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お疲れ様でした~

更新が遅くなってしまい、すいません。


 青い空、白い雲、人々が行き交う大通り。

 ゴブリンの大軍を襲撃し、ボスを討ち取った討伐隊も無事帰ってきたアルティアの街はいつもの活気に包まれていた。


「ちょっ、へるぷ!ヘルプミー!」


 そんな街の比較的に人通りが比較的落ち着いてきた昼過ぎに悲鳴が響く。少ない通行人が反射的にそちらを向くとギョッと驚き、道を空ける。


「ヒッ!」


 そこを引きつったような声を出しながら左に右にとジグザグに走るいかにも怪しい小柄な者がいた。おかしな動きに気味悪がるが、その理由は直ぐにわかった。

 曲がった直後、進行方向の気温が急激に冷え込んで地面から約20cmサイズのの氷が発生しているのだ。そのまま進んでいたら足が凍り付き、身動きが取れなくなってしまうだろう。それを避けるためにそんな走り方になるが、機動力は落ちるので追いかける者から間を離すことができずに逃げられずにいた。


「ちょっと待って!ボク手を出してないよ!無実だから魔法を止めてくれないかな!?」


 逃げているのは見るからに怪しい男、ユキがそう叫ぶ。力もある程度セーブしなければならないのでギリギリ逃げてるような感じを演じながら説得を試みていた。

 しかし、追いかけてくる者の耳には入らず、歩くごとに周りが雪景色に変わる。もはや能面のような無表情で近付いてくる。一見普通だが後ろには氷でできた龍が幻覚で見えてきそうなほど心は怒り狂っているのが伝わってきた。


「...る、ルティアをだだだ抱いた?...殺...いや、なら...皮を...剥が...」


 追いかけるのは妹想い(重度のシスコン)、シエルだった。ユキは背筋が凍り付くような寒気を感じてぶるりと体を震わす。


 怖い!ルティアちゃんのお姉さんマジ怖い!後半はなんて拷問?用意周到に塩まで...この世界にも有ったんだ...

 昨日までの優しいシエルさんはどこにいったんだろ。目からハイライトが消えてるし。

 病んでたのかな?見るからに末期でデレにも期待は無いと。知り合って一週間しか経ってないから当たり前か。

 それに続けてブツブツと言ってる独り言が怖いんだけど。

 ハイスペックなこの体は疲れない、んだけども心は疲れてきたよ。あぁ、ベットでゴロゴロしたいのに、おばさん達め!


 ユキはあの時居合わせたおばさん受付嬢に釘をさしておかなかったことを後悔しながら逃げ回る。こんなことになった事の発端は冒険者ギルドでのこと...


 ククの宿屋で朝食を食べたユキとルティアはシエル達を迎えるために北門へ足を運んでいた。仲良く手を繋ぎながらだ。

 あのデブシュ(デブ領主の略)の一件以来、ユキにさらに懐いたルティアはスキンシップが増えていた。

 例えば朝食の席ではほぼ触れるような距離まで一緒に食べたり、宿を出る際には手を繋ごうと上目遣いを使ってまで...等々だ。


 二人が門から出てくるとルティアはシエルに走って抱き付いたから手を繋いでいたのは見られていない。...ノリでユキもカリナに突撃したら足払いで地面とkissだった。


 再会を果たし、冒険者ギルドに行ったまでは良かったが、冒険者ギルドのおばさん受付嬢の噂が悪かったのだ。

 噂は最初は事実が語られていたのだろうが、それでは面白くない。広がれば広がるほど尾ひれが付いてくるようになった。

 ユキ達が入る頃には“仮面を着けた男が領主から女の子を守った後、その女の子を宿に連れて帰りおいしくいただいた”と伝わっていたのだ。名前は出なかったが容姿は伝わっているらしく、親しい人なら解るものでシエルに噂の人物が特定されてしまう。

 でも噂は所詮ただの噂。杖を握っていたがルティアが身の潔白を証明してくれるだろうと思っていたが、俯いて顔を真っ赤にして何も喋らない。たぶん耳にも入っていなかっただろう。

 それを見たシエルがどう動いたのかはもう解るだろう。何も知らないカリナは擁護してくれる訳でもなく、こうしてユキは追いかけられていたのだった。


「...ねぇ、止まって?シエルの触れた所は剥いで、代わりに、塩を塗ってあげるから」


「そんなサービスはいらない!」


 そう叫ぶと大通りから外れて路地裏に入り込む。狭く細長い一本道だが対峙するならここだろう。誰もいないからこれ以上見られることは無い。少しするとシエルが現れた。


「...おいかけっこは、終わり?」


「ボクは何も手を出してないからね」


「...そう」


 シエルが杖をつき出すとユキの足下が急激に冷え込むと足が氷に覆われて動けなくなった。強度は岩よりも固さがありそうでルティアが自慢するのに納得がいく。だがユキならこれくらい砕いて逃げることは可能なので安全だ。それにシエルの瞳に知性が少しだけ戻った気がする。

 刺激しないよう慎重に言葉を選んだ。


「ボクは昨日、ルティアちゃんと宿屋に行って二つ部屋を借りたんだ。もちろんそれぞれの別の部屋で寝たよ。証言が欲しいならその宿屋に行けば解る。どう?」


 まずは無実の理由を説明し、信じてもらうことにした。


「...そう......じゃあその宿屋に案内して」


 ユキは心のなかで安堵の溜め息を吐いた。


 結局ククの証言も取れたことにより、噂はガセでユキは無実を信じてもらうことが出来た。 

 ユキはシエルに謝りまくられ、恐怖体験はしたが幸い怪我はしていないので即座に許し、おわびにいい鍛冶屋を紹介してもらえることとなった。


「...ごめんなさい。途中記憶が無いけど、失礼なことしてない?」


「あ、あはは...大丈夫ですよ?ただの追いかけっこですから。それよりも早く冒険者ギルドに戻りましょう!それで生還した御祝いですよ!御祝い!」


 冷や汗を流しながら会話を変える。この人は怒らせないようにしようと心の底から思った。


 ギルドに戻ると出ていった後の顛末をカリナだけに話した。ルティアには知られたくないシエルが内緒にしてもらったのだ。その代わりカリナの拳骨&お叱りを受けていたが。

 ルティアは聞きたそうにしていたが聞かないで別の話題を振ってくれた。ハーフエルフ姉妹の家でも良かったのだが、今回はククの宿屋にする事となり、3人は大通りを歩いていった。きっと宿泊者はいないだろう。


 野菜やお肉など、普段より値段が高騰していたが御祝いなので金貨を使って買い占める勢いで買っていき、宿屋に到着した。ククは最初は驚いたものの直ぐ納得したのか、テーブルを真ん中に寄せて白いテーブルクロスを掛けるとそれなりに雰囲気が出てくる。ルティアとクク、そして今回はユキも豪華な料理作りに参加し、こっそりとデリシャスボアの肉を紛れさせながら包丁を動かす。料理が出来ないシエルとカリナはテーブルにコップやお皿を並べたり、ジュースを買ってきたりと準備を進めた。

 程無くして美味しそうな匂いを振り撒く豪華な料理がテーブルに並ぶ。ステーキ等の肉類に黄金色のスープはポトフだ。シエルの水魔法Lv 2の『回復』によりくたびれてた野菜が採れ立てのような新鮮さになったので作ったサラダ。どれも涎が出そうになるくらいに美味しく出来ている。ただ一つだけ抜いて。


「作ってた時から疑問だったんですが、その料理は何ですか?ユキさん」


 疑問に思っていた3人の中でそう聞いたのはルティアだった。ユキの作った料理、それは串に刺した肉を焼いたもので別にここらでは珍しい料理ではない。問題は使われている食材だった。

 ユキは首を傾げながら3人に料理名を教えた。


「何って...レバー、砂ぎも、ハツ、えんがわ、あとは定番のももとかだよ?あ、ボクのおすすめはこのかしらね!」


 と、嬉しそうに語るユキ。店で鶏(この世界では白走鳥と呼ばれる魔物。5倍位大きい)の生け捕りが売られていたのでユキが買って解体し、作った料理だ。食べやすく、種類も多いので選んだ、というのは建前で本当は日本の料理が恋しくなったからだ。もちろん米や醤油等を探したが売られておらず、再現できる物で食べたいと思っていたユキが出逢ったのが鶏もどきだ。

 すぐ思い付いた焼き鳥を上手く作れて満足そうなユキ。

 だがルティア達が聞きたいのは料理名ではなかった。


「えっと、別に聞きたいことがあって、その、白走鳥の内臓も使っていたので、大丈夫なんですか?」


「...ああ~うん、食べられるよ。食感が独特だけど美味しいよ?」


「そうなんですか...初めて知りました」


「私もよ」


「...同じく」


「うん!わたしは腸詰めしか知らないね!」


 各々の反応を見てみるに、印象は良くないようだった。どうやらこの世界で内臓はあまり食べないらしく、あってソーセージだ。

 おそらく見た目と毒性がある魔物もあるからだろう。そこは〈鑑定視〉でバッチリ確認してあるのでユキは自信満々に出したのだが、ダメなようだ。そう考えると日本の昔の人はよく食べる気になったものだと思えてしまう。

 しかし落ち込んでも仕方ないのでブドウのジュースを手に取り、宴を始める。仕切り直しだ。


「食べたい人は食べてみてね!え~、シエルさんとカリナさんの無事帰還したことを祝いまして...乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 ユキの料理により微妙な空気になったが場を持ち返すことに成功したようだ。祝辞が終わるとユキは真っ先に焼き鳥のかしらを手に取り口に運んだ。

 歯応えのある肉から旨味が含む肉汁が噛むごとに染み出る。塩が適度に掛けられているので尚美味しかった。まぁかしらは鶏肉ではなく、不思議にも豚のほほ肉が使われているのだが、日本で食べた時よりも美味しく懐かしい味だった。

 次は砂ぎもを食べる。こりこりとした食感としゃきしゃきとした食感が不思議な砂ぎももまた美味しい。


「美味しい~!レバーもハツも好みによるけど癖になる味だよね。うまうまだ~」


 一本づつ食べ終えると最後にブドウジュースを飲む。仕事帰りのサラリーマンがビールを飲むようにゴクゴクと飲んだ後、歓喜の声を上げたかったがさすがにユキは自重した。

 心なしか体がポカポカと暖まってきて気分がさらに良くなり、食も進んでいく。


「...もぐもぐ、美味しい」


 美味しそうに飲み食いするユキに興味が湧いたのか、シエルが一本手に取ると食べた。呑み込んだ後の感想に嬉しくなるユキ。その後はシエルが食べたのが良かったのか、ルティア、カリナ、ククと恐る恐るだが食べるとその美味しさ驚き、次々と手にとって貰えた。


「わぁ!意外とおいしいですね。私はこのスナギモが特に好きです」


「内臓って食べたことないから忌避感があったんだけど、食べればそんなのどうでもいいわ。レバーは特に美味でしたわ」


「これを店に出せば売れると思いますよ?いろんな魔物のお肉を食べてきたけど、これはどれも病み付きになります~♪」


 思いの外好評価で作った者としてユキは嬉しかった。飲むスペースも上がり、不思議なほど体が熱くなる。お礼を言うために口を開いた。


「うわぁい~。ありがとうごはいまひゅ~♪ボクはたぁいへん嬉ひいでひゅよ!」


 呂律が回っていない言葉だった。

 近くにいたククが驚いて振り向くと、フラフラと体を揺らしながら片手に瓶を持つユキがいた。仄かに香ってくる匂いはお酒で酔っ払っているのが確定する。


「ちょっと!?カリナさんとシエルさん!何を買ってきてるんですか!これお酒じゃないですか!!」


 ユキから酒の入った瓶を取りあげるとカリナとシエルを問い詰める。


「そんな、ジュースを買ったはずよ?“ワイン”って書いてあったけど、ジュースよね?」


「それはお酒ですよ。はぁ、寝かしてきた方が良さそうですね」 


「...ごめんなさい」


 ユキが借りている部屋に連れていき、横にするとすぐに寝息を立てて寝てしまった。


 お酒を水に代え、今度は四人で始めると夜遅くまで楽しんだのだった。

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