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ものぐさな賢者Ⅱ  作者: 黒湖クロコ
師匠編
13/26

4-2話

「これはアユムとディノが何処に居るか、私が分かるようになっている魔法陣だから持ち歩いてほしい。お使い後はそのまま遊んで構わないけれど、時計の針が5の所に来る前には家に帰ってきてほしいだけど、どう?」

 私が湿布薬をお婆さんの家に届けて欲しい事をお願いすると、2人は快く引き受けてくれた。ただまだ6歳ぐらいのアユムと8歳のディノだと色々心配でもある。2人とも年齢の割にしっかりしているけれど、誘拐が絶対ないとは言えないし、どこかで怪我をして動けなくなるという事も考えられる。

 追跡魔法と門限決めは、せめて働き始める10歳まではするべきだと考え2人に意見を聞く。

 でもこれは決して、私がアスタと同じ親馬鹿の道を行こうとしているからではない、普通の感覚だと思う。


「うん。分かった!」

「分かったけど、時計は?」

「ホンニ帝国で、懐中時計を買ったから渡しておく」

 素直に聞き入れてくれた事にホッとしつつ、私はクロの育ての親が営んでいる機械屋で購入してきた懐中時計を渡す。懐中時計はゼンマイ式で、10日に1回は巻かなければいけないけれど、アールベロ国にあるものよりもずっと精密で大きさも小さいので流石としかいえない。

「これ、凄く高いんじゃないの?」

「そうでもない。知り合いだから、結構安くしてもらえたし」

 私が取りだした懐中時計を恐る恐るといった様子でディノが時計を受け取った。

 純銀製な上に装飾も凝っているので、確かに安くはない。でも携帯電話を貸した事や転送用の魔法陣を以前渡した事もあり、たぶん今回は銀の代金ぐらいしか取られていない気がする。商売としてそれでいいのかと思ったけれど、結構気難しい方なので、あえて何も言わず、言い値のまま買い取らせてもらった。


「ボクにも見せて!!」

「これ、めっちゃ高いから、壊すなよ」

「壊さないもん」

 ディノから時計を受け取ったアユムは、すごく楽しそうに眺めている。珍しいのかと思ったけれど、もしかしたら逆で、懐かしいという方かもしれないなと思う。

 時計というのは、アユムが住んでいた日本ではごく当たり前ものだ。数字が龍玉数字でちょっと形が違うけれど、動きや形状は全く変わらない。

「それは、アユムに上げる」

「いいの?!」

「大切に使って」

「うん! ありがとう!!」

 子供に持たせるにはちょっと割高な玩具かもしれないけれど、とてもキラキラした目でジッと見つめているので、あげる事にした。私も携帯電話を貰った時はとても嬉しかったので、一つぐらい過去と繋がりがある物をもつのもいいと思う。

「えー、アユムだけズルイ」

「ディノには今度、防犯の魔道具を考えておくから」

「えっ? 魔法?」

 チョロイ。

 魔法にあこがれているのは知っているけれど、こんなにチョロくていいのだろうか。扱いやすいのはありがたいけれど、それはそれで心配になる。

「ディノ、知らない人が何かくれると言ってもついていっては駄目だから」

「分かってるって!」

 本当に分かってるよね? 別に心配性な親なつもりではないけれど、それでも初めてお使いを頼むとなるとやっぱり心配なのだ。


「オクト、そろそろ行こうか?」

 アスタに急かされるが、どうにも後ろ髪を引っ張られる。

「オクトだって、アユムぐらいの時には、この近所を散歩していただろう? 心配しすぎだって」

 迷っているとアスタが更に言葉を重ねた。

「……まあ」

 その通りなんだけれど。

 アスタに引き取られてしばらくして伯爵家へ挨拶をしに行った時には、すでに一人で散歩をしていた気がする。だけど混ぜモノは色々特殊なので、私と彼らを一緒にするのはどうだろう。

 混ぜモノは、誰からも忌み嫌われるけれど、その代わり手出しもされない立場。今までに攫われたことがないかと言われたらそうでもないけれど、よっぽど危険はない。

「でもアスタだって、私に追跡魔法をかけているし」

 というか、いまだにその魔法を解いてくれないのってどうなのだろう。心配性はアスタの方である。

「オクトの場合は、危険というより、いつの間にかどこかに行ってしまうからね」

「……うっ」

 それは、ホンニ帝国の時のことをまだ根に持っているという事でしょうか?

 色々あの時のやり方は失敗したと私なりに反省しているので、あまり古傷を蒸し返したくはない。特に、追いかけて来たアスタの怖さと言ったら……。

 逃げるという選択をするにしても、二度とああいう修羅場状況は作らないと心に決める。逃げるなら、絶対捕まらない場所まで、計画的に逃げるべきだ。


「じゃあ、ディノ。羽目ははずすなよ」

 アスタは私の手を握ると、そのまま転移した。

 ちょっと待ってと言おうとしたが、一瞬で目の前の景色が屋外へと変わる。

 ここまで来てしまったなら、これ以上気にした所で仕方がない。ペルーラも2人の事を気にしてくれるだろうし、早めに帰れば大丈夫かと考えすぎないようにする。

 アスタは諦めろと言わんばかりに、少し強引に私の手を引っ張り、異界屋の扉を開いた。

「店長、居るか?」

 異界屋は、相変わらず店の中がごちゃごちゃしていた。商品は似たような世界ごとにまとめられていると、以前聞いた事があるが、相変わらず私にはその違いが分からない。棚の上に置かれた商品達は、前世の私が生きた世界と違う、もしくは地域が違うため何に使うか分からない物ばかりだ。

 そして相変わらず、閑古鳥が鳴いているようで、客は私達以外に居ない。こんな状態で商売になるのだろうかと思うけれど、この国にはそもそも異界の品が流れてくる混融湖こんゆうこがなく、輸入をしなければならないので、異界屋自体がほとんどないのだ。その為アスタのような研究職である魔術師や珍しいものを集める事が好きな貴族などが、数少ないこの店で買ってくれるので何とか経営が成り立っているらしい。


「先生、やっと来てくれたのか!」

 店の奥から嬉しそうな男の声が聞こえたかと思うと、猫の顔をした獣人族の男が現れた。緑色の瞳孔の長い目を機嫌よさげに細めながらこちらへやって来る途中で、私の存在に気がついたらしく、目を真ん丸にする。

「おおっ。小さな賢者様も一緒に連れてきてくれたのか?!」

「……小さな賢者様って」

「ああ、今はものぐさな賢者って呼ばれているんだったか。よく来てくれたな」

 アスタと繋いでいない手を両手で握られると、ぶんぶんと振られる。

 嬉しいのは分かるけれど、できれば『ものぐさな賢者』という呼び方も止めて欲しい。その二つ名は、どう考えても嫌がらせである。

「えっと。賢者じゃなくて、普通にオクトでいいです」

「オクトは奥ゆかしいんだよ。それで、どうせ色々買い込んだものが溜まっているんだろ」

「そうだ、そうだ。先生が外国に行っている間に、色々面白そうなものが入ってきたんだ。見てくれよ」

 猫男はぱっと手を離すと、時間が惜しいとばかりにいそいそと店の奥へ向かう。ただ何がそんなにうれしいのか、狭い店内でスキップをしだしそうな様子にキョトンとしてしまう。


「アイツは魔力がないから異界のものかどうかの見分けがつかないんだよ。比較的勘がいいから、よっぽど大丈夫だけど、一応鑑定してからしか店に置かない様にはしているからな。早く展示したいんだろ」

 よっぽど私が不思議そうな顔をしていたらしく、アスタが苦笑しながら説明してくれた。

 なるほど。

 異界のものかどうかを確認する為には、魔力を目に溜めて紫色の魔素を帯びているかどうかを確認しなければならない。それができるのは、魔力の扱いに長けた魔法使いもしくは魔術師だ。それほど難しいものではないけれど、獣人族の場合普通は魔力が小さいので、魔力の扱い方を訓練している者はほとんどいない。

「アスタ以外の魔法使いの知り合いは居ないの?」

 アスタとここの店主は仲が良さそうだけれど、アスタは魔術師として優秀ではあるが性格に難ありで色々扱いにくい部分も大きい。店主は流石接客業というか、人当たりは悪くないので、客の中で手伝ってくれそうな人を探す事が出来る気もするけれど。

「親父はアスタリスク先生の事を一番信頼していますから」

 店主とはまた別の声が聞こえたかと思うと、猫の顔をしたオレンジ色に近い茶色の毛並みの少年が奥から出てきた。

 私より身長は高いけれど、アスタや猫男に比べると低いのでたぶん若いと思う。しかし店主同様獣の部分が多いので正確年齢は分かりにくい。


「初めまして。親父……えっと、ここの店主の息子のタレッジオです。今、親父の下で勉強中なんです。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「大きくなったな」

 ぺこりと頭を下げられたので、私も頭を下げるが、どうやらアスタは彼の事を知っているようだ。

「今年、11歳になりました。まだまだ半人前ですが、頑張ります。これからも、よろしくお願いします」

「先生、ビシビシ鍛えてやって下さいね」

 タレッジオがアスタにもう一度お辞儀した所で、店主も箱を持ってこちらにやって来た。

 結構な量が溜まっていたらしく、大きな箱の中は山盛りで入っている。


「茶菓子も持ってくるから、ゆっくり頼むよ。それと、オクト――……あー嬢ちゃんは、こっちを見てくれ」

「えっ?」

 私も?

 まあ、アスタに頼んでわざわざ呼ばれたぐらいだから、何か頼まれるとは思ったけれど……。店主は私が異界について少し知識がある事を知ってるので厄介だなと思う。

 ママに聞きましたという事にして以前異界の道具について教えた事もあるけれど、前世の知識を大盤振る舞いすると、色々後で面倒な事が起こるので、必要な時以外は使わないようにしている。特に第一王子の耳にでも入った日には……うん。考えたくない。

 アスタもその辺りは気を使ってあまり前世の事について聞いてこないのだと思ったのだけれど……。

「オクト嬢ちゃんは、魔法学校の図書館で館長をやってるって聞いたぞ? 異界の本なんて面白いと思わないか?」

「異界の本?」

「水に濡れた所為で読めないものもあるが、ドルン国でも中々手に入らないと思うし、どうだ?」

「これです」

 どうやら、今回は前世の記憶の方ではなく、図書館の館長として交渉したいと言ってきてくれたようだ。でも、図書館の館長に就任したのはつい先日だし、何処でその情報を知ったのか?

 不思議に思いつつも、私はタレッジオが差し出した本の一冊を手に取った。ハードカバーの本で、英語のような文字で題名が書かれている。ただしその単語を前世の私が知らないからか、それとも英語ではないのか、読むことはできない。

 しかし文字は手書きではなく、印刷をしたもののようで、均一に揃っていた。……確かに興味深い。

「立って見るのもなんだ。机を用意するから、そこでじっくり検討してくれ」

「ありがとうございます」

 金銭的に図書館で買えるかどうか分からないけれど、一度確認してみようと思い、私は店主の申し出を受け入れた。

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