アルティアの街 冒険者ギルドへ~
― リクルの森 ―
規則正しい呼吸音が耳に届いてくる。少し肌寒く感じ、腕の中にある温もりをぎゅっと抱きしめた。すると腕の中から声が聞こえてきた気がしたので薄く目を開いてくと目に入ったのはサラサラと指通しが良さそうな絹のような髪だった。
ユキはすぐに意識を覚醒させると現状の把握に脳をフル回転させた。
お、落ち着くんだボク!今抱き締めてるのは何だ?髪...人ですね~、わかってますよ。はい。
あ!そうだった。昨日人を助けて拠点でご飯を一緒に食べ、その後は~......あぁ、一緒にそのまま寝たのか。たしかお話をしただけだった筈、何も問題は起きなかった筈だ。ボク今は女の子だしね。
とりあえずルティアを腕から解放して起こさないように離れる。ルティアも腕を回して抱き締めていたので抜けるのが少し大変だった。
ユキは出入り口を掘って外に出ると森の清々しい空気を思い存分に吸って気分を入れ替えた。周りに何もいないのを調べてから泉の近くで服を脱ぎ始める。脱いだものは洗い、泉に入って体を洗う。何回か自分の体を見たがもう自分の体だと思ってるので何も感じなくなっていた。羞恥心はあるけど。
ぱぱっと洗い終えたら乾かしていた服を着る。ちょっと濡れてるが着れないことも無い。次は朝御飯の準備だ。ルティアが起きる前に昨日と同じ物を作っておいた。そもそもそれしか無いのだから同じ物になるのは当たり前だ。
拠点に入り、ルティアを起こす。
「ルティアちゃん朝だよ~。起きて~!」
ローブにくるまってる彼女の肩に手を置き揺さぶると「ん~っ」と言いながらゆっくりと瞼を上げる。
開いた瞳はユキを確認すると微笑みながらおはようございます、と言われ内心可愛さに悶えながらも顔に出さずに朝御飯が出来た事を伝えた。実際は顔が赤くなってたが。
「あ、すいません!いつまでも寝て朝御飯のお手伝い出来なくて」
「いやいや、昨日は大変だったんだからよく休まないと!今日は街に行くからね。んじゃ、早く朝御飯を食べようか!」
その後はルティアと一緒に外に出て作っておいた朝御飯を食べた。とは言っても肉だけだけどね。
「このお肉本当に美味しいですね。昨夜も食べましたが何のお肉か聞いていいですか?」
「うん?デリシャスボアって肉だよ」
「へー、デリシャスボアですか。.....っ!それって高級肉じゃないですか!!」
ルティアにこの肉の価値を少し興奮気味に聞かされた。
どうやら、デリシャスボアはレッドボアの変異種で1000匹に1匹いるかいないかの種らしく、丸々1匹売れば金貨数枚になる、と教えてくれた。
はっきり言ってお金の価値を知らないのでルティアに1ヶ月暮らすにはどれくらい必要?と聞いたところ、驚かれつつも銀貨5枚の50000シル有れば少し贅沢に暮らせるとのこと。
このときはわぉ、ボクお金持ち?っと思ったりしてしまった。でも稼がなきゃ無くなってしまうのだからぜひ冒険者になりたいと思ってる。
まぁとにかく、このお肉の価値は少しはわかった。けど食べたい時に食べるのが美味しいと思うから後悔はしてないよ。
「そうなんだ~。でも今は食べようか!せっかく焼いたんだし」
ルティアは迷ったようだが作ってもらって食べないのは失礼と感じたのか今度は味わいながら食べてた。
まぁ仕方ないか。何万円もの肉を出されたみたいな物だからね~。
まだまだ沢山あるんだけど言わない方がいいと見た!
ユキは早めに食べ終えるとラノフの実をルティアに渡しておいて少し離れる。
〈土魔法〉の『アーススパイク』をボクの身長位に伸ばして掴み、また魔力を込めてどんどん伸ばしていく。頑丈さが心配だが木を越えて森を見渡せる所まで伸ばすことが出来た。
ひろ~!
そう感じた、目の前に広がったのは緑だらけで他は奥に小さく山が見えるか見えないか程度だ。
少し焦ってぐるっと見渡すと後ろに街っぽい建物が見えた。防壁で中は見えづらいが街と言えるような風貌だ。
急いでルティアに伝えようと滑り降りてルティアを見ると驚き半分、心配半分の顔でこちらを見ていた。降りきるとルティアは近づいてきて口を開く。
「ユキさん!大丈夫ですか!?」
「うぇ!?だ、大丈夫だよ?ただ街の位置を知りに行っただけだから」
「あの、その魔法があまり硬度があるとは聞いたことが無かったのであんな高さで落ちてしまったらと思うと心配で」
え!そうなのか!!
初めて知ったよ。初心者だし。
ユキは試しに棒に近づき石を砕くくらい?の力で殴ってみた。
ドン!
.....痛い。それに折れなかったよ。やはりイメージは大切だよね♪まぁ、INTが高いお陰なのかもしれないけどね。
てかボクって攻撃力が異様に高いんだけど.....転移前に馬鹿力だったせいじゃ無いよね?吸血鬼だからだよね?そう思っておこうっと~。
「ルティアちゃん、これ結構硬いよ?」
「えっと、そんなはずは無いと思うんですけど。でもたしかにお姉ちゃんの氷は私の作った氷よりも固かったような.....で、でも!危険なことだと私は思います!」
そこまで一生懸命心配してくれるのはかなり嬉しいな~♪もうお嫁さんに来て欲しいくらいだよね。まぁ無理なんだけど、今性別が女だから。でも男を好きになることは断じて無いね!
でもそれは置いといて~、魔法がイメージによるある程度の変化とINTの数値で大体は変わることがわかったし、この話を長引かせてたら街に着くのが遅くなっちゃうな~。
「まーいいじゃない。それよりも早く街に行こう?」
「むー、わかりました。私もお姉ちゃんが心配ですから」
まだ何か言いたそうだったが渋々と言った感じでルティアは諦めてくれた。でも何でお姉さんが心配なんだろう?普通は逆で心配を掛けたくないでは?まぁいいか。
ルティアには少し待ってもらいユキはローブと仮面を着けて準備を終わらせた。
持ってくものはもう〈アイテムボックス〉に入れてあるので後は拠点の出入り口を『アースフォール』で閉じておいた。これで誰も入れない。
終わった事をルティアに伝えるとユキの姿を見て首を傾げた。
「何で仮面を着けてるんですか?あんなに綺麗なのに」
「いや~、あんまり素顔を人に見せたくないんだ。自分で言うのは何だけど見た目で目立つからね。隠すようにしてるんだよ。だからボクの使える魔法とかは内緒にね?出来れば性別もね?」
あれだよね~、ボク狙われる要素が多いんだよ。特に見た目や持ってる珍しいスキルが一番隠したい。
何より、心は男だから男に欲望まみれの視線を向けられると思うと吐き気がする。
だけど男に戻ることはほとんどの確率で無理だと正直思うから、いつかは慣れなくちゃいけないんだよね~。
.....憂鬱だぁ~。
まぁ先の事よりも今の事は今だよ!なのでバレる要素も排除デ~ス♪
「う~ん.....わかりました、ユキさんの秘密は内緒にします!」
こんな変なお願いを聞いてくれるなんて!
「ありがとう!」
ユキはそう言いながら微笑むと仮面越しだが雰囲気で感じ取ったようで微笑み返してくれた。もうこの仮面は慣れたようだ。
その後は街のあった方に二人で歩き始めた。男二人は荷物みたいに引きずっていく。時々呻き声が聞こえるが無視した。距離から言ってそこまで遠く無いがそれでも2時間くらいはかかるかもしれない。魔物もいるので急ぎ足で歩いて行く。
魔物の気配はそこまでいる訳じゃないが相手にするのは面倒なのでその位置に『アーススパイク』をガンガン使っていった。スキルがいただけないのが心残りだが、先を急ぐ。
〈詠唱破棄〉の特異スキルは便利だね~♪今朝視たら有ったんだけど詠唱無しで詠唱有りのと同じ威力だしね。何で手に入ったのかは気になるけどなぁ~。
まぁ解らないけどね。便利には変わらないよ。でも魔法を詠唱無しでやれたのはこのお陰なのかな?まぁ、ルティアちゃんの前で使っちゃったけどスキルに〈無詠唱〉ってのがあるらしくて誤魔化すことが出来た。
同じような効果だけど〈無詠唱〉の方は同じスキルレベルじゃないと出来ないらしいけどね。
ドンドン使ってドンドン進もう~♪
そこから何回か休憩を挟みながら進むこと3時間後、やっと目の前に街の外壁が見えてきた。
ルティアは歩き疲れてたがその表情は笑顔で嬉しそうなのがわかった。その様子にユキは優しく微笑み、視線を街に戻す。
わー、でっかい壁だな~。10mはありそうだよ。おお!デカイ門発見!あれが出入り口かな?
ん~?何か揉めてる人達がいるね。
門に近づくと、どうやら冒険者の2人組が門の前で言い合ってるようでどちらとも女性だ。
怒ってると言うか焦ってる人をもう一人が宥めてるみたいな感じに見える。髪の色は空色と薄茶色とカラフルだ。自分もその一人に入ってるが。
まぁ門の近くでやってるので目立ってるし門番が少し睨んでいて怖い。素通りしようと考えていると横から小さな影が飛び出た。
「お姉ちゃん!」
えっ、と思った瞬間隣で歩いてたルティアが二人に向かって小走りで近づいてく。笑顔で行くルティアの表情とさっきの言葉、あの二人のどちらかがお姉さんと見ていいだろう。その後ろをゆっくりと付いていく。これでお別れだと思うと寂しい気持ちが胸に浮かぶ。でも今生の別れでもないし、ルティアの手料理をご馳走してもらう約束もしてるからすぐに会えるだろうと思うと少しは寂しさが和らいだ。
ルティアの言葉が届いた様で弾かれたように顔を此方に向けた二人の内、空色の髪の人が前に出たので姉なのだろう。感動の再開?だ。
「...ルティア!よかった、本当によかった」
「お姉ちゃんごめんなさい!」
「...いいの、無事でいてくれて私は嬉しい。でももう勝手に何処か行かないでね。.....それであの人は?」
うんうん。っと少し涙を出しながら感動してると抱き合ってた姉妹のお姉さんが顔を上げて敵っと見なくても訝しげにユキを見た。お姉さんの後ろの仲間の人も同じ様に見てる。
確かに今のユキの見た目はフード付きのローブで目深く被り、顔を見たとしても仮面が着いてる。怪しさ満点だ。さて、何て説明したもんかと思っているとルティアが説明してくれた。
「あのね、人拐いからユキさんが助けてくれてここまで連れてきてくれたんです」
「そうなの?じゃあ少しは信用する。ルティアの恩人。それであのロープの塊がゴミ?」
「えっと、悪い人です!」
何だろう、ルティアのお姉さん、ルティアの言うことは何でも信じるみたいに見えるよ。それに言いたいことはきっぱり言ってるね。
それにさっきまで再会して微笑んでいたのが嘘みたいにボクに向ける顔は無表情だ。こっちが通常なのだろう。
今気付いたけど瞳の色がルティアと同じで翡翠色だなぁ~。美少女姉妹だ。まぁ取り合えず自己紹介はしときたい。名前がわからん。
「あの~、お名前をお聞きしても?ボクはユキって言います」
「ん、シエル。よろしく」
「よろしく。.....それでそちらの方は~?」
さっきから訝しげに見てくる薄茶色の人の視線が気になります!確かに変すぎるけど仕方無いじゃんか~。
二人ほどでは無いがそれでもレベルの高い美少女と言うより美女?の人が渋々、仕方なくと言った風に口を開いた。
「カリナよ。言っとくけど、あなたのことは信用できないから」
そう早口で言ってすぐにそっぽを向いてしまった。 たしかに、とユキは思いながらも自分の今の見た目は逆に目立つかな?と考え、思い切って聞いてみた。
「この服装やっぱ目立つかな?」
「え、それで目立たないとでも思ってたの?冒険者にいないことも無いけど、その仮面は変すぎるわね」
「やっぱりですか?でもこれを取ったらボクは!」
「どうしたのよ?」
ふざけて話かけたら律儀に答えてくれた!初対面の人に!優しい人だよこの人。面倒見がいいのかな?ここは正直に.....ふざけてみた。
「魔眼で石にさせてしまう!」
ふざけて頭を押さえながらリアクションを待っていると
「ああ、魔眼持ちなのね。なら仕方ないわ」
えっ!この世界魔眼とかあるの!?今初めて知ったよ!そんな恐ろしいのは持ってないです!ちょっ、シエルさんまで頷いてるし!
「すいません、嘘です。冗談だったんです!魔眼が存在してたなんて知りませんでした!」
「冗談よ。あんた普通に周り見てるからね、てかあんた魔眼知らなかったの?」
.....何だ、ジョークか。ちょっと焦っちゃったじゃないかさ。カリナさんノリがいいね。でもボロが出そうだよ。
それにしてもシエルさんは信じてたのか顔を背けてるし、ルティアは不思議そうな顔しててもう、天使です。
「それより街に入ろう、ルティアに話聞きたい」
おっとルティアちゃんにほっこりしてたらシエルさんがそう提案してくれた。上手く話題を逸らせそうだ。便乗してここら辺でお別れにしこう、シエルさんとカリナさんは冒険者だから冒険者になれたら会えるだろうし。よし!
「んじゃあボクはこれで!」
ユキはそう言い残して門に走って行った。勿論人の走り速度で。
「あ、ユキさん!」
「...ルティアをありがとう」
「あ!ちょっと!...」
上からルティアちゃん、シエルさん、カリナさんと声が聞こえてきてちょっと後ろ髪を引っ張る思いがしたが後ろは振り向かない。だってその方がかっこ良さそうだから!
門に着いて通り抜ける。どうやらここは身分証が必要無いようだけどすごいガン見されてしまった。たぶん〈鑑定視〉のスキルがある人を配置してるからだと思う。けど厳ついおっさんで中々怖かった~!早く身分証になるのが欲しい.....
街の中を見ると人が溢れかえっていて門前は大通りになっていて地面やら家やらが中世ヨーロッパみたいな感じだ。しかし屋台に似た物や料理があったりと日本の物も所々混じってて過去に召喚された人がいるのかもしれない。
道中を歩く人の中には鎧を着けた人や剣を腰にぶら下げたりしていていかにもファンタジーのような世界でわくわくさせた。
ここアルティアは迷宮が複数存在するらしく、迷宮都市スフィルトには及ばないが冒険者が最初に拠点にするのはアルティアらしい。始まりの街みたいなものだと考えてしばらくはここを拠点にすることにした。
とりあえず冒険者になりたいので人に聞くことにした。が、やはりと言うか。フードを目深く被って仮面を着けてる人は目立つらしくさっきから訝しげな視線を感じる。でも今はこれでいい。ようは慣れだ。
通行人は避けられて無理そうだから屋台の方に向かった。ちょうどお腹が空いていたし、店の人は接客しなきゃいけないから話せる。屋台で売っていた肉串一本鉄貨10枚としたので10本まとめて買った。
売ってたおばちゃんは最初は訝しげに見たが、沢山買ったお陰か最後の方はニコニコしてた。冒険者ギルドは何処ですか?と聞くと道を教えてくれるどころか頑張んなよっとエールまで貰えてすごく感謝しながらその場を離れた。
教えてもらったところ、大通りを真っ直ぐ行けば、右側に剣と弓と盾が合わさった紋章が在るらしく、肉串を食いながら進むとすぐ見つかった。因みにこのお肉は塩だけの味付けだが美味しかったよ。余りの7本は〈アイテムボックス〉に仕舞っておいた。
冒険者ギルドの建物は大きく、三階建てで立派だった。ごくりと唾を呑み込む。ここはある意味では危険地帯だ。冒険者に絡まれ無いように〈隠密〉を最大限使って建物に入り込む。
中は広々としていて酒やら何やらの臭いがする。直ぐ中を調べるために視線を巡らせた。奥にカウンターがあって受付嬢?が6人はいる。左側は休憩スペースなのか酒場なのかは分からないが酒を昼間っから飲んでる人や数人で集まって談笑する者、様々で結構なスペースになってる。意外に若い人が多かった。そして右側には紙がボードに貼られてあったり、2階に上がる階段も確認できた。おそらく依頼などが貼り出されているのだろう、数人が紙を真剣に見てる。
これをたった5秒で見終わると早足で奥の受付っぽい場所に急行した。左から3番目の綺麗なお姉さんに話し掛けた。薄紫の髪を首の後ろあまりで三つ編みにした人で他にいる6人の受付嬢も美人さんだ。種族も色々な人がいて猫耳が生えてる人もいる。いつか触りたいな。
そう考えながら前に着く。だが気づいてもらえないかな?と思ったが書いてる書類から顔を上げて此方を見たことに驚いた、が都合がいい。それにボクの姿を見ても少しも眉を動かさないで営業スマイルを浮かべてこの人プロだ!っと思うほどだ。
「ご用件をどうぞ」
「冒険者になりたいのですが」
「冒険者登録ですね。登録料として銅貨1枚が必要です。後はこちらの書類に必要事項をお書きください。文字が書けない場合は代筆しますが大丈夫ですか?」
「はい、わかりました!代筆は大丈夫です!」
カウンターの下から1枚の紙を取り出し、鉛筆のような物と一緒に渡された。
紙には見たことも無いような文字で書いてあるのに頭にはすんなりと何の意味か分かって紙に書いていく。〈異世界言語翻訳〉が良く働いてるよ!
書くことには名前、種族、性別、年齢、職業やらもあり、書くのを躊躇うようなものがいろいろとあった。それに気付いたのか受付嬢の人が名前だけでも結構ですよ、っと言ってくれたので名前だけ書いて提出した。その時に銅貨も渡す。
「はい、確認しました。今ギルドカードを発行致しますので少々お待ちください」
そう言われたのでその場で待つことにした。ギルド内は笑い声や自慢話などいろいろと騒がしい所だがこんな雰囲気も悪くないとユキは思った。
ん?何か視線を感じる?
ユキは視線の方を向いた。休憩スペースの方から何人か此方を見てる。どうやら受付嬢の人と話した時に気付く人や探知系のスキルを持ってる人なのかも知れない。
此処を向く視線は時間が進むごとに増していく。知った人が回りに話したり、ボクを見てる人の視線の先を見たりで気付かれてるようだ。早くギルドカード来ないかな、とユキは思いながら誰も来ないことを祈った。
そう思っていたのが悪かったのかいかにもガラの悪い3人組が立ち上がり、此処に向かってくる。
嫌だ~!そんな約束通りの展開はノーセンキューです!帰ってくださいぃ~。
早く受付嬢さーん来てくださーい!そういや名前知らなかったぁ!
「ユキさんお待たせ致しました。こちらがギルドカードになります」
祈りが届いたのか、受付嬢が戻ってきた。ガラの悪い人達は立ち止まりその場で待機している。そのまま来ないでほしい。てか帰って欲しい、そう思いながらカードを手に取った。
「ではこのギルドカード説明をします。このギルドカードは冒険者ギルドがユキさんの身分を保証、なので身分証としてお使い頂けます。さらに表は身分証となりますが裏は『鑑定』の魔法陣が刻まれており、魔力を通すことでご自身のステータスを視ることが出来ます。なので悪用や悪さなどした場合は依頼を出して捕まえるので悪用はしないで下さい。無くした場合は再発行に銀貨1枚かかりますので無くさないようにしてください。何かお聞きしたいことはありますか?」
「あ、ありません!」
うん。あのルティア襲ってた人達が悪用したひとか。成る程だね。
このギルドカードは身分証が無いボクにはすごく嬉しいよ。これで見た目だけ怪しい人になったぁ。まぁいっか。
あの人達は.....まだ動いてないね。注意はしとこう。
「次に冒険者についてです。冒険者にはランクがあり、上はSSSランクから下のGランクまであります。ユキさんはGからのスタートになりますが一つ上のFランクの依頼まで受けることが出来ます。上のランクに上がるにつれて依頼の報酬は高くなりますが、同時に難しくなります。ランクを上げるには目安として同じランクの依頼を20回の成功数が必要とします。一つ上のランクを達成すれば2回分の扱いになる、や他に魔物の素材などいろいろあると思って下さい。Dから上のランクになると上がる時に定期試験が行われ、合格すると上がります。その時は此方から声が掛かりますのでユキさんは気にせずに依頼を達成していって下さい。けれど無理はなさらないようにして下さいね」
ふむふむ、ランクを上げるには20ポイント必要で、同ランクが1ポイント、一つ上のランクが2ポイントになるってところかな?素材は危険度の高いの魔物ほどポイントになるのかもしれない。だいたいこんな感じかな。判定はギルドで。
お金には困ってないけどもしもの時とかに使うと思うし、ランクを早く上げたいけど目立ちたく無いし、ほどほどにやろうかな。
「依頼を達成出来たら報酬が貰えますが、逆に依頼を失敗した場合は違約金が発生しますので自分の力に合った依頼を受けてください。払えない場合は借金、1ヶ月以内に返せなければ奴隷に落とされるのでくれぐれもご注意下さい。依頼の書かれている内容以外の問題が起きた場合は違約金は発生しないのでご安心下さい。成功数が多ければギルドの信用が増え、指名依頼が来るようになります。ランク上位は爵位が贈られるので是非頑張ってくださいね」
.....奴隷が存在するのかぁ~。いやいるのだろうとは思っていたけどこうして聞くと身近に感じる。これはお金と相談かな。奴隷には絶対なりたくない。
それに爵位ってのは貴族になるってことかな?まぁ当分は無理だろうけどいつかは欲しいもんだね。
「これで説明を終わりますが他にお聞きしたいことはございますか?」
「いえいえ、ありがとうございます。それでもう依頼は受けられるんですか?」
「はい、手続きは済みましたので何時でも受けることが出来ます。これから頑張ってくださいね」
その後は名前を聞いてからその場を離れた。少し早足で冒険者ギルドを出ようとする、がガラの悪い人の舌打ちが聞こえたと思うって後ろを見ると走り出してきた!
「おい、止まれやクソガキ」
ヤバぁ~!話しかけられたんだけど、どうしようかな?よし!相手のステータスを視ておこう。勝てなさそうなら逃げよっと。
ユキは振り返り一番前にいた丸刈り頭のステータスを確認した。
名前 ガゼル
種族 人間
性別 男
年齢 38
職業 戦士
Lv 15
HP 421/430
MP 64/64
STR 178
DEF 162
AGI 89
DEX 110
INT 32
MDF 120
〈特異スキル〉
〈スキル〉
剣術 Lv 2
盾術 Lv 3
受け流し Lv 3
身体能力強化 Lv 2
〈 装備 〉
武器‐赤猪の盾
‐鉄の長剣
防具‐体‐鉄の鎧
‐足‐氷蛙のレザーブーツ
ふむふむ、勝てそうだけど相手は3人だしな~。数による差で負けそうだしあの丸刈り頭のおっさん意外に強い。
倒せたとしてもかなり目立つだろう、よし!逃げようか!
ユキは顔を正面に戻し出入口に走り、飛び出て近くの建物の影に隠れた。
あいつらが出てきたがユキが隠れる方が早く、見付けられずに怒りながら戻っていった。溜めてた息を吐き、壁に寄り添いながら今後のことを考える。
まったく、何処の世界でも新人には厳しいね。これから丸ハゲのガゼル3人組から見付からないように依頼受けないとなぁ~。
あいつらいつか〆てやりたいよ。結構見られてたから今日お世話になった受付嬢のレミリィさんに見られてるだろうなぁ~、恥ずかしい。
まぁ、それは後々考えるとしていろいろな物の買い出しに行ってこようっと♪
ユキは少しルンルン気分で大通りの人波に入り込み、人混みに消えていった。
お読みいただきありがとうございます!