初依頼に行ってくる~
ふぁ~っと欠伸をしながらユキは朝食を待っていた。今の時間は大体4時過ぎ位だろう、まだ眠くて瞼を擦る。
ねむいなぁ、でも今寝たらお昼頃まで寝てる自信があるよ。まったくあのおじさん達は朝っぱらから騒がしいことで。
思わずここの借金払っちゃったけど金貨5枚ってそこまで高いのかな?この世界の金銭感覚無いし。でも目標のもふもふは達成出来て満足だよ♪
それであいつらの雇い主の...で、で...デブ何だっけ?まぁデブでいっか。で、そのデブ様がククさんを狙ってると?名前の通り太った奴だろうけど渡さないからね!ボクのじゃないけどさ!
「朝食出来ましたよ~」
「おお~、美味しそうだね」
デブァーラをどう始末しようかな~とユキは考えてると朝食が運ばれてきた。ふわふわなパンに野菜のシチュー、そして森でお世話になったフリルの実が剥かれた物が今日の朝食だ。ユキは手を合わせて“いただきます”と言って食べようとするとかククが首を傾げながら聞いてきた。
「昨日もやってたけど、それは何ですか?」
ユキは苦笑いしながら言い訳を考えた。“いただきます”と“ごちそうさまでした”は日本の風習みたいなものだ。親から子に教えられて、そこからほぼ毎日使ってきたから癖になってるのだ。
でもここは異世界、ユキのいた世界とは違うのでそんな風習は無い。あっても貴族が神に祈りを捧げる、というのだった。
「じ、実はこれも我が家のしきたりでね。小さいときからやってたから体に染み込んじゃってるんだ」
「へ~、そうなんですか。ユキさんの家っていろいろあるんですね」
また我が家を使ったけどたぶん変な家だと思ってるんだろうな~。そんなような目をしてる。元々この格好で変人に思われてないなんて無かったかもしれないけど...
まあいいや!それよりもご飯~♪
またこんなことあったら全部我が家の~、と言えばいいと思ったユキは木製のスプーンでシチューを掬うと、口に含む。しっかりと料理されたそれは濃すぎずに何杯でも食べられそうだ。パンを浸けて食べると更に美味しくなり、十分満足のいく料理だったが満腹にはならなかった。
よく噛むといいと聞いたことがあったので、デザートのフリルの実をシャリシャリとゆっくりと食べる。
「......ねえ、ユキさん。どうしてあの時助けてくれたんですか?」
食べていた手を止めてククを見る。その顔は真剣そのものでどうしても聞きたかったのだろう。昨日会ったばかりのユキとクク。それなのに大金を払って助けてくれたのは何故か。気になるのは当然であった。
「友達になりたいから?」
コテンっと頭を傾げながら言うとククは呆然とした後、腹を抱えて笑いだす。その顔に曇りは無くて屈託の無い笑顔だった。
ひとしきり笑ったククはふ~、と息を整えながら目尻の涙を拭き取った。
「ユキさんはそんな理由で助けてくれたなんて思いもしなかったね。うん、いいよ。友達になろっか」
敬語を無くしてそう言ったククさんのはにかんだ笑顔はとても魅力的だった。
いくつか会話をした後、朝食を終えて宿を出る。今日の予定は依頼を請けてみよう、と考えていた。
まだ朝が早いからか、開店してる所はまばらだ。その中の食品を売ってる店で保存食の干し肉を、雑貨屋みたいな所ではアイテム袋を買った。
このアイテム袋は状態保存が無く、容量が100㎏だったが〈アイテムボックス〉が知られないようにと手に入れた素材を袋のまま出せるようだから使うだろうと。ここでの出費は金貨1枚位とアイテム袋が結構なお値段だった。
干し肉を味見しながら歩き、冒険者ギルドの出入口前に着いた。
干し肉ってビーフジャーキーみたいなのかなと思ったけどぜんぜん違ったよ。でも美味しいから食べるけどね。おやつの代わりに。
さてさて、昨日の奴らが居ないことを祈ろう。たしかガゼルとか言うやつだっけ。まぁ見付からなきゃいい話だよね!
そう思いながら中に入ると冒険者達がもう賑わってた。ガゼル達は見当たらなく、もう依頼を受けたのか、まだ来ていないのかはわからないが居ないことにユキはほっとする。
改めて見渡すとボードの前と受付にかなりの人数がいて、とてもじゃないが入ってく気にはなれなかった。依頼ボードはE~Cが多く、他はまばらだ。
ユキはほとんどいないGランクのボードに行くと何かいい依頼が無いか探してみる。貼ってある依頼は街でのお手伝い系や外には薬草類を取ってくる等が主だった。
その中から1枚取ると受付前の列に並んでしばらく待つ。そうすると必然的に後ろに並んだ人はユキに気付くが訝しげに見てきただけで話しかけられなかった。
しばらくの間、依頼の紙を見たり干し肉を食べてると自分の番になる。偶然にもレミリィさんの所に当たることが出来たようで笑顔で挨拶された。
「おはようございます、ユキさん。ご用件は?」
「おはようございます!今日は依頼を受けに来ました。これです」
《薬草の採集》
薬草を10束以上の採集
期間‐なし
報酬‐200リル
追加報酬‐薬草+1につき10リル追加
依頼主‐商業ギルド
異世界での定番、薬草採集だよね。これでポーションとか回復アイテム作るって訳だけど...まだ一度も見てないなぁ。
「はい、確認しました。ユキさんは初依頼ですから少し説明しますね。採取された物や魔物の素材など様々な物はギルドで状態を確認してから預かり、依頼主の元に渡ります。依頼達成はギルドに渡された時点で達成となります。依頼以外の素材は適正価格でギルドが買い取らせていただきます。以上で説明を終わりますが他にお聞きしたいことは?」
「いえ、今の所無いです。あ!魔物の資料と薬草の資料ってありますか?」
説明を真剣に聞いていたユキはふむふむと聞いた後、そう言えば薬草がどんななのか知らないと思い、本などの資料が無いかレミリィさんに聞いた。
レミリィは少し感心したような顔でカウンターの下から分厚い本を二冊取り出す。どうやらそれが資料のようだ。それをそのままユキに渡した。
「こちらが魔物と植物の資料になります。どちらも貴重な物なので大切に扱って下さいね?」
「はい!わかりました!」
確かに、様々な情報が詰まってる本だからね。汚したりしないように気を付けないと。
落としたりしないか、不安で手を震えさせながら受け取る。レミリィさんはそんなユキを暖かい目で見た後、少し悲しそうに理由をこぼした。
「事前に情報を集める重要性がわかってる方で良かったです。初心者はそれを怠って命を落とされてしまいますから...」
その言葉に背中がヒヤリとする。ここは日本と違って命を落としやすい。特に冒険者は命懸けで今日会った人が明日には死んでいた、と言うのも実際にある世界だ。ユキは改めて気を引き締めた。
その後は何事も無く冒険者ギルドを出た。二冊の内の一つ、植物に関する資料を見ながら北門に向かった。薬草は様々な場所で生えてるがここから近いのはリクルの森だった。1日位しか経ってないのにまたこの森に行くことになるとは考えてもおらず、苦笑いする。
門の前を通る時に昨日の門番が居たけど、やはり検問などは無いらしく素通りだった。しばらく歩くと高原と森の境目に着いた。他にいた冒険者達の訝しげな視線を感じたが無視して堂々と入っていく。下手に気にするから挙動不審になったりするのだ。慣れたユキには楽だった。
「すぅ~...はぁ~。やっぱ森の空気は美味しいよね♪」
森の空気を吸ったり吐いたり繰り返しながら歩く。至る所に草が生えてるが、ユキは迷わず草を抜いていく。いや、それには誤りがある。土魔法の『アースフォール』で土だけ除去して草の根を傷付けないようにしたらアイテム袋に入れていく。
しばらくすると20束程集まるとユキは屈んでいた体を伸ばして凝り固まった腰を解したり、肩を回したりするとコキコキと骨が鳴った。
自然に出た涙を拭いて頭を切り換える。手にはすでに短剣を持っており、〈気配探知〉で獲物のいる方向に走り出した。
今回の目的は依頼の初達成もあるけど、一番は魔物からスキルと経験値を手に入れることだ。強くなっておいて損は無い。
「ノンストップで突っ切ってくぜ~♪」
テンションハイになってるユキは慣れた森の道を走りまくり、所々にいる魔物を一太刀で首を落とし、絶命した魔物からスキルと討伐した証拠となる部位を貰ったら死体を〈アイテムボックス〉に入れて次に行く、を繰り返してた。
日が暮れていく頃には狩りすぎだろ、と言いたくなるような数をいつの間に仕留めていた。
「うぇ~、口の中が気持ち悪い......」
魔物の血を飲み過ぎて口の中がドロドロネバネバで凄く気持ち悪かった。こんなになるまで倒した魔物の数はゴブリン、ブラックウルフ、クレイモンキー、血鳥など合計で100は越えるだろう。
しかし、この魔物の素材に解体するが、冒険者ギルドを出すことはしない。ルーキーの、しかもソロなのに目立つのは目に見えている。ここは持っといた方がいいと判断した。
うぅ、さすがに飲み過ぎた。これだけ聞くと酔っぱらいみたいだよな~、飲んだのは血だけどね。
だけどまぁこれだけ苦労したかいはある位にレベルもスキルレベルも上がったし、新しいスキルも手に入ったことだし、気分が良いよ~♪
ユキはルンルン気分でスキップしながら帰路についた。傍から見たら怪しく、気味が悪く見える光景だ。
褒められるかな~、と冒険者ギルドに入り、受付に向かおうとすると途中何かに遮られた。さらに後ろから二人来てユキは囲まれてしまう。
褒められる事しか頭に無かったユキはこの状況が分からず、ポカンとしていたが顔を上げて目の前の人物を確認するとすぐに思い出した。
「よぉ、昨日はよくも逃げてくれたな」
昨日絡んでこようとしたガゼルが嫌な笑みで行く手を遮っていた。
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