明日に備えて眠ろうか~
激しく鳴る鐘の音がギルド内を響き渡る。朝昼夕と鳴る鐘が夜にも鳴る意味が理解できないユキは周りを見渡した。
いつもは酒を飲んで馬鹿騒ぎしている冒険者は己の得物を手に立ち上がる。受付嬢は忙しなく動き回り、何か大変な事が起きてると思ったユキはシエルとカリナの方に向くと、シエルが慌てた様子でカリナに詰め寄ていた。
「...ルティア、所に行く!」
「分かったわ。ルティアちゃんを避難させたらここに集合。おそらく冒険者ギルドから召集が掛かると思うからまたね」
了解を得たルティアはそのまま外に走り去っていった。それを見送ったカリナはユキに顔を向ける。その表情は真剣そのものでユキは緊張感漂う空気にゴクリと唾を飲んだ。
「ユキは今の鐘が何なのかは知ってるかしら?」
「いえ!知りませんです!はい!」
ビシッ!と敬礼しながら言った。
「...まあ村とかには無いから仕方無いわね。いい?これは敵襲を知らせる鐘よ。元は魔族が攻めてきた用だったんだけど、今は魔物の大群が攻めてきた時に知らせる鐘になってるのよ」
「じゃあ、今魔物の大群が来てるんですか!?」
そりゃ大変だ!今すぐ逃げなくては!...あぁダメだった、この世界の地理知らなかったよ...
「そうなんだけどね。ここはリクルの森の近くで、年に何回かあるから行事みたいなものよ。この後冒険者ギルドが緊急依頼を出して何かしら行動に移すの...あ、来たわね」
丁寧に説明をしていたカリナが視線を受付に向ける。釣られてユキも見るとカウンター奥の階段から一人の男が降りてきた。
見上げる程の身長、体は筋肉隆々として刃をも通さなそうだ。
その男は鋭い目付きで周りを一睨みし、静かになったギルド内で口を開いた。
「これより緊急依頼を発生する!情報によると攻めいる魔物はゴブリンだ!数は確認出来ただけでも1000以上はいる。参加者はランクE以上、それ以下は街で待機だ。報酬は参加で銀貨5枚を与える。ちなみに、ボスを討った者は金貨5枚だ!準備が出来次第北門に行くぞ!!」
『オオオオオオーー!』
その男、ギルドマスターの言葉にギルド内にいた冒険者達が雄叫びのような声で気合いを入れた。女性の冒険者は叫ばなかったが手を挙げているので気合いは十分そうだ。
カリナは稼げる為かいつもより殺る気に満ちた顔をしている。そんな彼らの気合いの入りようにユキはついていけず、カリナに宿屋に戻ると一言掛けてから外に出た。
外に出ると夜の暗闇を照らす街灯の下、街の人がぞろぞろと中央に向かって歩いていた。おそらく避難所みたいな所に向かってると思ったユキは流れに乗り宿屋への道を歩いていく。
すると人の波の中に見知った髪が二つ見えたユキは歩く速度を上げて二人の背後に近付いた。
「シエルさん、ルティアちゃん」
声を掛けた瞬間、シエルがルティアを背中に隠しながらこちらを振り向く。警戒しまくりにユキを見ると誰か分かったのか警戒を解いた。
「こんばんわです。ユキさん」
「...びっくりした、ルティアのあまりの可愛さに近寄ってきた変態かと思った」
「お姉ちゃん!恥ずかしいこと言わないでよ!すいません、ユキさん」
「あはは...まぁ自分でもこの格好は怪しいと思ってるから気にしてないよ。それで二人は何処に行こうとしてたの?」
「あ、はい。中央にある領主のお屋敷ですね。先ほどの鐘が鳴ったらそこに避難するようになってるんです。今の領主には近づきたく無いんですが、命の方が大事です」
「成る程、じゃあボクも行かなきゃかな?冒険者ランク低いから街の中に待機だからね」
ギルドマスターが言ってた内容を思い出しながらユキは言った。
その言葉にシエルは何か考え事をすると、妙案が思い付いたようにユキを見た。
「...良いこと思い付いた。ユキ、ルティア頼める?私、討伐行かなきゃいけない。ルティア一人は心配」
「ん?良いよ?」
別に今のところ暇人だしね。
「...報酬は払...良いの?感謝!」
すぐに了解を得られたからか動きが止まると手を握られ、ブンブンと上下に振られる。
「うん、報酬も要らないよ。んじゃルティアちゃんと待ってるね」
ルティアが話についていけず、呆然としてる間に話が決まった。シエルはカリナと合流するべく、冒険者ギルドの方角に走り去っていき、それを二人で見送る。
そこでようやく事態を理解したルティアは今更断る事も出来ず、ユキに「よろしくお願いします」と諦めたように、けれど少し嬉しそうに言った。
「それにしても、人が多くてはぐれちゃいそうですね」
シエルとの約束の為、行き先を宿屋から中央の領主のお屋敷に変更したユキはルティアの呟きが耳に入った。
「なら手でもつなぐ?」
「え!いいんですか!?」
半分冗談で言ったユキだったがルティアの食い付きぶりに驚いた。会って日が経ってないから断られると思っていたのだが、それは外れてしまった。
しかし、言った手前こちらが断るのもおかしいし、はぐれるのを防止するためだとユキは出来るだけ紳士的に手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながらルティアがユキの手をとる。それだけで頬が赤くなってしまう。親と幼馴染みの由香以外の異性と手を繋いだのは初めてだったので恥ずかしく感じていた。
ふと、繋いだ右手が微かに震えてるのが伝わってくる。ここで自分のせいな!?っと思ったユキだったが、いきなり手を離さないのは理由が思い付いたからだ。
街の外には魔物の大群。年に何回かあると言っても恐怖感が無くなる訳ではない。
さらに、そこには唯一の肉親のシエルが討伐に行っている。シエルは強いが、必ずしも帰ってくるとは無い。心配するだろう。
ユキは少しでも安心させるために握る力を強くした。励ますように。ルティアの姉は強いんだと、必ず帰ってくると安心出来るように。
ルティアはハッとユキを見上げると目尻に涙を溜めながら安心したような優しい笑顔を見せた。
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それからは仲良く手を繋ぎながら街の中央に向かって歩く。
他から見たら美少女が全身黒のローブで隠した怪しい奴に手を引かれていると見えるので、街の人は心配そうにルティアを見ていたのだが、二人は気付かなかった。
建物や道を見て記憶していきながらユキとルティアは会話をした。内容は好きな食べ物や魔法について等の雑談をしながら前に進んでいたが、お屋敷までもう少しかな、と言うところで人が足を止めて壁となり前に進めない。ユキ達も足を止めた。
「何かあったんでしょうか?」
ルティアが不安そうに聞いてきた。もちろんユキにも分からないが、何で立ち止まるのか少しでも情報を集めるために前方の人達の会話から聞き取る事に意識を集中した。
「何で立ち止まッてんだ?後少しで領主様のお屋敷なのに」
「いや、何でも門が固く閉じられて中に入れてくれないらしいぞ」
「はあ!?今回のように襲撃が有った場合にお屋敷が避難所にしてたじゃないか!何でまた......!デブァーラ様か!」
「しっ!お前声が大きいぞ!衛兵に聞かれる。まぁ今の領主様に変わられてから街がどんどん悪いくなってるのは確かだけどな。はぁ~」
ここでユキは集中力を切って聞いた情報を整理する。
避難所に設定されているお屋敷の門が現領主のデブァーラによって固く閉じられ、中に入れない。と言うことか。
理由は領主が怖じ気づいて立て籠ったか、あるいは見られたくないものが有るとかかな?どちらにしろ上に立つ者のやることじゃないね。
はぁ~、この後どうしようか。デブ領主死んでくれないかな...
「ユキさん!」
段々と物騒な事を考え始めたユキだったがルティアに声を掛けられ、正気に戻る。
「え?あ、ごめんね。ちょっと考え事してたよ」
「何回も声を掛けてたのに反応しないからビックリしました」
「本当にごめんね?いや何でも進めない理由が領主のお屋敷に入れない、入れてくれないらしいよ?」
ユキは困った困った~、と言いながら頭を掻く。ククの宿屋にでも行こうかと考えていた時、ルティアが提案を出した。
「なら...私の家に行きませんか?『障壁』が張られてるので安全性も高いです」
「ん~……お言葉に甘えていいかな?」
「もちろんです!早く行きましょう!」
ルティアを守れればいいと思ったユキはその提案に乗る。
ユキの了承に喜色満面の笑顔でユキの手を引くルティア。ユキは苦笑いしながらも引っ張られるようにして足を動かしていった。
次話は戦闘に入りたいです。
現在のユキのステータス
名前 ユキ
種族 吸血鬼
年齢 16
性別 女
職業 吸血姫
Lv 15
HP 800/800
MP 820/820
STR 401
DEF 162
AGI 365
DEX 201
INT 383
MDF 189
〈特異スキル〉
異世界言語翻訳
吸血ノ聖姫
詠唱破棄
〈スキル〉
剣術 Lv 4
投擲 Lv 2
跳躍 Lv 2
鑑定視 Lv 4
気配探知 Lv 4
魔力探知 Lv 1
隠密 Lv 4
隠蔽 Lv 4
暗視 Lv 2 ‘1up’
再生 Lv 4
魔力回復上昇 Lv 1
腕力上昇 Lv 3
脚力上昇 Lv 3
衝撃吸収 Lv 2
皮膚硬化 Lv 2
アイテムボックス Lv 3
火魔法 Lv 2
土魔法 Lv 2
光魔法 Lv 2
闇魔法 Lv 2
〈 称号 〉
はぐれ転移者
吸血鬼の姫
リンルア神の加護
小鬼殺し
〈 装備 〉
武器 - 鉄の短剣
防具 - 体 - 黒狼毛の胸当て
外装 - 黒のローブ