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二次職の選択

 遅くなりました、すいません。


「おい、あれ見てみろよ」


「うおっ、スゲー美人。オレ行ってみようかな」


「止めとけよ。ブサイクなお前じゃ釣り合わねぇ。やっぱここは俺が...」


「ああ"?テメエも同じような顔だろうが!!」


「んだと!やんのか!?」


「いいぜ、ちょっとあっちに行こうか?」


 言い争う声と男二人の視線が外れる。にもかかわらず、歩いて進むごとに横を通り過ぎる人が振り替えると立ち止まり、視線が集まるので見える範囲の人がこちらを見ていない人はいなかった。


「はぁ.....」


 ユキは疲れきった中年のような溜め息を吐く。全ての視線を集めているのはユキではない。その斜め後ろにいる美人スライムが視線を集めているのだ。

 おかけで嫉妬や探るような視線がとばっちりにユキにも向けられる。もちろんユキは顔は見せていない。ローブと仮面の完全防御で素肌が見えるわけがなかった。

 歩いても歩いても鬱陶しい視線が絶えない。こんなに注目されてるのに声を掛けられないのはスライムの近寄りがたい雰囲気のせいか、はたまたユキの怪しい格好のせいなのか...まぁその両方だろう。


「はぁ......」


 再度溜め息を吐いたユキ。それに気づいたスライムが空いている距離を縮めると周りに聞こえない声でユキに話し掛ける。


「どうかされたしたか主様?この虫唾が走る視線が鬱陶しいのでしたら、消しますか?」


「いや、それはいいから。スカーは付いてくるだけでいいからね。何もしないでよ?」


「は、了解しました主様」


 ユキの指示を忠実に従い、また後ろに下がったスライム...もといスカーと名前を付けたスライムだが、実は街に入ってから同じような問いを、三回も繰り返し聞いているのだ。それほどまでに周りが煩い。もしも初めにユキが訪れた時に仮面とローブを着けてなかった場合、同じことになっていたかと考えたら今の格好は正しいとユキは思った。

 出来るだけ急ぎ足で冒険者ギルドへと向かう二人。そこに辿り着くまでに、10回は同じ光景が繰り返されてしまうが、結局話し掛ける猛者は一人もいなかった。


 あの後、逃げたしたユキにスライムは一層で追い付くと無理矢理にでも付いていくとユキに宣言したのだ。もちろんユキは最初拒否をしていたのだが、連れていかないと自分は死んでしまいますと言われて断れる訳が無く、こうして仲間が増えた。

 その際に名前を求められたので、スカーレットから名前を取ってスカーと名付けたのだ。由来は光に当たった色がスカーレットの色に近いからと安易だが、大喜びしていたのでそのまま決定した。


 今は冒険者ギルドに用事があるので向かっていた所だった。予想よりも遅く冒険者ギルドに着くとユキ達は中に入った。ここでも注目を集めたが、気にせずカウンターに近付くと、丁度レミリィがカウンターにいたのでユキ達はそちらに足を運んだ。


「あ、ユキさん!この間の事は本当に申し訳ありませんでした!」


 ユキを視認した途端にレミリィは謝罪の言葉を口にする。伝わってる間違った噂か正しい噂なのか、どちらの噂が彼女の耳に入っているかわからなかったが、責任を感じてるようでユキに頭を下げた。

 そもそも頼まれたユキが、冒険者ギルドに預けた自分が悪いと思っていたのだ。即座にユキも頭を下げる。


「こちらこそすいませんでした。忙しい時に預けてしまって...それにあれはデブ領主がいけないんですよ。まだ少女の年齢に手を出そうとするから」


 そう言うとあの時の怒りがまた込み上げてくる。どうせ屑だとわかっているのに、身分の差で手を出せないのだ。まぁあのデブ領主が平民だったらすぐに殺されただろう。なにか決定的な不正の証拠が欲しいと考えたユキは、侵入するにはどうするかまで考えた始めたが、今の問題ではないと頭を振った。

 レミリィを睨んでいるスカーを今はどうにかする。


「今はもう終わりしましたし、その件は解決したということで...この人の冒険者登録をお願いします」


 レミリィはもう一度頭を下げて謝ると、仕事の顔になった。


「それではお客さま、冒険者登録用紙にご記入をお願いします。それとも、代筆が必要ですか?」 


睨む美人に臆することなく対応できるのはスゴいとユキは思ったが、最後の方では少しバカにしたような言い方をしていたのでムカつきはしているようだ。

 スカーの登録の他にユキも用事をこなすことにした。


「レミリィさん。この素材の買取りをお願いします」


「あ、はい。かしこまりました」


「あと転職部屋を使用したいのですが...」


「えっ!もうですか!!」


 転職部屋を使いたいと言った途端に大声を出してしまうレミリィに冒険者達の視線が集まる。大声を出してしまったことにレミリィは口を押さえながら「すいません」とまた謝った。

 周りが落ち着いてくるとユキに向き直る。


「すいませんでした。その、レベルが足りてるということでいいんですね?」


「はい、足りてますが...そんなに驚くことですか?」


「え、ええ。リサから聞いた時は、確か前回使われたのが三日前だったので驚いたのです。おそらく今までで最速かと」


 確かに、とユキは思う。でも理由付けはもう考えていた。


「あれですよ、一次職の時にはレベル自体は高かったので二次職に早く付けるんですよ。そういうことにしておいて下さい」


 嘘は言ってない。本当のことも言ってないが。

 それ以上なにも言わないユキに根負けしたのかふっ、と笑顔になる。


「......わかりました。深い事情がおありのことでしょう。あちらの部屋へお通り下さい」


「ありがとうございます。それじゃスカーさん登録頑張ってね~」


「主様、呼び捨てで大丈夫です。何かありましたら直ぐに!お助けします」


「なんも起きないよ」


 スカーを登録に残すと、指定された部屋に入る。そ椅子二つに机、その上に水晶と変わらない部屋の中。優しい微笑みを浮かべる老婆に挨拶をしてからユキは空いている椅子に座った。


「こんなに早く来るとはね。職が手に合って良かったじゃないか」


「職名の割には強かったですから。でも今回は戦闘職が有るのを祈ってるところですよ」


「そうかいそうかい。んじゃ、話もこのくらいで切り上げて、始めるとするかね?」


「はい、お願いします」


 先日と同じように水晶へ手を置くと詠唱が始まり、魔力が吸いとられる。あの時との違いは取られる魔力が増えたくらいだ。

 やがて目の前に水色の四角いタッチパネルのようなものが浮かび上がった。固唾を飲んで見守る中、徐々に現れた選択肢は二つだった。空いた手でガッツポーズをとりながら職名を確認するとーー。


 《吸血女王》


 《闇夜の戦乙女》


 と表示されていた。


 お?

 おお?

 やったぁーーーーー!!

 念願の、戦闘職だぜよ~!!もちろん選択するのは《闇夜の戦乙女》です。ふっふっふ~。なんであるのかわからないけど強そうだよね。期待大。

 そんじゃポチっとな~♪


 意識を集中させ、下で輝いてる《闇夜の戦乙女》に念を送ると《吸血姫》と同じように、光の球体となってユキの体へと吸い込まれた。

 すると、《吸血姫》の時よりも体の底から湧き出る力が大きく、凄まじい。今ならゴブリンキングの拳を片手で止められるかもしれないと思えるほどの上がり具合だった。


「どうやらご希望の職が有ったみたいだね」


 両手を見ていたユキに老婆はそう声をかけた。


「はい、なりたい職業に就けました。ありがとうございます」


「そうかいそうかい。なら一つ忠告さね。その力に過信して死ぬんじゃないよ。どんなにいい職でも鍛練は必要だからね。精進して、立派な冒険者になるのを見せておくれよ」


 そう優しく微笑んだ老婆に、ユキは元気よく「はい!」と返事を返して部屋を出た。


 受付カウンターに戻るとカード作成待ちをしているスカーがそわそわと不安そうにユキの出た扉を見ていた。ユキが出てきたのをホッとしたように安堵しながら歩き出そうとしたが、肩を掴まれてしまう。


「ちょっと待ってくれないか?俺の質問に答えてもらっていないんだけど。もう一度聞くけどさ、俺のパーティに入らないか?」


「さっきから五月蝿い人間だな...その手を退けろ」


「そんなことを言わないでお試しで入ってみない?見たところ前衛だし、解らないところも教えてあげられるよ?」


「私にはお仕えする主様以外に付きません。邪魔です」


 どうやらパーティ勧誘というナンパを受けているようだ。なかなかにしつこく誘われているようで進めない。ならばとユキはスカーに近付いていく。

 スカーは嬉しいけど先にこいつを殺しておきたいということを目で訴えてくるが、騒ぎは起こしたくないのでユキは首を振る。

 ナンパ男の真後ろに着いた。


「すいません、その人私のパーティーなんですが、引いてくれませんか?」


「おお?お前は一緒に入ってきたガキか。もう帰ってもいいぞ。このお姉さんは今日から俺のパーティに入ったから。雑魚はおさらばさ」


 明らか断られていた、というよりも嫌がられていたのにそんなことを言う男。そんな男はスカーから拳を入れられて倒れた。怒りを宿した赤い瞳は美しく、見惚れてしまう。殴った手はあらぬ方向を向いていたが...直ぐに治っている。


「主様を貶す者は誰であろうと許さない。雑魚は貴様だろう」


 ポカンとスカーを見上げていたが、見る見るうちに男の顔が怒りで真っ赤になる。すぐさま立ち上がると何事か喚いて冒険者ギルドを出ていった。さすがにこの視線が集まってる中で殴り返したらどうなるのかわかっていたのだろう。

 スカーは走っていくナンパ男を一瞥して、ユキに向き直ると頭を下げた。


「すみません主様。主様との約束を破ってしまいました。如何様なる罰も受けます」


 約束...『街中では人型でいること』

    『人を傷つけないこと』


 の二つのことだ。街で動くにはこれだけは守らないといけないと思い、頼んだのだが、『人を傷つけないこと』を破ってしまったというわけだ。

 しかし、この状況では仕方ないし、約束がアバウトすぎた。ユキは周りに聞こえないように小声で話した。


「ごめんスカー。『人を傷つけないこと』の約束だけど、これじゃ身を守る事が出来ないよね。だから『人を殺さないこと』に変えてもいいかな?」


「い、言いつけを守れなかった私がいけないので謝らないで下さい。命令とあれば私はそれを守ります。『人を殺さないこと』でいいんですね?」


「そうだね。これなら自己防衛は出来るでしょ?そういうことでよろしくね」


「はい、了解しました」


 話終えてから一拍おいてレミリィが奥の扉から戻ってきた。雰囲気が変わったギルド内に首を傾げるもすぐに仕事に取り掛かった。


「お待たせしました、こちらがスカーさんのギルドカードです。初めはGランクからのスタートですのでーー」


 そこからはユキが登録したときと同じ説明がされるのを聞いているだけだった。最後に「質問はありますか?」で何もないと、次は麻袋をカウンターに置く。


「こちらは素材の買取金額、120800リルになります。ご確認下さい」


「......はい。丁度あります」


「それと、おめでとうございます。冒険者ランクがFからEに上がることが決まりましたのでギルドカードをお預かりします」


 今回の素材はDランクが多かったので、そのおかげだろう。〈解体〉というスキルが手に入れるほど捌いた甲斐があったと思いながら、ユキはギルドカードを渡した。

 それをこの前と同じように後ろの水晶に当てるとランクの部分がFからEへと更新されて、ユキの手元に戻ってきた。


「ありがとうございました...ほらスカーも」


「......感謝します」


「頑張ってくださいね」


 そう短く挨拶してユキは冒険者ギルドを出る。これからククの宿屋でもう一人分の部屋を借りたり、お世話になったシエルとカリナにスカーを紹介したりしなければならない。

 それが終わったら、そろそろ動き出してもいいかもしれないとユキは考える。


「会えるといいな~」


「主様?どうかされましたか?」


「いや、なんでもないよ」


 ユキは不思議そうな顔をしたスカーの手を握る。ふにふにとした手は骨格や筋肉が無い。女性の体を吸収していれば違っただろうが、男の体を吸収したので骨格が違う。ユキの骨や肉を得ていないのだから〈変質〉で変えることが出来ないのだ。

 それでも人と同じ動きが出来るのは、ガゼルから必要な記憶を吸収したから、とスカーは言った。他人からは普通に人にしか見えないだろう。ユキはそのまま手を握ったまま歩き出す。


 こうして手を繋ぎながら、街灯に照らされた夜道を歩いて帰路についた。

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