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え、この豚が領主...だと~

遅くなりました。すいません。

 冒険者ギルドのフロアには酒を飲む冒険者が5人、心配そうな顔をしているが傍観しているだけの年期の入った受付嬢が3人、後はルティアとデブの合わせて10人。そこにユキが入り11人が冒険者ギルドに居るのは全員だ。

 デブはルティアの体を舐めるようにじっくりと見つめる。ルティアは生理的に無理なのか鳥肌を立てながら手を振りほどこうとするが出来ないようだった。

 半殺し...いや9/10殺しにしてやろうと近づきながら相手のステータスを確認したユキは思わず足を止めてしまう。


「ぐふふふ...ん?何だ貴様は。わしがあまりにもイケメンだからと言って見惚れているでない。気色悪いガキに見られても嬉しくないわ。邪魔だ、そこをどけ」


 欲望に染まった気持ち悪い笑みを浮かべているデブ男は出入口近くにに立っていたユキを見下し、馬鹿にするような口調で命令される。もちろんユキは聞くつもりはない。

 しかし、この男のどこからそんな自信が来るのだろうか?どこからどうみてもイケメンより脂ギッシュな豚の方がお似合いだろう。もしかしたらこの世界の美的感覚が違うのかもしれないが、こいつだけは有り得ない。言われても納得できなかった。


 ユキは想像して軽い目眩に襲われながら相手を見る。ルティアがユキに気付いて口を開こうとしたが、ユキは片手を挙げて口に当てると“静かに"とジェスチャーをする。上手く伝わったルティアは目尻に涙を溜めながら、口を閉ざした。ユキはデブ男に向き直ると一礼し、相手の目を見ながら礼をした。


「これはデブァーラ様、お会いできて光栄です。私は旅をしてながら売り歩く商人、ユキと申します。以後お見知りおきを」


 ユキは〈鑑定視〉で視たデブ男が貴族、さらにはここアルティアの街の領主と知った、が怒り抑え込むのが難しい。

 深呼吸して落ち着かせる。まずはデブ男の興味をルティアから別のに移すことにした。一瞬殺そうと考えていたが実行すると後々面倒なことになるし、最悪街から出なくてはいけなくなるので中止した。殺しても誰も咎めなさそうな振る舞いだけど。

 こんなのが領主...と残念な物を見るかのように冷たく見詰める。

 だがここではルティアの身の安全が重要なので、こちらの印象を強くするために明るくテンション高めの男とも女ともとれる声の高さで、おかしな敬語を喋り始めたが。


「ふん、金に群がる虫が...私は忙しいのだ。貴様のようなゴミがこの高貴なる私の前に立つなど、身の程を知れ!さっさと去れ!」


 カチンときたユキはなんとか手が出るのを抑えながら話す。


「お待ちください。私、是非ともデブァーラ様に見ていただきたい物がございます。こちらをです」


 商人と名乗るユキをいつも群がる商人と同一視した領主は唾を飛ばしながらユキに怒鳴る。

 そんなデブァーラにユキはあるものを取り出して見せた。


「だからそんな...!それはデリシャスボアの肉ではないか!見たところ狩ったばかりのように新鮮な肉...いいだろう。ぐふ、ありがたくわしに捧げるがいい」


 見た目からしてもうお肉が大好物そうな領主。ユキは自分の持つ中で一番高価な肉を出すと喜んで飛び付いた。一目で新鮮さが解るとか、どれだけお肉が好きなんだろう。しかし、興味はユキ(の手に持つ肉)に移ったはずなのにルティアの手を放さない。

 ユキはこのまま交渉に入った。


「いえいえ、さすがに無料では無理でございます。しかし、そちらのお嬢さんを開放して頂けるのでしたらお渡しいたします」


「た、たかが平民風情が舐めた口を利きおって。この娘はわしの物だ!おい、貴様ら!いつまでも酒を飲まずにこいつから肉を奪い取れ!」


 命令を聞かないユキにデブァーラは怒りで頭が割れそうだった。領主になり、ほとんどの者が命令に従う。中には抵抗したり逆らったりしま者もいたが、いつも通り力で奪い取る。デブァーラにとってはいつもの事だった。

 金も女も、欲しいものは全て手に入れる。今回もそうなるとデブァーラは思っていた。


「分かりやしたよ旦那。ゴクッゴクップハー!へっへっへ、こんな奴一捻りでさ」


 テーブルに着いてた冒険者達が立ち上がる。酒を飲んで傍観しているだけかと思われたが、デブァーラの部下だったようだ。数は5人。酔っぱらってるのか顔は赤く、ふらつきながらもユキを囲んだ。

 どこの世界も貴族はこんなものなのか、と思いながら、ユキはザッと〈鑑定視〉で男達を視る。脳に流れるのはガセル並のステータスで魔法職はいない。今のユキの目には雑魚としか写らなかった。


「暴力はいけませんよ?」


「ひっく、これは暴力じゃねえよ。正義の鉄槌だぜ?なんせ俺らはこの街を守る衛兵だからなぁ!」


 街を守る?とほざいてる衛兵(笑)はそんな口上を述べるとユキに殴りかかる。

 だがそのパンチはガンドウに比べればあまりにも遅すぎた。ユキは軽く避けると一歩前に進み、腹に出来るだけ手加減して殴った。流れるように動くユキに男は付いていけず、その衝撃に意識を刈り取られると背中から床に崩れ落ちる。

 その場に居合わせた全員が、ユキの実力を少し知っているルティアでさえも、その光景を見て唖然とする。

 床に伸びてる男は5人の中でも実力者だったのに対し、ユキは誰の目にも止まらない速さで男を沈めたのだ。まさに瞬殺だった。


「これは暴力じゃありません。正当防衛でただ自分の身を守っただけです」


 シンと静まり返った部屋にユキの高めの声が部屋に響いた。


「き、貴様ぁー!よくもドルーを!これでもくら...ぐひゃ!」


 また一人。


「ぐぉおおおお!!ごぁ!」


 また一人と。


「う、うわぁあああああああ!...げぼらぁ!」


「ひっ、ひぃいいい!!」


 また一人と勝てないのがわかっているのに突っ込んでくる男達。それを全て腹パンで意識を奪う。最後の一人は恐怖からか、冒険者ギルドを飛び出していった。

 主を置いて......。


「ひ...ま、待て!そうだ、わしと取引しないか?ん?こんな使えない者共よりも貴様の方がよっぽど使えそうだ。高い給金も払う!どうだ?わしを守れて光栄であろう?」


 先程とは一変し、優勢が覆ったからか、顔を青くしながらユキを雇おうと話し掛ける。だが男達をけしかけて奪おうとしたのに、不利になったと思ったら身勝手に取引を持ちかける。上から目線で...

 もちろんユキがデブァーラに応える訳も無く、今だにルティアを掴んでいるデブァーラにユキは呆れてしまう。その手を離せばいいだけなのに。


「お断りします。それではお肉とお嬢さんを交換いたしましょう。こちらがデリシャスボアの肉、10kgです」


 断られるとは考えていなかったのか呆気にとられた後、顔をまた真っ赤にする。


「う、く!断るなんて罰当たりな!こんな乳臭い小娘がそんなにいいならくれてやる!」


「きゃあ!」


 断られた事に逆ギレすると乱暴にルティアをユキに突き飛ばした。この領主はどうやら出荷がお望みらしい。ハムにしてブラックウルフにでもあげてこようか。きっと食わないだろうけど、こんな不味そうなの。

 一瞬の間にそう考えたユキだったが理性を総動員し、握り潰した。今は豚の始末よりもルティアだ。うまく衝撃を逃しながら大切そうに受け止めた。約束通りに肉の入った袋を渡す。約束は破らない。ただ殺意を込めまくったので美味しくなるだろう。愛を込めて美味しくなるならね?なるよね?


 そんな想いが籠った肉を受け取ったデブァーラは重い袋を部下に持たせようとしたが、全員気絶中で誰もいない。持たせるのが居ないため渋々自分で持つと冒険者ギルドを出ていった。


「覚えていろよ平民風情が...」


 そんな捨て台詞を吐いて。



「う~ん...面倒な事になったかな?貴族との接し方なんて知らないからな~。まぁそうそう会うことは無いことを祈ろう。執念深そうたけど。それよりも、ルティアちゃん大丈夫?」


 もうあの領主には会わないと心に誓いながらルティアに怪我が無いか心配で声を掛ける。

 ルティアはユキの胸に額を押し付けながらコクコクと頷くと、甘えるように腕を背に回して抱き付いた。

 ユキも応えるように頭を撫でる。

 受付できゃあきゃあ言ってるおばさん達に心の中で溜め息を吐いた。おばさん達が発信源で受付嬢間で話が広がるんだろう。あんな啖呵を切ってしまったのだから。それに今のユキなら男の子に見えていたかもしれない。ユキは諦めとそれはそれでいいな、と嬉しさにルティアの頭を撫で続けた。


 がルティアのお姉さんを思い出し、顔を青くする。あの人はシスコンだ。広まったらシエルの耳に入ったら殺されてしまう。でも今はこの幸せな状況を堪能し、後で考えようと後回しにした。


 暫くするとルティアから規則正しい息遣いがユキの鎖骨の下あたりに当たる。ユキはルティアを起こさないように背負うと出入口に向かう。一度、冒険者ギルドを出る前にレミリィさんにお礼を言いたかったユキだったが、気配は感じ無いのでここにはいないようだ。

 予想では何か用事が出来てあのおばさん受付嬢達に預けた。けど領主では相手が悪かったのだろう。あの腐った貴族は絶対に仕返しに来る。気を付けていこう、とユキは思った。



「ククさん~居ますか?」


「あ、ユキさん!心配しましたよ!昨日は領主の館に入れませんでしたし、その後はここにいたんですがユキさん帰ってきませんし...」


 そのまま言い続けるククだったがユキが背負ってるルティアを見て固まってしまった。

 ちょっと身を引いているククにユキはルティアの事を説明しようとしてーー


「ユキさんその子どうしたんですか。まさか!拐ってきたんですか!でもなんで...は!ユキさんってまさかロリコン...」


 体を引いて後退させながら言うククが言い切る前にユキは誤解を解こうとする。ルティアを起こさないように声は控えめに、しかし焦り口調で話始めた。


「待った!ボクはロリコンじゃないよ!ノーマルだから!この子はパーティメンバーに頼まれたんだよ」


「本当ですか~?」


「本当だよ!逆にロリコン共から守ってたんだよ?ルティアちゃんは~そう、妹のような感じだよ」


 そう言いながらルティアからユキお姉ちゃんと呼ばれた呼ばれたのを思い返す。嬉しさに顔がニヤけるが、ククには仮面に遮られて見られることは無かった。一所懸命に尻尾をブンブンと左右に振りながらククは疑わしそうにユキを見つめたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「...まぁ嘘は言ってなさそうですね。血の臭いはしますが魔物の血ですのでそういうことはしてないみたいで良かったです。あ、お湯をご用意しますね」


「え、あ、うん。ありがとうございます。...今ボクって血生臭いの?わかるほどに?...くっ、浄化系の魔法は無いのかな」


 臭いと言われて意外にショックを受けたユキは定番の“使うだけで体がリフレッシュ!”の浄化が欲しいとぶつぶつ文句を溢す。実際あるか解らないがここはファンタジーの世界。ある可能性は高い。

 そう考えている間に自分の借りている部屋のベットの上にルティアを寝かせた。ゆっくりと寝台に下ろした後、やはり自分の臭いが気になり、腕や体を嗅ぐ。確かに血の臭いがする...と思う。数時間前に血を嗅ぎすぎたせいで嗅覚が麻痺しているようで血の臭いに慣れて解らなかった。

 お湯で落ちるかな、とユキが考えているとコンコンと扉がノックされる。


「はい」


「お湯をお持ちしました。両手が塞がってるので開けてくれませんか?」


「わかりました」


 扉を開けるとククがタライ一杯に入ったお湯とタオルを持って入ってくる。チラリとルティアを確認したククは別の部屋を貸してくれるようだ。ユキはお言葉に甘え、その部屋で体を拭いた。鍵をかけて着けていた物を全て外し、ゴシゴシと拭う。久しぶりの温かいお湯はユキの疲れている体を癒した。


 存分に洗い終わった後のお湯を見ると極々薄くだがピンク色に変色していた。普段着は替えて、ローブはそのまま着る。そして最後に仮面を着ければいつも通りになった。

 準備が終わると一階に下りククにタライとタオルと宿代のお金を渡す。宿代はもう一部屋借りるために渡した。今日はルティアをここに泊めようとユキは考えたのだ。

 そしてククに案内されたのはユキが借りていた部屋の隣だった。部屋の作りは同じで家具の配置が少し違う程度だ。ククが夕飯を作りに出ていくとユキはベットに飛び...込もうとしたが、鼻を打ったことを思い出す。〈アイテムボックス〉から毛布を取り出し、シーツの下に詰めて肩が凝らない程度には柔らかくすることが出来た。

 上から押して満足いく柔らかさなことを確認すると寝転がる。


「うんっ...はぁ~っ、疲れた~」


 体を伸ばしすと節々からポキポキと乾いた音が立ち、全身の力を抜く。大の字にぐで~んっと手足を脱力させて気を緩めるとこのまま寝たい気持ちになるが、ククが夕飯を作っているので寝るわけにはいかない。

 ただ天井をボーッと何もせずに見つめる。平和な今を時間だけが過ぎていった。




 次回は後書きにユキのステータスを載せます。

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