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討伐隊のその後~

「な、なんだこれは...」


 剣士風の装備をした男が呆然した表情で目の前の光景に呟く。

 それは周りにいた冒険者達も概ね同じ反応だった。


 目の前に広がるゴブリンの屍。


 噎せかえるような血の臭いが辺りに充満し、緑が広がっていたであろう場所はゴブリンの血により紫色に変わっている。所々では死体を漁っている他の魔物もいたが生きているゴブリンは存在しなかった。


 それを呆然と見ているのは討伐隊...アルティアの冒険者達だ。アルティアの街に押し寄せてきたゴブリンの群れを撃退。優勢のままリクルの森にいるであろう親玉を倒すために組まれた討伐隊はD~Bランクの冒険者30人で構成されていた。討伐対象は危険度Cのゴブリンジェネラル。戦力は十分だった。

 意気揚々と朝方に討伐へ出発し、休憩を挟みながら出向いたらこの惨状だ。討伐隊は目の前の光景に不安や恐怖など取り乱し、混乱状態に陥った。一早く冷静さを取り戻し、落ち着いてきた者たちはこうなっておる原因の推測を立てる。


 別の群れと鉢合わせて戦闘になり、負けた。

 仲間割れ。

 Aランク冒険者のパーティが偶然通り掛かり倒した。


 様々な意見が出たがどれも可能性が限りなく小さかった。こんなに肉があるのに数匹しか狼は居ないし、仲間割れは上位個体が群れを統率しているのだから論外だ。後は高位冒険者だがアルティアの街にいるAランクは地竜討伐の遠征に出掛けていない。

 では何が起きたのか、落ち着いてきた討伐隊は調査をする事となった。それぞれのパーティに別れて手掛かりを探す。探し始めるとほとんどのパーティは手付かずの死体に喜んだ。魔核と討伐部位の耳を採取するのに夢中になりながら原因を調べないほとんどの冒険者。それを仕方ないか、と横目で見ながらちゃんと調査をするのは2つのパーティーだけだった。

 1つはBランクパーティの『ヒーリス』、もう片方はシエルとカリナのパーティだった。脅威となる敵がいない状況で採取せず調査する二人にBランクパーティは関心した目で見た。そんな二人は周りの死体を無視し、奥へと進んでいく。前を進むのはシエルだ。


「...ルティア、ルティア、ルティア」


「ちょっと、怖いわよシエル。いくら心配でも心の中だけで呟きなさい。それに、ユキに預けたんでしょ?」


「...頼んだけど...心配。ご飯も喉を通らなそう」


「さっきパクパクとサンドイッチを食べてたじゃない...」


「...あれはルティアの手作り。残すわけない」


「......言ってることが矛盾してるわ。せっかくお金が一杯落ちてるのに...この先に何もなかったら怒るから」


 そう言いながらカリナは過ぎていく死体に目だけ動かして見る。本当は採りたいカリナだがシエルが早く帰りたいがために調査を優先させていたのだ。説得しようにもシスコンの耳には届かない。段々とゴブリン死骸が硬貨に見えてきてしまうカリナだった。


「...見つけた」


「これはまた、すごいわね」


 順調に足を進めた二人の目の前にはデカイ土壁が立っている。シエルが精霊が集まってる場所があると言われて、カリナは渋々付いてきたのだ。精霊は滅多な事じゃなきゃ一ヶ所に集まることは無い。

 今までもこう言う事があった。そのときは行った方が良いことが有ったので、カリナは大人しく付いてきてみるとこの大きい土壁だ。それは一目で魔法だとわかるほど不自然に立っている土壁の横には積み重なったゴブリンの死骸。壁の向こうに行こうとしていたが、剣で殺されている様で奥に何かあるようだ。


 シエルはまた歩き始める。カリナも後ろに付いていきながら壁に触ったりして強度などを調べた。魔法は術者のINTにより威力が変わってくるのだが、この壁は最低でもBランク冒険者並の実力者が発動したのだろう。

 やがて壁の端に来ると警戒しながら壁の向こう側に出る。居たのは一匹のゴブリンの死骸だった。


「なんだか、予想外だね。警戒してたのが馬鹿みたいだわ」


 何か凄いのがあると期待してただけにガッカリするカリナ。遠くから見た限りだと色からしてゴブリンだ。可能性があるとしたら、ゴブリンジェネラルかもしれないので近づこうとしたが、動かないシエルにまた足を止めた。


「シエル?どうしたのよ」


しかし何も話さないシエルに疑問をもったカリナはシエルの顔を横から覗くと驚きに固まってしまう。シエルが青白い顔をしながら体を震わせていたのだ。いつも自信満々なシエルだけに驚きは大きい。

 カリナは頭を振ると気を取り戻すと話掛けた。


「ちょっと、どうしたのよ。あのゴブリンがどうかしたの?相手はで一匹でしかも死んでるのよ?なに震えてるのよ」


 明るく声を掛けるカリナにシエルは青白い顔を向けると口をパクパクと開けたり閉じたりを繰り返して中々喋らない。カリナは眉を寄せたが何も言わずに待つと、やがて絞り出すように喋り始めた。


「...あ、あれ、ただのゴブリンじゃない」


「?でもあれはどう見てもゴブリンよ?ちょっと遠いけど肌の色とか同じだわ」


「...違う...あれは、王様。ゴブリンキングに進化してるの」


「っ!!」


 その種族名に、カリナは最初何を言われたのかわからなかった。徐々に理解するにつれて顔色が悪くなっていく。


 『災害級』


 それは、街を一つ滅ぼすと言われる程の力を持った魔物のことだ。

 例で挙げるならば、上位以上の竜種。それに並ぶ力を持った巨人。そして下位の魔物がその種の王まで上り詰めた王異種、この3つだ。

 この中で、国が定めた『災害級』の中で最も危険なの王異種と言われている。ゴブリンキングだってAランク冒険者一人で倒せる程の力なのだ。

 なら何故『災害級』に指定されているのか。それは、その種に王が誕生すると爆発的に数を増やして圧倒的な数で攻めたり、その区域の生態系を大きく崩したりするためだ。


 過去にゴブリンキングが3万を越える群れを成し、深夜に攻めてきた時には一夜にして小国が一つ滅んでいるのだ。その時は周辺諸国が手を取り合い、軍を出して討伐出来たが被害は甚大で王異種の危険性を決定付けた事件になった『ハーメリウスの悲劇』。冒険者に知らない者はほとんどいないだろう。


 シエルとカリナの二人は悪夢と呼ばれた魔物に恐怖したが相手は既に生き絶えている。冷静になった二人は討伐隊を統率している『ヒーリス』に報告した。


 『ヒーリス』は男二人に女一人の三人パーティで目立った功績は無いが積み重ねてきた実力と経験がある。そのため今回はリーダーとして選ばれたのだ。


「こいつがゴブリンキングか。死んでなかったら俺たちの方が全滅してたかもしれないな」


「縁起でも無いこと言わないでよウェクター。考えちゃうじゃない。動いたら囮はあなたね」


「首が切り落とされてるからアンデットにもならないよ。問題はゴブリンキング以上の驚異がこの森に居る事だ。人なら良いんだけど、魔物だった場合は最悪だよ」


「んなこたぁ言ってもよ。不自然な点しか見当たらないぜ?ゴブリンの半分以上は首が落とされてる、柄しか残っていない剣が多数...ん?これってやっぱ人じゃねえか?」


「可能性は高いけど、オークやオーガも武器は使えるからその上位種がやったのかもしれないよ?魔物が進化する原因は判ってないんだからレベル上げや進化のために血祭りにしたのかもしれない。そしたらもっと大きい脅威だ」


 現在ゴブリンキングの死体の周りに集まり、話し合いが行われている。シエルとカリナもその場にいた。今はこのゴブリンキングを倒した者が脅威となる敵かどうかを調べている所だった。喉を唸らせながら頭を捻る。

 といつの間にか消えていた『ヒーリス』の女冒険者、ケーラが戻ってくる。


「目を離した隙にどこにいってたんだ。危ないだろ?」


「そんなことどうでもいいから!ほら見て!黒い布切れが落ちてたんだけど、血も付着してるわ。これって人の血じゃないかしら?」


 勝手に一人行動をしたケーラを叱るウェクター。それをおざなりに返しながら手に持っていた黒い布切れを見せる。

 その布を調べている三人とは少し離れてシエルとカリナが話し合う。


「ねぇねぇシエル。あの黒い布、あいつの着てた服も黒のローブじゃなかった?」


「...似てるけど、違う...筈。だって街にいるから」


「ん~、確かにそうだけど。何も知らなくない?あいつこと。顔すら私達見てないわ」


「...ルティアに聞いたけど、見てないと言われた。でも、あれはたぶん知ってる。だから、今はそっとしておこう」


「ふうん...わかったわ。それにしてもシエル、妹のことならなんでも信じそうなのに意外ね。姉妹だからこそわかることがあるのかしら」


「...もちろん、私はお姉ちゃんだから」


 そう言って、シエルは微笑んだ。今日はシエルがよく表情を変えるようになってきたと、それを嬉しく思いながらカリナはシエルを優しく見つめた。それは姉が妹を思いやるような暖かく見守る。このままあの時の事を乗り越えて、その心の氷が溶けてくれることを。


 二人でユキの素顔の話をしている内に調査が終わったようだ。

 『ヒーリス』の面々がゴブリンキングの魔核と耳を持って近付いてくる。リーダーのハンネスが二人に話しかけた。


「すいません、お二人がゴブリンキングを発見していただいたおかげで予想より早く切り上げられそうです」


「いえいえ、偶然ですわ。それよりもその布切れで何かわかりました?」


 お礼よりも結果を知りたいカリナはそう答えると懇切丁寧に教えてくれた。


 付着した血は乾いていたものの、臭いや色合い、かかった布の状態で人の血であることがほぼ100%だと言うらしい。なので人の可能性が高い。

 さらに素材は一般的に使われている麻の布だが、実力を持った職人の手によって作られているそうだ。情報源はケーラ。


 つまり、今わかることは魔物の可能性がかなり低く問題は無さそうだ、と言うことだ。ギルドマスターに報告するらしい。討伐部位と魔核を集めたら街に帰還することとなった。


 その後、1日野営したあとにまたゴブリン(群れ)の死骸が散乱しており、焼死の他はほぼ首が落とされていた。一つ目と二つ目の群れのことから冒険者の間では『死神』がやったと噂されるようになった。



 その噂となった『死神』の現在は...


「ククさんおかわり!」


「はいはい、ルティアちゃんは?」


「わ、私はもういいです...」


「ルティアちゃん、もっと食べないと大きくなれないよ?」


「さすがに7杯も食べてるユキさんよりかは普通ですよ?そんなに食べたら縦ではなく横に増えてしまいますよ?」


「うえ!?それは嫌だけど...食いたいときが美味しいときだよ!」


「うん...ユキさんがそれでいいなら何も言わないよ。あ、これルティアちゃんにデザートね」


「ありがとうございます」


「ボクには?」


「無いよ」


「...いいもん、自分で作れるから...」


 宿屋で平和に夕飯を食べているのだった。


更新遅くなりました。


現在のユキのステータス


 名前 ユキ

 種族 吸血鬼

 年齢 16

 性別 女

 職業 吸血姫

 Lv 24


 HP 1160/1160

 MP 1270/1270


 STR 581

 DEF 216

 AGI  427

 DEX 291

 INT  565

 MDF 302


 〈特異スキル〉


 異世界言語翻訳

 吸血ノ聖姫

 詠唱破棄


 〈スキル〉


 剣術 Lv 5 ‘1up’

 槍術 Lv 2  ‘新’

 弓術 Lv 2 ‘新’

 体術 Lv 5 ‘新’

 投擲 Lv 4 ‘2up’

 跳躍 Lv 4 ‘2up’

 回避 Lv 4 ‘新’

 鑑定視 Lv 5 ‘1up’ 

 気配探知 Lv 5 ‘1up’ 

 魔力探知 Lv 2 ‘1up’ 

 隠密 Lv 4

 隠蔽 Lv 5 ‘1up’

 暗視 Lv 2 

 再生 Lv 5 ‘1up’ 

 魔力回復上昇 Lv 3 ‘2up’ 

 腕力上昇 Lv 5 ‘2up’ 

 脚力上昇 Lv 3

 身体能力上昇 Lv 5 ‘新’

 衝撃吸収 Lv 3 ‘1up’

 皮膚硬化 Lv 5 ‘3up’ 

 アイテムボックス Lv 4 ‘1up’

 火魔法 Lv 3 ‘1up’

 風魔法 Lv 2 ‘新’

 土魔法 Lv 2 

 光魔法 Lv 2

 闇魔法 Lv 2

 

 〈 称号 〉


 はぐれ転移者

 吸血鬼の姫

 リンルア神の加護

 小鬼殺し

 ゴブリン王殺し


 〈 装備 〉


 武器 - 鉄の短剣


 防具 - 体 - 黒狼毛の胸当て

     

    外装 - 黒のローブ

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