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ゴブリンの王

遅くなりました!すいません!



 頭を悩ませていたユキだったが数分後、何か閃いたかのように〈アイテムボックス〉に大剣を仕舞うと別の武器を手に出現させる。出したのは今までに戦ったゴブリンが持っていた武器だった。

 今度は右手に持ったそれとは逆の左手を、頭より上の位置に持っていった所で剣を手に出した。うまく柄を手の中に出してそれを数回繰り返し、脳と体に慣れさせる。

 慣れたかな?と思うくらいに繰り返した頃、試しに一旦やめてから出すと1秒以内に出せた。確認し終えたユキは口をニヤリと歪ませて、ゴブリン達を見下ろした。


「さて、やりますか!」


 ユキは両手に剣を持つと最初のターゲットにゴブリンメイジやゴブリンアーチャー等の遠距離攻撃が出来る者の場所を確認する。全部で74体を確認した後、左手に持つ剣を投げた。

 投げた剣はユキの身体能力が上がったことにより、以前よりも速さが段違いに上がっている。的確にゴブリンの頭に命中したが剣は止まらず、その後ろにいたゴブリンを次々に貫通し、5匹目でようやく止まった。剣は所々が欠けてゴブリンの血に染まり、もはや使い物にならなくっていた。

 その結果をユキは見ること無く、次のゴブリンへと投げ込んでいく。両手を使って交互に投げ、ほぼ1秒間隔で投げ込まれる剣によって突然襲われたゴブリン達は混乱していた。どこから攻撃されているのかと飛んでくる方向、つまりはユキを発見するがいるのは20m上の枝に立っており、ほとんどが剣を持っているゴブリン達の届く位置にはいなかったので攻撃手段は限られてくる。

 ユキを狙えるのは弓矢か魔法、もしくは投擲するのみだが、視認できない程の速度で飛んでくる剣により体が突き破られて数をどんどん減らされていった。

 残りの遠距離攻撃が出来るゴブリンは魔法や矢を放つが全て避けらたり、相殺されて当たらない。2分も掛からない内に800以下まで数を減らした。

 

「ほっやっとぉ!便利便利~♪いらない物でゴブリンを殺す。まさに一石二鳥だね!」


 意外と倒せることに気を良くしたユキは、試しに一本だけゴブリンキングに投げる。上級ゴブリンでさえも避けることが不可能な一投が風を引き裂きながら頭部に迫った。仲間が殺られていたと言うのに、静かに目を瞑って動かず立っていたゴブリンキングがユキの投げた剣の直線上に手を突き出すとそのまま動かなかった。受けるつもりなのだ。しかも素手で。

 当たれば殺れはしないものの傷は負わせられると思っているユキはその行動に驚き、攻撃の手を止めてその結果だけはしっかりと見ることにした。


 空気を切り裂きながら突き進む剣とゴブリンキングの手が衝突する。

 ドンッ!と重たい物が当たる音と共に砕けた音がユキの耳にまで届いた。広げた掌に当たった剣は刺さることなく剣先から柄まで粉々に砕け散り、パラパラと地面に落ちる。傷一つ付かなかった手を握るとカッと目を開き、その巨体からは信じられない俊敏さでユキのいる木に走り出した。

 それを見届けたユキは信じられないと首を横に振りながら剣を投げる。がことごとく交差した腕に防がれてしまい、走る速度を落とすだけだった。

 体は剣を投げることに、頭は対策を考える。


 まずゴブリンキングは鉄以上の硬さがある。倒すのに使えるとしたら大破岩剣か風魔の剣だろう。風魔の剣は明らかに魔剣だったが〈鑑定視〉のレベルが低いのか効果は解らないし、素材も解らない。けど闘い易さでは風魔の剣だ。一振りが大きい大剣じゃ隙が出来やすい。なので今回は風魔の剣を武器にして斬り込み、魔法で牽制する。よしこれでいこう。


「『アースウォール』」


 考えが纏まるとユキは魔法名を言葉に出しながら魔法を使用した。ユキは言わなくても使えるが言う方がカッコいいと思ったから、と言う理由だ。


 もはや周りのゴブリン達を抜けて独走しているゴブリンキングとそれに続こうと追いかけるゴブリン達の間に土の壁が現れた。高さ10m、横50m、厚さ3mの土が地面から浮き上がり、木々を倒しながら分断させる。

 それを気にも止めず走る速度を緩めないゴブリンキングは、後30秒もしない内にユキがいる木に辿り着くだろう。待つことはせずにユキは飛び降りる。


「とぅ!...あー、落ちてる感覚が、てい!気持ち悪い感じだよ」


 高い所から落ちる、しかも20mも上から。およそビル7階から飛び降りる高さだがもちろんユキは飛び降りた事は無い。臆することなく行けるのは今の体ならいけると感じたからだった。


 落ちてる間に鉄の剣を2本出して土壁の横から出てこようとしていたゴブリンに投げる。こちらに身を出していたゴブリンと、後ろにいた何匹かを突き刺して壁の奥に消えた。

 これで警戒して来ることがほとんど無いだろう。来たとしても同じことをするので、早々死にに来るやつはいない。一対一ならゴブリンキングに勝てる見込みだ。

 足を曲げて上手くローブが捲れないようにしていた足を伸ばして地面に着地する。踝辺りまで沈んだが、両手を地面に付かず着地出来たことにユキは驚いた。が今更かと思い直して相手を睨む。


「うわ、地面揺れてる。あのゴリ...ゴブリンキング堅そうだな~。大きさはオーガ並みって所かな?筋肉とかこっちの方が絶対有るけど」


 目の前のゴブリンキングが踏み込む度に立てる地響き、それはユキにまで聞こえてくた。

 相手が牛のように真っ直ぐユキに向かって来るが突然体を斜めにずらし、何かを避けるようにしながら進んできた。

 もちろんユキが使用した魔法だ。オーガの頑丈な体をも貫いた『影刺し』をゴブリンキングの進行方向に突然発生させるのだが、わかっていたかのようにことごとく避けられてしまう。


「避けたか、化け物め。まぁいいや。傷を付けられればボクの勝ちだしね!」


 避けられることは予想していたユキは風魔の剣を片手に駆け出す。ゴブリンキングの踏み込みのようにはならなかったが、それでも速い。

 ゴブリンキングの拳が届く範囲になると丸太のような右腕が風を切りながら突きを放つ。

 当たったらヤバそうな音を出す一撃。だが拳は見えていたし、その早さに体が追い付かないこともなかったユキは、身を屈ませて避けると伸びきった右腕の脇を抜けて、剣身を鍔から剣先まで滑らすように切り、抜けるとある程度の距離を取る。足を掛けられそうになったがついでに踏んづけて避けた。

 切りつけた部分は青黒く変色させただけで血の一滴も出なかった。


 摩擦で切れるかもと期待してたけど表面を傷つけただけか~。感触は固いゴムで衝撃にも強そうだ。

 でも皮膚を変色出来たんだし、完璧に効かないわけでは無さそうだね。目ん玉だったらいけるかもしれないし、そこを狙っていこうかな!


 なかなかえげつない事を考えながら相手を見ているとーー


「オマエ、ナカナカハヤイナ」


 ......しゃ、喋ったぁ~!?


 なんとゴブリンキングがユキがわかる言葉で喋りだしてきたのだ。無表情だった顔が、今では愉快そうに歪められ醜悪な顔に変わっている。

 ユキは驚愕し、あわあわするのを落ち着かせながら口を開いた。


「言葉が解るの?」


「アア、ワカルゾ。ダガソンナコトハドウデモイイ。ヒサシブリノ、ツヨイエモノダ。タノシマセテクレヨ?」


 意思疏通が出来る事が解ったユキは、ゴブリンキングの仲間を殺ってきたので可能性は低かったが話し合いが出来ないか考えていた。

 だがゴブリンキングは戦闘狂のような返事をしてきたので断念する。戦闘狂には戦う以外の選択肢は無かった。


「カンタンニ、ツブレルナヨ。ニンゲン!」


「ボクだって死にたくはないし、ルティアちゃんをすぐ迎えに行きたいんだ。だから早く死んでくれよ!ゴブリンキング...いや、ガンドウ!」


 ユキは相手の呼び方を名前に、固有名に変えた。知性があり、もはや他のゴブリンとは違う、言葉も交わせる相手に種族名ではこの異世界にいるであろう数の中の一匹だと感じてしまう。

 だからユキはゴブリンキングの名前で対応した。命を賭けるこの場ではちゃんと名前を言った方が良いと思ったからだ。


 お互いの視線が交差した二人は同時に動き出す。剣と拳が交える殺し合いを始めたのだった。




―――――――――――――――――――――




 ガッ!ドゴォ!ザーーッ!!


 避けきれなかったガンドウの拳にユキは自分から後ろに飛ぶことで威力を弱める。重ねて盾にした腕はあまりの衝撃に骨を軋ませ、右腕はポッキリと折れてしまった。

 転がるも左手を突いて体を浮かび上がらせて立ち上がり、相手を視界から外さないように警戒する。魔力は底を尽き、精神は疲労と当たれば大怪我か最悪死亡ですり減り、利き手は骨折で力が入らない。満身創痍だ。今ならガンドウの拳一振りで死んでしまうだろう。

 だがしかしそれはガンドウも同じだった。顔は愉快そうな顔から苦痛に歪み、片目から血が溢れてもう見えない。背中は全体的に火傷で所々に切り傷がある。ユキと同じく満身創痍の状態だった。


「ギィザマ...ゴロズ。ゴゴマデグゼンジタノハハジメテダゾ、ゼッタイゴロジデヤル」


「ははは、そりゃどうも。ゲフッ!ゴホッゴホ!...ふぅ。君も強かったよ。でも、次で終わりにしようか」


 ユキは喉から溢れる血を口から吐きながら歩く。先程の一撃で肋骨も何本か折れ、肺に刺さったのかもしれない。馴染み無い痛みは容赦なくユキに激痛が襲っていたのだが、顔を歪ませながらも堪えられているのは、もはや感覚が麻痺しているせいなのかもしれない。


「ガァアアアアアアアアア゛!!」


 初めて味わう死の恐怖を振り払うかのように、獣のような雄叫びを上げてガンドウはユキに殴りかかった。

 右手を後ろから勢いを乗せてきた腕を最初と同じように屈んで避ける。しかし、それを読んでいたガンドウは本命の回し蹴りで追撃した。避けられないだろうと確信したガンドウは口が歪んで笑みを作るが、骨や肉をグシャグシャにする感触が来なかった。


「ギ?ガ......!アアアア゛ア゛!アジガアアアア!!」


 回し蹴りを放った後、何故か上手く着地出来なかったガンドウは倒れてしまう。不思議に思いながら右足を見たガンドウは低く掠れた悲鳴を上げる。

 脚が太股の半ばから無くなっていたのだ。何回も斬られたが傷を付けることすら出来なかった筈だったのに、何故?まさか本当の実力を隠して遊んでいたのかも知れないと思い至ってガンドウは憤怒、恐怖、憎しみが入り雑じった目でユキを見詰めた。


「だから、もう終わりだったのさ。目玉やった時にね。君自慢の硬さの要因、〈皮膚硬化〉は戴きました!代わりに痛いの貰ったけど...」


 律儀に答えたユキは左手に持った剣を右手に・・・持ち替えながら笑った。


「バカナ......ソノウデハクダイタハズダゾ...」


「ああ~これ?正確には折っただけどね。治ってた。後肺と肋骨もね。いやはや、この体は凄いね。さすが〈再生〉だよ」


「ダ、ダスケ...」


「る訳無いよ。最後は戦士らしく...死になよ」


 ズルズルと体を引き摺らせてユキから距離を取りながら命乞いをしようと必死に呟く。

 それに笑顔で言葉を重ねながら首を切り飛ばし、止めをさした。〈鑑定視〉で死亡した事を確認した後、溜め込んだもろもろを溜め息として吐き出す。

 切り詰めていた気を緩ませてへなへなと尻餅をついく。


「やった...格上相手にボク勝てたー!」


 むくむくと湧いてきた勝利に拳を突き上げてユキは喜んだ。


 やったよ、やりたましたよ!

 ステータス視たときは怖かったけど、ボクは殺ることが出来たんだ!ふっふっふ、調子に乗っても誰も咎めないはず!

 いや、でも隙を突いて目を刺すことは成功したけど、その後がヤバかったね。当たってたのが体だったら死んでたよ。ぶるぶる。

 まぁ慢心は良くないよね。

 とりあえず土壁の近くで見守ってたゴブリンを殺りましょうか。レベルもスキルも上げ上げや~!!


 歓喜に震えてた体が治まると同時にユキは立ち上がり、残党狩りを開始した。

 もはや鉄の刃も通らぬほどになった防御力で相手の攻撃を気にせず斬りまくるユキはゴブリン程度では傷付かない。当然服がボロボロになり、片付く頃にはボロ布がくっついてるだけだった。仮面は紐が切れたので着けていない。これまでの事を考えると丈夫な仮面と紐だったとユキは思った。


 新しく紐を付けた仮面を加えて着替え終わり、スキルもあらかた獲ると日を確認する。今の時間は約二時だ。

 ユキは上機嫌にお気に入りの曲を口ずさみながらルティアの居る冒険者ギルドへと帰ったのだった。




―――――――――――――――――――――




「ふんふんふ~ん♪」


 北門を抜けて大通りを歩くユキはすでにアルティアに着いていた。もう警戒体制は解かれたのか歩く人がチラホラと見える。

 ユキの怪しい格好に訝しげな視線が集まるがそんなのは気にしない。それくらい機嫌が良かったのだ。


「今回は凄く頑張ったから祝いにデリシャスボアの肉を食べたいな~。お腹一杯に」


 よし!そうしよう!と考えながら見えてきた冒険者ギルド。ユキは自然と笑みが浮かぶ。不安の芽は摘んだから心配は無い。後はルティアと帰りを待つだけだとユキは建物に入り込むとーー


「や、止めてください!」


「ぐふ、私の言うことをきいて早く来い。屋敷でたーっぷりと可愛がってやるぞ?私に選ばれた事を光栄に思うがいい。ぐふふ!」


「いや!お姉ちゃん、ユキお姉ちゃん助けて...」


 そこには脂ぎった顔に高そうな服が台無しなでっぷり腹の中年おっさんが、超可愛い天使のような美少女が瞳に涙を溜め込んでるルティアを今まさに無理矢理連れ去ろうとしている現場を発見。

 ユキは一瞬固まった後、笑顔になった。悠然と歩み寄る。


 こいつは、赦さない。



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