森の中をパーティーで~
リクルの森へと来た3人はまずそれぞれの実力を見せる為に一人ずつ戦う事になった。一番手はカリナ、二番手がシエル、最後にユキといった順に決まると森の中を進んで行く。
程無くして、2匹のゴブリンを見つけることが出来た。行ってくるわ、とユキ達に一声掛けてから腰の剣を引き抜くとゴブリンに真っ直ぐ向かって走ってく。
駆けるカリナに気付いたゴブリン達は手に持っていた木の棒で迎撃しようと構える。が、カリナの剣がゴブリンの首を跳ばす方が早かった。目では捉えきれない程の剣速で気付いたときには振り切った姿勢で止まっていた。
「「ギ!!......ギャ」」
2匹は似たような反応をした後、地面に体と頭を離して倒れた。カリナは剣を振って血を落とすと鞘に仕舞う。代わりに鉄製のナイフを手に取り、ゴブリンから耳を切り取ると戻ってきた。
「これで私の実力はわかった?」
「いや~、全然わからないです。接近する時に速かったのと、剣の一振りでゴブリンの首が跳んでたのが見えたくらいですよ?剣なんて速すぎて見えませんでしたし。すごかったです」
「ど、どういたしまして?ユキは職業戦士なら鍛練を積めば出来るようになるわよ」
「...はい、頑張りますよ!」
戦士職じゃなく、戦闘職かも怪しいのに就いたから無理かもな~、とユキは思いながらもそう返した。
返答が遅れたことにどう思ったか、ユキはカリナを見るとそっぽを向きながらも頬に赤みを帯びさせて嬉しそうにしていた。可愛いとユキは思ったが、手に持つゴブリンの耳が無かったら更に良かった。
「...次は私の番」
カリナに対抗心を燃やしているのか、ヤル気に満ちた雰囲気でシエルが杖を腰の【アイテム袋】から取り出した。表情に変化はほとんど無いので雰囲気から感じ取ることが出来た。
さらに森を進む。地球には絶対いないような鳥や虫が鳴き声を上げる中を歩くと、ユキの〈気配探知〉にゴブリンが引っ掛かる。進むごとに増えていき、およそ10匹位のゴブリンがこの先にいることが解ったユキは二人に伝えるかどうかを迷っていた。さすがに多すぎるのでは?と考えたからだ。
でもユキは伝えないことにした。スキルがバレるし、昨日のシエルが使っていた魔法と二つ名が付く程の実力があるから大丈夫だろうとの判断だった。実際にはユキが、氷の魔法で一掃しているのを見てみたかったから、と言うのもある。
そのまま進んでいくとゴブリン達が見える距離になった。
「いたわ、ゴブリン。見た感じ10はいるわね」
「...ん、問題ない」
「あの~、大丈夫なんですか?数が多すぎる気がするんですけど...」
シエルはユキに振り向くとまるで大丈夫だ、と言っているかのようにコクリと頷いてゴブリン達に近付いて行った。距離にして約20m位の位置で足を止める。ゴブリン達はシエルに気付いておらず、「ギギャ!ギャキキ」と会話?をしている。
どうなるかわくわくしながらユキは見ているとシエルは杖を上に掲げる。
するとシエルの上空に20を超える氷が出現し、ゴブリンに殺到する。氷は一つ一つが鋭利に尖っていてゴブリン達を地面に縫い付けるように刺すと、その刺さった部分から凍り付いていく。全身が凍っても降り止まず、氷の彫刻となったゴブリンは粉々に砕け散って数分もしないうちに緑豊かな森の一部が一変、地面も木もすべてが氷に変わってしまった。砕けた氷の破片が光に反射して幻想的になり、一瞬ここが森の中と言うのを忘れてしまう。
その反応に良くしたシエルはドヤ顔で胸を張るが、いつの間にか近付いていたカリナに頭を叩かれた。
「...いたい」
「馬鹿シエル!粉々にしちゃったら証拠部位の耳が採れないじゃない!!」
「......あ。も、問題ない。次がある」
「はぁ、今回はあんたの報酬分から引いておくからね」
「...!!きょ、拒否する!」
「ダメ」
「あの、許してあげたら...」
ユキの言葉にシエルはコクコク!と首を縦に動かしながらうっすらと涙を浮かべて必死だ。どうしてこんなに必死なのかユキは思ったが、すぐに思い当たる。シエルはルティアとの生活費の為にお金が必要だっはずだ。ランクCなのでお金に困ってるようには思えないが、お金の大切さは分かる。それに今回の依頼は二人のご好意で同行してもらっているのでユキは申し訳無く思った。
カリナはそこまで怒っていなかったのかシエルを許した後はユキに視線を向ける。
「最後はユキね。そういえば武器は何を使うのかしら?」
「短剣ですよ?」
ユキは腰から短剣を抜いて二人に見せる。
「わかったわ。初めてなんだから複数とは無理だろうから...次の獲物を見つけて、複数いたら私とシエルで1匹残して後は倒す。それでユキが一人で戦う、でいいかしら?」
「...わかった」
「頑張ります!」
打ち合わせが終わると凍り付いた場所を抜ける。方向は街から逆でリクルの森の奥へと歩いていった。
根や草などで歩きにくい獣道を歩くこと20分、ようやく次の獲物を見つけることが出来た。数は3匹で運良くゴブリンを見つけられた。ただ、今までのゴブリンよりも少し大きい。不思議に思ったユキは〈鑑定視〉で視てみる。
名前
種族 中級ゴブリン
性別 オス
危険度 E
Lv 11
HP 212/240
MP 20/20
STR 70
DEF 52
AGI 89
DEX 12
INT 2
MDF 6
〈 特異スキル 〉
〈 スキル 〉
剣術 Lv 2
腕力上昇 Lv 1
繁殖 Lv 2
〈 称号 〉
ゴブリン王の配下
〈 装備 〉
武器‐鉄の錆びかけの剣
ユキは視た鑑定結果に思わず二度見してしまう。今までいた魔物に無かったものがそのゴブリンにあったからだ。そのことについてどうするか、ユキは考える。
あの〈称号〉が厄介事の予感しかしない!
だってあのゴブリン王がさ、ギルドから借りた魔物の資料に載ってたんだ。でも...災害級って所に在ったと思うんだけども。
...何だろうね?カリナさんは普通のゴブリン、シエルさんは少し多いゴブリン、ボクは災害級ゴブリン王の配下とかおかしいよね...
よし!ギルドに報告して何とかして貰おう!資料にも報告しろって書いてあったしね!
一人納得したユキは短剣を握り直したり、動きのシミュレーションを脳内で行っていた。
「あのゴブリン達......中級に進化してるわね。危険度Eの魔物だから今回は私とシエルの二人で倒しましょう。初心者には荷が重いわ」
「...ん、わかった」
「?じゃあボクは待機ですか?」
「ええ、いきなり危険度Eの魔物は危ないわ。中級はもっと奥だったと思うのだけど...読みが外れた。あの3匹を倒したら戻って次を探して、その時にやればいいわよ」
「...ここはお姉さん達に任せる」
「はぁ、分かりました。ここで待ってます。ケガには気を付けて下さいね」
「あの位なら大丈夫よ。行ける?シエル」
「...いつでも行ける」
お互いに頷き合い、武器を構えて走り出した。中級ゴブリン達は二人に気付いて迎え撃つ。
先制はシエルだった。杖に魔力を込めると槍の形の氷が右側のゴブリンに向けて放たれる。腹を狙うように放たれた槍はゴブリンの剣で弾かれるが、槍の後ろにいたカリナによって首を切り飛ばされた。残りは2匹。
仲間を殺されて一旦距離を取ろうとした近くのゴブリンにカリナはそのまま体を回転して胴体を斬ろうとするが、ゴブリンは剣で体を守り、後ろに跳んで距離を取る。もう1匹は森の奥へと走り出し、カリナの攻撃を防いだゴブリンはすぐに間に入ると剣を構えた。殿を務めるようだ。
ユキは2人と1匹が睨み合ってる中、逃がしたゴブリンがゴブリン王に知らせたら面倒なのでサクッと殺ることにした。
逃げたゴブリンの数歩先に魔力を送り、『アースフォール』で穴を開けて落とす。落ちたら上を『アースウォール』で塞いで『アーススパイク』でトドメを刺す。これで安心とユキは一息吐くと正面に視線を向けた。
戦闘は終わったらしく、中級ゴブリンの耳を剥ぎ取ってからユキの場所に帰ってきた。
「お疲れ様です」
「...楽勝♪」
「まぁこれくらいはまだね。じゃあ戻りながら次に行くわよ」
「はーい」
カリナを先頭に来た道とは別の道から街に戻る。10分、20分、30分、1時間と歩くが魔物に遭遇しない、ユキの〈気配探知〉にも引っ掛からなかった。森の中はユキ達の歩く音がするだけで風も吹かず、不気味な静けさだ。ユキは嫌な予感がしたが気のせいと思いながら、カリナの後に付いていった。
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「あーもう!何で1匹も魔物がいないのよ!」
「...せっかく、魔力が暖まってきたのに」
「不思議ですねー」
あれから魔物に遭うこともなく、太陽が沈み初めてきたので冒険者ギルドにユキ達は帰ってきていた。現在は受付待ちの列に並んで今日の結果を愚痴っている。
カリナは不機嫌さを隠さずに、シエルは無表情だが声に不機嫌さを出しながら言い合っていた。
「今日は食費も稼げなかったわ」
「...ルティア、ごめん」
「あの、すいませんでした」
本当ならユキより高いランクの二人を低ランクの依頼に行かさせてしまったことに罪悪感を覚えたユキは謝った。二人は何故謝ったのか思い当たると苦笑いしながら首を振った。
「ユキのせいじゃ無いわよ。たまたま運が無かっただけで」
「...うんうん」
二人の優しさに胸が温ませ、いい人達に会えた幸運に感謝した。その後、雑談をして暇を潰していると程無くしてユキ達の番となった。
「お帰りなさい。ユキさん、カリナさん、シエルさん。依頼達成報告ですか?」
「こんばんは、レミリィ。今日は上手く稼げなかったわ」
夕方、と言うにはもう遅い時間帯で受付にいたのは初めにお世話になったレミリィさんだった。
カリナが依頼書を渡してから討伐部位を渡す。
「あら?【ゴブリンの討伐】依頼ですか?......ああ、ユキさんランクGでしたね」
「今回はユキの実力を知りたかったんですけどね。魔物が予想以上にいなくて無理だったわ」
「でも依頼は達成したのですからユキさんはランクFに上げますね。後はこちらが依頼達成報酬でゴブリンが2体、中級ゴブリンが3体なの4000リルです」
銅貨40枚をカリナが受け取り、替わってユキはギルドカードを渡した。受け取ったレミリィは後ろの棚にあった水晶に当てると薄い光を発する。光が収まるとギルドカードをユキに返した。
ユキはランクの欄を見るとしっかりとランクFとなっている。ユキは嬉しくなり頬が緩み、自然と笑顔になった。そんな嬉しそうなユキにレミリィは一瞬笑みを浮かべた後、真剣な顔でカリナに質問をした。
「それでカリナさん。今日のリクルの森でおかしな点についての情報をいただけませんか?」
「そうね...森の浅い場所には魔物1匹いなかったわ。あとは...あ、中級ゴブリンがもっと奥の筈だったのに出てきてたわ。これくらいかしら」
「ありがとうございます。でも中級ゴブリンが...今からギルドマスターに報告を...!」
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
何かレミリィが言いかけた時、鐘が激しく鳴り響いたー