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屋敷へ不法?侵入!



 日が沈み、夜のとばりが落ちてくる頃。

 街灯に照らされた街中は昼間とはガラリと変わり、静かな時間が流れる。酒を飲む赤ら顔の男や女などが点々と見えるが、昼間と比べたら人は少ない。犯罪に手を染める者や怪しい服装の者が裏路地に消えたりして夜は過ぎる。この時間に外出する子供はいないだろう。


 領主の屋敷の近くには人気の酒屋がある。酒屋で働くのは親父と呼ばれる強面のおっさんだ。ここに飲みに来る常連客はそんなおっさんをいつも親父と親しんで呼ばれているだけで、実際に血は繋がっていない。しかし、おっさんの面倒見のいい性格から自然に親父と呼ばれるようになったのだ。おっさんはそう呼ばれるのを好ましく思い、いつも楽しい日々を過ごしていた。

 今日もいつもと同じように店を開く。看板を着けて明かりを灯し、今日も開店だ。客が来る前に中へ戻ろうとするが、ふと...月が目に入った。今宵は赤と白、両方の月が満月で、珍しさに目を細めると人影が横切るのが視界に入った。昔冒険者だった親父で目には自信を持っていたが、それは瞬きすると見えなくなる。

 不思議に思ったが、店はもう開いてる。仕事をする内に忘れてしまうような、何てことはない事。

 ただの見間違えだろう。今日も荒くれ共の相手をしに店へ戻った。



「ちっ、侵入出来る所が無い。どうしようかな...へくちっ!」


 肌寒い夜風に身体を冷やしながら目の前の屋敷を忌々しく見つめる。屋敷の周りを探ったが、屋敷を覆うように結界が張られていて空から侵入は無理。

 その結界はおそらく球体状に張られているようで地中から侵入も駄目。

 残りは正面にある門だが閉じられている上に門番が二人いる。やる気は無さそな奴等だが。


「やっぱり穴を開ける、もしくは壊すが手っ取り早いかな?でもシルファールの家は接触すると警報が鳴るらしいから人が来るからなぁ...ふむぅ...」


 屋敷に誰にも気付かれずに侵入する方法を考えるが、中々思い付かない。今のところカリナの周りには誰もいないのでまだ大丈夫だろうが、早く助けたいと思うユキは焦り始める。

 結果、考え付いたのはあまりにも単純だが、実行するには難しい案となった。


 ーー結界に穴を開ける。


 これがユキの選択した侵入する方法だ。警報が鳴る場合を考えて裏側に周り、鍛冶屋に手入れをしてもらってキレイになった[風魔の剣]を装備すると〈闇魔法〉を剣に纏わせる。

 刀身が暗闇に溶け込むように視認が不可能なほど黒く染まっていくのはいつ見てもカッコいいとユキは思う。体内の魔力を動かすことには大分上手くなり、魔法を以前よりもスムーズに発動出来るようになっていた。


「寝てる時以外は常に魔力を巡らせている甲斐があったよ。さてと、これで行けなかったらその時に考えようーーか!!」


 助走をつけてからの跳躍、勢いを殺さずに闇を纏った刃を結界に叩き付けた。魔力同士がぶつかり合い、火花のように黒と白の魔力が弾けて辺りに散る。固い物を斬ったときのような衝撃が剣を伝って手に響き、手に届くが〈衝撃吸収〉のおかげで痺れることは無い。だが肝心の斬る感覚は感じられなかった。


「っ!さすがに易々と通してくれないか!」


 剣から霧散する魔力を込め直しながらユキは愚痴った。幸いにも守ることに特化してるのか警報は鳴らなかったが、結界は健在だ。人一人入れる隙間が出来れば万々歳なのに。

 だが結界も無傷という訳じゃない。徐々に刃が進んではいる。ただ時間がかかるので勘のいい奴なら気付かれてしまうだろう。その前にーー押し通る。


「せいゃああああーーー!!」


 体内の魔力を巡らせて身体中の細胞に魔力を込める。これは力が上げる〈魔闘気〉をユキなりに解析して作り上げたものだ。皮膚、筋肉、骨、内臓と強化を施して全体の身体能力底上げする。

 まさに力業で強引にこじ開けるのだ。


 結界に穴を開ける効率が増すと数分もしない内に刀身が結界の内部に切り入れることが出来た。後は簡単だ。ユキは剣を仕舞い、両手を裂け目に突っ込むと左右に引っ張る。周りが脆くなってるのか、切れ目が広がるとユキが通れるくらいの穴が開く。

 結界内に穴から入り込んだ。約5m程の高さから落ちるが音も立てずに着地し、辺りを見渡すと笑みをユキは浮かべる。


「右よし、左よし、成功っと。それじゃ、お邪魔します」


 人がいない庭を足音を立てずに駆ける。適当に近くにあった押し開きの窓に行くが、引っ張るが当然開かない。他の窓も同様に鍵が掛かってる。これでは入れない。

 鍵の位置を確認して長さ10cmの鉄針を取り出し、〈火魔法〉を込めると鉄針はオレンジ色に染まった。持ってる指の位置以外が。

 ユキは鉄針を硝子に当てて溶かし、7cm正方形の穴を開けた。熱が冷めると手を入れて鍵を開けるとようやく屋敷内に侵入できた。


「カリナさんはまだ大丈夫そうだね。はてさて、ここは...客間かな?」


 カリナの周りに他の人の気配が居ないことはわかっているので焦ることはない。だが二回も友人を襲おうとしたデブ領主は許せないので、不正を手に入れたい。カリナにデブが迫る前に見つけ出したいと思いながら、ユキは部屋を出る。


「...から.....ね.....みつか....」


 人を避けながら廊下を動き、扉を見つければ中を確認する。およそ3部屋目まで見たところで声が聞こえた。ユキは話し声が聞こえた部屋の前で立ち止まる。それは警備にいる男ではなく、女性の声だったからだ。

 廊下に人がいないことを改めて確認してから扉の前で聞き耳を立てた。


「早く着替えなさい。見つからないルートの時間帯が過ぎちゃうわよ」


「ま、待って下さい~。置いていかれたら道が解らないので捕まってしまいます~。あと少しなのでお願いします~」


「早くしなさい。まったく、執務室の掃除なんてハズレを引いちゃったなんて最悪だわ。あんな男共に私だって捕まりたくないのよ!今なら見張りがサボる頃なの。領主達が来る前に行くわよ」


「わわ、待って下さい~」


 そう会話が切れると足音が扉に近付いてきた。

 ユキは慌てて隠れようとするが隠れられる物が周りに無い。〈隠密〉は姿を消せる訳では無いのでばっちり視界に入れば見つかってしまう。

 キョロキョロと見渡すと目についたのは窓。鍵を開けて外へ出ると急いで閉めて身を屈める。ギリギリだったのか屈んだと同時に扉が開いた。


「ほら!早く行くわよ!」


「ちょっ、速すぎです~。そんなに急いだら転んでしまいます~」


 こっそり窓の隅から顔を覗いた。


「わぁ~」


 少し声が出てしまったが、二人を凝視してしまうほど見てみたかったのが見れたのだ。

 踝まである黒いスカート丈に純白のエプロン。メイド服だった。白黒のメイド服を着た美女二人が出てきたのだからユキは目を見開いて見つめた。


「リアルメイドさん...良いね」


 そう独り言を喋る内に二人はユキから見て左の廊下を駆け足で進むとやがて見えなくなった。


「あら、ここ鍵が開いてたかしら~?」


「もう置いてくわ...」


「これでよしっと、今行きます~!」


 鍵をしっかり掛けられてから行ってしまったが。


「......リアルメイドさん、そこは気づいて欲しくなかった」


 窓を調べたがきっちり鍵が閉まっていることを改めて知り、項垂れながら開けた窓まで戻ると二人のメイドがいた部屋の前まで戻ってきた。

 もちろんあの二人は気配で追っているので動きが止まった場所が執務室だろう。でも行く前にこの部屋には寄っておきたかった。

 扉を開くと予想通りのものが並んでいた。

 その内の1つを手に取ると体に当てて合わなければ戻す。それを何度か繰り返して合うのが見つかったらその場で着替え始めた。着たことがないので少し時間が掛かったがなんとか着替えることができた。


「できた!これで見られても問題ない...はずだよね?領主がメイド全員を覚えてるわけがないし」


 ユキが着替えたのはメイド服。部屋の中は予想通り更衣室だったようでその中の一着を今着ているのだ。理由はいくつかあるが、やはりこの屋敷にいてもおかしくない格好だからだ。もちろん人には極力会わない方針だがカリナに会いに行くならこの格好の方が行きやすいだろう。


 ユキは姿見の前で自分の姿を頭から爪先までじっくり見ると、突然クルッと一回転した。最後に笑顔を向ければ鏡の中の少女も同じように動く。

 メイド服で優しい笑顔はとても可愛い。抱き締めたいと思わせるが、忘れてはいけないこれは自分だ。それだけで心の、男としてのなにかがガリガリと削れる。


「バカらしい...早く行こう」


 これ以上は心にダメージを負うだけなので早々に止めると仮面を着けてから更衣室を出る。顔を隠す、これだけは止められない。人とすれ違う時はホラー映画のように髪を顔を隠すように垂らせばいい。


 そう考えながらきつめの美人とおっとりした美人、二人のメイドが通った道を追いかけるためにユキは走った。

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