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初迷宮、ミテアル迷宮~

 朝...そう朝だ。昨夜はシエルとカリナの祝勝会を開いたのは覚えてる。

 この世界ではほとんど食われない内臓を使った料理をして、食べたり飲んだりして、皆も食べて喜んでくれたのが嬉しかったのは覚えてるんだけど...途中で記憶がプツンと無くなってるんだよね。どういうことだろう?

 ん~...まぁいいや。朝食を食べに行こう。


「ふぁ~、ん?うわっローブが着っぱなしだ。しかも視界が悪いと思ったら仮面も着けたままだよ。脱ぎ忘れたのかな?」


 起きたばかりだから視界が霞んでるだけかと思っていたが、仮面を外さないで寝たためだった。いつもなら寝る前に外しているので不思議に思ったユキだが、疲れて寝転がったらそのまま寝てしまったのだろうと結論に落ち着いた。

 身を起こし、今にも香ってくる朝食の匂いに釣られるように階下へ足を運んだ。


「おはようございますククさん!今日も美味しそうな匂いですね~」


 一階に降りるとちょうど料理をテーブルに置いていたククに挨拶する。すると驚いたのかピンッと耳を立てながら弾かれたように振り向き、ユキだと気付いた。少し頬を膨らませながらユキを睨んだ。


「もう、驚かさないで下さいよ。わたし猫人族だから嗅覚と聴覚には自信あったのに、声を掛けられるまで気付かないなんて一回も無かったんですよ?」


「ふっふっふ~、ボクは強いからね。ゴブリンくらいなら一捻りだよ」


 予想通りの反応が返ってきたので楽しく笑いながら力自慢をするようにジョブとブローを放つ。

 そんなユキを呆れたように見ていたククだったが、ふと何かを思い出したようにユキに尋ねた。


「体調は大丈夫ですか?昨日はあれだけお酒を飲んでしまいましたから」


「......ん?お酒?」


「ほら、カリナさんとシエルさんが間違えて買ってきてしまったのがジュースではなくワインだったやつです。もしかして忘れてますか?」


 ユキは頭を捻ったが何も思い出せない。思い出そうとして思い出せず、頭を抱えだしたユキにククは二日酔いかと勘違いして水を差し出した。別に痛くはなかったが喉は渇いていたし、気分をスッキリするつもりで飲み干すと苦笑いする。


「全っ然覚えてないだよね。頭も痛くないから何があったのかわからなくて、寝落ちしたのかな~っと」


「二日酔いが無いって羨ましいですね。あ、ユキさんをベットまで運んだのはわたしだったのですが、ユキさん軽すぎますよ。もっと食べないと立派な男にはなれません!朝食増し増しです!」


 そう言われてユキはテーブルを見ると目測でいつもより約2倍の量が盛られた朝食が置かれていた。


「おお~、量が2倍になってる。ありがとうございます。それでは、いただきます!」


 ユキは男として接してる事が大変有り難かった。身体には慣れてきたものの納得してる訳ではない。男と認識して接してくれるのに甘えながらも、騙していることに少しだけ罪悪感を感じるユキだった。

 首を振ると考えるのを止めて目の前の朝食に意識を戻す。今の関係で何か不都合ある訳ではない。今は食事に集中しようとフォークを手に取る。


早速とばかりにフォークでサラダを食べ始めた。青じそのようなさっぱりしたドレッシングがかかっていて美味しい。パクパクと食べていく。

 そこにククが水をいれたコップを持って台所から出てきた。


「あ、シエルさんとカリナさんから伝言を預かってます。今日はゆっくり休みたいそうなので今日は依頼を受けないそうですよ...ってはやっ!」


 ちょっと水を汲みに行った間にサラダを完食、時折パンをかじりながらスープを半分も飲んで食べる速度が速すぎる。歯と歯を合わせる瞬間、物を噛む咀嚼音は驚異的でククはそれを唖然と見るだけだ。

 今口に入れている分を呑み込むと返答を返した。


「伝言ありがとうございます!まぁ今日は一人で冒険者ギルドに手頃な依頼でもこなしに行ってきますよ」


「き、気を付けて下さいね」


 そう返答したユキはすぐ朝食を食べ始めた。その時点で約6割はすでにユキのお腹の中に入っており、ククが引きつった表情をしていたが、ユキは食べ終えるまで引かれていた事に気付かなかった。


 その後、食べ終えた時にククが引いていたのに不思議に思ったが、部屋で準備を終えて出る頃にはいつも通りの笑顔に戻っていた。


 冒険者ギルドに着いたユキは依頼ボードで依頼を探す。が以前よりも依頼が激減していて良いのが見付からない。どうならこの前の襲撃でゴブリンを殺しまくった結果、討伐する魔物が付近にいないようだ。

 今日は依頼が受けられなさそうだと肩を落としていたユキだったが、近くで依頼を探していた冒険者達の会話に気になるものを拾う。


「今日は依頼が少ねぇな。今日は止めとくか?昨日飲みまくったけど報酬はまだまだ有るぜ?」


「たった二日前なのに実感ないんだよな。俺らなんもしないで素材の剥ぎ取りに行っただけのうまい依頼だったからな」


「なら迷宮で一狩り行って、そのあとまた一杯やろうぜ!」


「よし!それでいこう!」


 笑いながら出ていった二人を見送るとユキは受付で数回会話した後、すぐに外に出る。今の話で今日の行動方針は決まった。


 迷宮へレッツゴー!




―――――――――――――――――――――――




 街には西と東に迷宮が3つ存在する。西に2つ、東に1つだ。この三つの迷宮はすでに踏破されているが、最後の部屋にある”ダンジョンコア“は残されているのでモンスターや宝箱は出現し続ける。詳しい原理は不明だが迷宮内は外より濃い魔力が漂っており、それが集まると魔物や宝箱が生まれると言われている。その魔力を作り出しているのが“ダンジョンコア”、いわば魔力製造機のようなものだ。

 もちろんそんな便利な物は国などが求め、強力な兵器に使用すると思われたが、“ダンジョンコア“は迷宮外に出すと魔力を生み出さなくなってしまう。なので残せば無限に資材が採れるので残される場合が多いのだ。

 その資材を取ってくるのが冒険者の役目となっているし、踏破すれば一躍有名になるので目指す冒険者は多いが、甘く見て命を落とす事も多い。だから冒険者ギルドでは生存率を高めるため適正ランクがわかるようになっているのだ。


 ちなみにそれぞれの迷宮の適正ランクは次のように設定されている。


 ミテアル迷宮  適正ランクD


 幻樹園の迷宮  適正ランクC


 闘鬼桜の迷宮  適正ランクC~B


 これが冒険者ギルドが定めた各迷宮の適正冒険者ランクになっている。

 あくまで目安だが、これで冒険者の死亡率はぐんと減ったようだがそれでも0とはいかない。一攫千金を目指せるが油断すれば死ぬのが迷宮なのだ。


 ユキが今回挑むのはミテアル迷宮。西側に存在し、街から比較的近い位置に出現した迷宮で20層からなる迷宮になっている。

 この街に来たユキが初めて買った焼き串の屋台で、お昼用に焼き串30本買ってから到着した。


 ミテアル迷宮の出入り口は洞窟のようで魔物が出ないように結界が張られている。そこに冒険者パーティが出入りていた。例の情報をくれた二人組もいる。

 近くには露店が並び、冒険に必要な道具やポーション、さらには飲食物が売られていてなかなか活気がいいところだ。


「迷宮と言えば男のロマン。わくわくするね」


 気合いが入ってる冒険者とは違う陽気な声でユキは迷宮に入る。階段を降りるとそこは大きい石造りの道で、光が入り込まないのか奥は闇に包まれておてなにも見えない。

 近くにいた冒険者達が立ち止まり、ランタンのような明かりを灯す魔道具で光源を得る中、ユキはそのままスイスイと奥に進んでいってしまう。


「お、おい坊主!明かりも無しに行くのは無謀だぞ!って聞いてるのか!?」


 親切な中年の冒険者が厚意でそう声を掛けたが、手を振り大丈夫と伝えるとユキは光が届かない闇の中へと消えていった。


 ユキに明かりはいらない。〈暗視〉があるので豆電球くらいの明るさで見えているのだ。

 中は砂と血の臭いが漂っている灰色の石造りな道。所々に曲がり道が存在し、奥にはすでに空いた宝箱があったり、行き止まりだったり、魔物が待ち構えたりしてまさに迷路だ。


 ザシュッ!


 天井に張り付いて待ち伏せしていた危険度Eの吸血蝙蝠を地魔法Lv 2『地槍』で胴体を貫く。『地槍』は『アーススパイク』の上位魔法で威力と強度が高い。しかも『アーススパイク』で同じ威力を出すよりも魔力の消費が少ないので使ってみたところ、地面に縫い付けることができたようだ。


 この蝙蝠の見た目は普通だが、蝙蝠よりも何倍も大きい。一噛みで頭が食われそうな程に。

 こんなのに気付かず襲われたら大怪我するだろう。もっとも探知系のスキルを持っていればいいカモで

、防御力が低く倒しやすい。売れる部位は羽なので魔核と一緒に剥ぎ取っておき、また歩きだす。


「え~っと...前は4、左は2、右が8?戦闘中なのは右だから前に進むとしよう!」


 分かれ道にぶち当たると〈気配探知〉で判断し、前へと進むユキ。気分は見知らぬ土地に旅行に来たように高揚していた。


 はや歩きで進んでいたユキはふと思い付いたように身体へ意識を集中すると魔力の流れを感じ取る。初めて魔力を触れた時のように、自身の魔力を動かそうと考えたのだ。

 理由は早く魔法を発動すること。詠唱がいらない分速いのだが、どうしても魔力を込めるのに少し時間をとられてしまう。ならば少しでも込める速度を上げるために練習をとユキは考えたのだ。


「んぅ~んん?難しい...」


 しかし目に見えない、実際に触れられないものを操作するのは難しい。〈魔力探知〉で有るのは解るが、動かすとなると困難さがわかる。無意識に発動出来る魔法を使う時の感覚で辛うじて動かせるが、川の水を掴んだくらいにしか動かせない。逆に魔力が抜けてしまう。

 でも動かせたことは事実なので徐々に感覚を掴んでいこうと、道中は自身の魔力を操作するのに四苦八苦しながら先に進むのだった。




―――――――――――――――――――――




 時は少し遡り、ユキが迷宮に入った後の事。


 ミテアル迷宮の前に一組のパーティが辿り着く。


「おい、聞いたか?あの仮面したガキがこの迷宮に入ったってよ」


「おう、バッチリ聞いたぜ。どうするよガゼル」


「あぁ?んなもん決まってんだろうが。礼儀のなってねぇ新人を教育してやるのが先輩だろう?それに......実力を見誤ったルーキーが迷宮から帰ってこないのは日常茶飯事だぁ」


「つまり、いつも通りで?」


 問われた男、ガゼルはいつも浮かべているくちはしを上げた顔で、上機嫌に嗤う。


「醜い顔を隠してる野郎だ。捕まえても売れやしねぇだろう。生きていることを後悔するまでいたぶって、放置だ。魔物が片してくれる」


 ガゼルはもう腐りきっていた。もはや自分の欲望に忠実で、同じくらい腐った仲間と行動する。

 そんな彼らにとって迷宮はとても便利なものだった。実力的に自分達よりも弱い新人が、ランクを上げて迷宮に潜り込むと彼らも続く。そしてルーキーよりも先に回り込み、待ち伏せして襲った。


 男だったら殺し、女だったら3人で犯して楽しんだあとは、奴隷商に売り払う。迷宮で新人が帰ってこないのはよくあること。だから調べられることもない。


 3人組は誰もいない迷宮への階段で誰にも聞かれずに、いつも通りに、計画を立てる。


 そこに誤算があるとしたら、自分達が強者だと勘違いをしていたことだろう。彼らが後悔した時には、もう遅かった...

 “討伐隊のその後~”の後書きでユキのステータスに〈身体能力上昇〉の追加忘れがあったので追加しました。

 すいませんでした。

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