起きたら外に出かけよう~
戦闘は次になりそうです。すいません。
「うん~...っはぁ。よく寝た~」
窓から入る朝の日差しが顔に当たり、眩しさに手を翳しながら上半身を起こす。肩まで掛かっていた掛け布団は落ち、少し冷え込んだ空気が身を冷やした。
瞼を擦りながら片手を上に挙げて伸ばし、体の凝り固まった節々を伸ばす。ポキポキと鳴らしながら目を開けると視界に入るのはククの宿屋でも無く、もちろん日本のユキの部屋でも無い。ユキは知らない部屋に寝ていたのだと瞬時に理解する。
「え!!ここどこ!?てか眩しい...」
ユキは完全に意識を覚醒させると現状把握に頭を使う。まず出入口の扉を見ると木製の扉で見たところ鍵は付いていない。
次に見たのは机の上に可愛い小物が置いてあるので女の子の部屋、もしくは女の子が整理している部屋だろうと推測したユキは一先ず安堵した。閉じ込める部屋では無いと。
落ち着いたユキは〈気配探知〉で周りを探ると一つの反応が感じられた為、ユキは気を引き締めるが、同時に冷や汗が止まら無くなるほど緊張する。何故なら、その反応は。
直ぐ近く、布団の中に居たのだから。
ヒィ!っと小さく高い悲鳴を上げて逃げようとしたユキだったが、服を掴まれているのか逃げられない。落ち着け~っと心に言い聞かせながら布団を一気に捲った。
そこにいたのは白色のパジャマを着た天使...もといルティアだった。
ユキは知ってる人物だった安心と、何故同じベットに?と思ったユキは昨夜の事を一生懸命思い出そうと記憶を辿る。
昨日はたしか...そう!お屋敷に入れなかった!
で、えっと?それで、ルティアの家に行く事になって...着いてから夕飯をご馳走になって...布を借りて体の汗とか拭かせて貰って...その後は~……あ!お客様用の部屋を使わせて貰ったんだ!
すぐベットに入って寝たんだけど、ルティアちゃんはいなかったような?
いくら首を捻って考えても思い付かなかったユキはとりあえずベットから出ることにした。ルティアの手から服を離すとベットから降りて窓に近づき、眩しさに慣れ始めた目で外を見る。
空は雲一つ無い快晴。のびのびと元気に風に揺れる草花。魔物の大群が攻めてきているなんて感じられないほど平和に見える風景に違和感があるとしたら、人が外に誰もいないことだけだった。
ユキは一つ欠伸をするとベットに戻り、すやすやと眠るルティアに掛け布団を掛けてから部屋を出る。ユキはキッチンに向かうと顔を洗い、素顔を知られているルティアしかいないので仮面は着けずにローブだけ着て身支度を整える。
よし!っと気合いを入れたユキは朝食の準備を始めた。
丁度作り終える少し前に朝の鐘が鳴る。ルティアがもぞもぞと起き上がる気配を感じながら急いで仕上げた。
ユキが作ったのは野菜スープ、パンにデリシャスボアの肉とレタスのような野菜を挟んだサンドイッチにデザートは剥いたラノフの実だ。
並べ終えた頃にちょうどルティアが慌てたように部屋に入った。
「はぁ、よかった...。おはようございます、ユキさん。あれ?その朝食は?」
ユキを見ると安心したように笑顔になり、次いで視線をテーブルに移すと並ぶ料理に目を丸くして疑問を口にした。
「今日はお泊まりさせて貰ったからね。ボクなりのお礼だよ。あ、安心してね?家にあった食材は使ってないから!」
「ありがとうございます。でも気にしなくていいんですよ?ユキさんはお客様なんですから。それに家にある食材なら使っても良かったんですよ?」
「気持ちの問題さ。それよりも冷める前に早く食べよう!ささ、座って」
ユキはルティアをテーブルまで押すと椅子を引いた。お礼を言いながら座った事を確認したユキは対面に座ると早速食事を始める。
ルティアが美味しいと言う度にユキは嬉しくなる。ふと、ユキはルティアに聞きたいことがあるのを思い出した。
「ルティアちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「はい?何ですか?」
「朝にルティアちゃんが一緒に寝てたけど、昨日はたしか一緒に寝てなかったよね?」
「あ、あれは!......その......怖くて、寂しかったから夜にこっそりと......ごめんなさい」
「いやいや、別にいいよ。むしろいつでもウェルカムだよ!」
「あ、ありがとうございます。でもウェルカムってなんですか?」
「え、あ、うん。な、何でも無いよ...ただ、言ってみただけさ」
ルティアは首を傾げるだけで特に気にせず、食事に戻る。
ユキはそんな様子のルティアを見て安堵する。先程の自分の言葉にあれは無いな~、と思いながら自分の分の朝食を平らげていった。
朝食が終わり、ユキとルティアはリビングで今日はどうするか話し合う。現状を知りたいユキと姉の安否が気になるルティア。
とりあえず二人の知りたいことが聞けそうな冒険者ギルドに行けば、何かしらの情報が得られるだろうと行動に移した。
数時間後、二人は冒険者ギルド一階の受付にいた。対応してくれたのはレミリィで、あと居たのは数名のみ。ギルド内は閑散としていていつも騒いでいた冒険者は誰もいなかった。
「今の現状ですか?」
「はい」
仮面とローブ姿のユキとルティアを交互に見た後、いつもの接客用の笑顔で説明してくれた。
魔物の大群は大体が中級以上のゴブリンで構成され、その中に群れの大将はいなかったそうだ。それでも数は3000を越す魔物群れ。
対策としてまずは防壁の上から各々の最高の魔法を放って数を減らし、残った魔物が混乱してる内に門から冒険者達が殲滅したそうだ。
その後ギルドマスターの指示により、ボス討伐のため、ランクC以上の部隊を編成してついさっき出発。いつ帰ってくるかは未定だとのことだった。
「現在は警戒体制にあるだけで魔物は撃退出来ています。後は討伐隊が成功すればいつもの街に戻りますよ」
「ありがとうございます。何か進展があったら教えてくださいね」
お礼を言うとユキは冒険者ギルドから出る。隣にいルティアは終始そわそわと落ち着きが無かったが、ギルドの外に出るとユキと繋いでいた手に力を入れ、意を決した顔でユキを見つめる。
「ユキさん、リクルの森に行きます。ですからユキさんは私の家で待っていてくれませんか?」
「それは......ダメだよ、危険すぎる。一緒にシエルさんとカリナさんが帰ってくるのを待とう」
「でも!もう待つのは嫌なんです!!」
いきなり声を大きく、悲痛に満ちた声を上げたルティアにユキは驚いた。性格からして大きな声を出したのも驚いたが、自分が行ってもどうにもならない、むしろ足手まといになるのを解っている筈なのに行くと言ったからだ。
何が彼女をそこまで駆り立てるのかはわからないがシエルとの約束がある。行かせる訳にはいかなかった。
「ボクはシエルさんとの約束を破るわけにはいかない。どうしてそう思ったの?」
「私は...お父さんが亡くなったあの日、家で待ってるだけでした。あの時の私に何も力はありません。でもどうしても考えてしまうんです。私にも何か出来たんじゃないかって。ギルドに来る少し前から精霊が騒いでるんです。もしかしたらお姉ちゃんに何か良くない事が起きるかもしれない。だから私は私に出来ることがしたい。後悔しないようにお姉ちゃんを追いかけたいんです。だからユキさん、お願いします」
「そっか...うん、ボクはルティアちゃんの気持ちは本人じゃないからわからない。慰めることは出来るけどそれじゃ納得しないよね?う~ん...よし!」
「ゆ、ユキさん!?」
ルティアが驚いた声を上げる。何故ならユキが抱き付いて頭を撫でてきたからだ。突然だったので反応が出来なかったルティアは顔を真っ赤にさせていたが、段々と瞼が落ちてトロンと眠そうな顔に変わった。ルティアは急激に襲ってきた睡魔に抵抗したがガクリと力が抜け静かに寝息を立て始める。
何度か揺すり、起きない事を確認したユキはルティアを背負って冒険者ギルド内に戻る。レミリィは戻ってきた二人を不思議そうに見つめた。
「どうかされましたか?」
「レミリィさん、ちょっとこの子を寝かせられるところはある?ボクの力じゃあ家まで運んであげられないからさ」
「あぁ、分かりました。では応接室をお貸しします。こんな状況ですから使う人がいません」
「お願いします」
レミリィの後ろを付いていくと部屋に入る。中には机とソファー2つのシンプルな部屋だった。ユキはソファーにルティアをそっと降ろして寝かせた。
「レミリィさん、ルティアを少しの間だけ頼めますか?」
ユキは屈んだ体勢から立ち上がると扉近くにいたレミリィにルティアを少し預かって貰いたいと頼む。レミリィは少し悩んだ素振りを見せるも直ぐに肯定してくれた。
「いいですよ。今は待機中なので暇を持て余していたところですから。でもユキさんはどちらに?」
「あぁ、ちょっと芽を摘んでくるだけだよ。後は頼みますね~」
「はい。お気を付けて」
レミリィに見送られながらユキは退室し、冒険者ギルドを出た。周りに誰もいないことを確認すると北門がある方角に歩き出す。
「さてと、不安の芽を取り除きに行きますか」
ユキの呟きが風に溶けて消えていった。
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「おー、沢山の足跡が...辿れば討伐隊に追い付けるのかな?」
現在、ユキはリクルの森の入り口に立っている。門が通れるか心配していたが魔物が周囲に居ないこともあって、人が数人通れるだけの隙間が開いていたので何事も無くユキは来ることが出来た。
森の中には草が踏み固まっているのが奥まで続いていたのでこれを追いかけ、抜かす。奥にいるであろうボスを倒せばシエルとカリナの安全性がぐんと上がる筈、そう思いながら森に踏み込んだ。
ユキは短剣を手に持つと森を駆ける。
足跡を辿ってると所々にゴブリンの死体が放置されてるので討伐隊がここを通ってるのは間違い無い。血を飲んでスキルを奪いながら進むユキは〈気配探知〉によってゴブリンの気配が探知できた。
進むごとに数が増し、今では500を越して進行方向の道を分断されている。
前に進んでいることから討伐隊を挟み撃ちしようとしている可能性が出てきたのでユキは考えた後、迷わず狩ることにした。
さすがに短剣だけでは時間が掛かりそうと思ったユキは〈アイテムボックス〉から【大破岩剣】を取り出すと右手に持って、短剣は腰の鞘に仕舞っておくと大剣を片手で軽く振る。あの時のオーガより力が上になったユキには問題なく扱えた。確認したユキは満足そうに頷く。
「よっしゃ~、ボスの前の肩慣らし!経験値とスキル上げだー!」
500の群れにスキップで近づいていくユキに恐怖の無かった。