしちゃって。それじゃあ〈闇魔法〉であの屋敷の人達から記憶を消すのはどうなったのか、教えてくれますか?」


 そう本題に入るまで数分間か、数十分か、わからないくらいの穏やかな空気が過ぎた後だった。カリナとユキは並んでソファーに座りギルドマスターと対面する。レミリィはギルドマスターの後ろで控えていた。


「いいって、良いもん見させて貰ったくらいだ。で、〈闇魔法〉に関しては問題ない。頼んだらOKを貰ったからな。3日以内に終わらせてくるそうだ。な?」


「私の事を隠さないならちゃんと紹介してください」


「いやいや、部屋に入ってきた時点で隠す気無かっただろ。ふぅ、嬢ちゃん達ならギルドの受付でよく会ってるよな?彼女...レミリィが〈闇魔法〉が使えて、記憶を消してくれる約束をしたんだ......はぁ、俺のコレクションが一つっいだ!」


「ぐちぐちぐちぐちと、いっぱいある中の一つくらいでなんです。いい加減にしてください」 


 レミリィがここにいる理由は薄々と気付いていたが、目の前で言われると現実味がある。探しても動きに無駄が無いので実力もあるのだろう。知らない人よりも知ってる人の方が信用できるユキにとっては喜ばしいことだった。

 それと同じくらいギルドマスターへの遠慮の無い言動には少しばかり驚かされる。愚痴り出したギルドマスターを軽く叩いただけに見えたが、ギルドマスターのスキンヘッドに当たった一撃はベチンッ!と音がしてとても痛そうだ。きっともみじが後頭部に出来てるだろう。ギルドマスターだから心配はしなかった。


「ぐぉおお、いてぇ...」


「あの~」


「ん?なんだい嬢ちゃん」


「ボクが出来ることはありますか?」


「ああ、嬢ちゃん達にやってもらうことはない。全部こっちで済ませるぜ。しいて言えば...レミリィに直接お願いすればやる気も上がるんじゃないか?」


 痛がるふりをしていたギルドマスターが、何事も無かったようにユキの質問を返した。後ろを向いた時、もみじのように綺麗な手形が付いていたのは黙っていることにした。


 とりあえず、ギルドマスターの助言通りにしようとユキはレミリィの側に近づく。自分の事だからとカリナも一緒に並んでレミリィの前に立った。


「レミリィさん、よろしくお願いします」


「自分の事が何も出来ないのは歯痒い思いだわ...レミリィさん、よろしくお願いします」


 ユキは真剣に、カリナは自分を責めるように顔をしかめながら同時に頭を下げた。

 頭を下げてる途中、レミリィがユキのつけている仮面から伸びる糸を切るために腕が消えるような速さで動かすが、まるで予想してたかのように頭を少し横へ移動させ避けた。それも隣のカリナが気付かないほど自然な動作で。

 どうしても素顔を見たいのか2、3回繰り返したが、どれも空振りで終わり、レミリィは諦めたようだ。


「ちっ......お二人とも顔を上げてください。困っている人(美少女)がいて、私の力で解決出来るのであれば助けたかったのです。私に任せてください」


 とても小さな舌打ちを聞き取りながら頭を上げる。ギルドマスターの話は本当だったのだろう。顔を見られた覚えが無いのに狙ってきたのは変態の本能的な何かだろうか?

 ユキがレミリィへの評価を数段下げることにした。


「ありがとうございます。それじゃスカーとこの後予定がありますので、ボクはこのへんで失礼します」


「おう、後は任せな」


 ギルドマスターの返答を聞き次第、足をこの部屋唯一の出入口たる扉へ向ける。ギルドマスターとの勝負で頼まなくていいとの事だったが、ユキの身を守るとは言っていない。捕まる前にこの場から撤退したいユキは理由をつけると、部屋から出るために歩き出した。


 途中カリナの事が気になってチラリと後ろを振り向けば、レミリィの視線がカリナに向けられていた。その視線はさながら肉食獣。ターゲットを見る目付きだ。


「カリナさんも行きましょうよ!」


「え?あ、そ、うね。ギルドマスター、レミリィさんありがとうございました」


「いつでも相談に来な」


「ちっ......貴女達の進む道に幸あらんことを」


 どうやらレミリィは表面上取り繕っているようで舌打ち以外は完璧だった。聴覚が人よりも良いユキだけにしか舌打ちは聞こえないので、実際には完璧なのだろう。見送りの笑顔に恐怖を感じ、歩く足の速度が上がった。



 執務室を出て受付フロアに戻るとスカーの周りに気絶した冒険者がそれなりに転がっていて異様な光景となっている。どれも幸せそうな顔をしていたことに冒険者ギルドを出たあともスカーには聞けなかった。



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