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ものぐさな賢者Ⅱ  作者: 黒湖クロコ
師匠編
10/26

3-2話

「ここも大丈夫っと」

 本棚の見取り図に丸をつけながら、一つ一つを確認していく。

 かなり長い間留守にしていた為、不備がないかできるだけ丁寧に行う。今のところ異常はないが、時魔法が途切れた場合、古い本は確実に劣化するので注意が必要だ。この場所には、既に手に入らないだろう本がたくさん並んでいるのだから。

「……それにしても、良くここまで集めたなぁ」

 この本達を彼は実際に全部読んだのだろうか? 

 案外集めて満足な感じもしなくもない。どちらかというと、この階は図書館と言うより、博物館に近いなと思う。


「先生、これ全部確認するわけ?」

「今日の所は。普段は魔力を流しておかしくないかを確認するだけだけど、長期間放置してしまったから」

 少しうんざりした様子のディノに、私は苦笑する。まだ魔法陣を理解していないと、何をやっているのかも分からずとにかく暇だろう。

 古い魔法陣は、一部が消えてしまい誤作動が起こる事があるのでこの確認作業は大切なのだけれどディノ達からしたら、それがどうしたという所に違いない。

「アユム。ディノと一緒に読みたい児童書を探してきて」

「えっ。いいよ。先生の仕事を見ているだけで勉強になるだろうし」

「基礎が学べていないなら意味がない。ここなら私の家にはない、面白い本も多いから探すといいと思う」

 とにかく魔法が学びたいのは分かるが、時魔法の魔法陣は時属性を持たないディノにはあまり関係ないだろう。それぐらいなら、文字の勉強をした方がずっと有意義だ。

「でも――」

「いいから。短期間なら、私の名前で借りられるし。良く分からない本を読むより、ずっとやりやすいと思う」

 文字を勉強し始めたばかりで興味のない本を読み進めるというのは、たぶんディノ性格ではかなり苦行だと思う。

「もしも文字が分からないなら、入口近くで座っている図書館員に相談すると、いい本を紹介してくれると思うから」

 ただまだ探すにも題名が読めない可能性もあるかと思い、そう付け加える。アユムは若干ディノよりは文字を知っているが、流石にディノも年下に文字を教わるというのは悔しいと思うだろう。だとしたら、レファレンス業務も仕事の一環である図書館員に頼った方がいい。

 それにディノは、一人で暮らしていた割に、誰とでも気さくに話すことができるので、物おじもしないはずだ。

「アユム、案内してあげて」

「いいよー」

「いや、あー……うん」


何故か困った顔をしながら、ディノは煮え切らないような返事をした。そんなに難しい事は言っていないと思うけれど、既に本嫌いになってしまったのだろうか?

「先生。もしも不審者が出たら大きな声で助けを呼んでよ」

「……図書館で不審者に出会う事はあまりないけれど?」

 すごい思い詰めた顔で言われたが、ここは治安の悪い裏路地ではないし、そもそも魔法学校の敷地の中にある場所だ。よっぽどそんな事態になる事はないと思う。確かに本泥棒などは入り込む事があるし、昔ここで第一王子と会ってしまった事もあるけれど、長くここには通っているがそれぐらいのものである。

 ディノは図書館という場所を何かと勘違いしているのだろうか?

「それでも、やっぱり気を付けるべきだと思って……。あと、むやみに知らない人と話さない方がいいような――」

 ……何その、知らない人にはついていってはいけません的な言葉は。一応私の方が年上だし、そもそも心配しなくとも早々知らない人は混ぜモノには話かけてはこない。

 ただその言葉で、ようやく私はディノの状況が分かった。

「アスタかカミュに何か言われたの?」

「えっ、いや……」

「別に告げ口する気はないから」

 

 私の事を無駄に心配しそうな相手は今のところ、アスタとカミュとヘキサ兄、それにペルーラだろうか? でもペルーラは私のことを比較的信頼してくれているのでディノに変な頼み事はしないだろうし、ヘキサ兄とディノはまだ面識がない。

 だとすると残るは2人だけれど、一体どちらが私を監視して守れ的な事を頼んだのか。カミュの場合アユムに変な事を吹き込んだ前科があるから可能性は高いが、心配性だけならばアスタの右に出るものはいないだろう。親子関係ではなくなったけれど、それだけであの病的な親馬鹿心配性が治ったとは思いにくい。

「……2人から」

「……そう」

 まさかの2人からか。

 自宅で本に埋まって遭難したり、餓死しかけた事はあるけれど、最近は眠りこける事はないしもう少し信用してくれてもいいのにと思ってしまう。というか、知らない人についていっては駄目って、私の事を何歳だと思っているのか。

 幼い頃は海賊に攫われたり、人攫いにあったりと若干波乱万丈ではあったけれど、あくまでそれは幼い頃の話。今なら転移魔法で逃げる事だって出来るし、よっぽど危険はない。


「あの2人に言われた事は適当に流していいから」

「そんなわけにいかないよ! じゃないと先生の家を追い出されるし」

「……一応、あの家の所有主は私だから」

 アスタは居候だし、そもそもカミュはあの家に住んですらいない。まあ、第2王子なので、国外追放とかできてしまうのかもしれないけれど、ディノは密目族という珍しい種族な上にそれなりに魔力もある。

 だからよっぽど大丈夫だとは思う。でも大人に色々言われたら心配になるのも分からなくはない。子供相手に何やってるんだあの2人はと思ってしまう。

「とりあえず、図書館では2人が心配するような事は起こらないから」

「分かったけど、マジで無理とかしたら駄目だからな」

 念を押されて、私はとりあえず頷いておいた。ディノはまだ魔法学校に入学もできていないので、この国に居場所がない。追い出されない為に必死なのだ。

 だとしたら、ある程度は妥協して、今度ディノに何か言っている姿を見かけたら、色々話てみようと思う。


 心配そうに何度か振り返りつつも、アユムと一緒に階段を下りていくディノを見送った私は再び時属性の魔法陣を調べ回る。

 この辺り何かマニュアルを作って、誰でも確認できるようにするといいかもしれないけれど、まず時属性を知っている人が少ないのでどうしていくかという感じだ。この学校の教師ですら時属性には詳しくない。

「また、考えておこう」

 平穏に山奥に引きこもるには、色々やる事があるなぁと思うとため息が出そうだが、一つ一つ片づけていくしかない。

 全ての魔法陣を確認し終った私は、蓄魔力装置の確認に取り掛かる。


「結構時間がかかる――」

 ――なぁと独り言を言いかけたところで、私はビクッと固まった。

 少し薄暗い本棚の後ろから、ジッと私の方を見ている人に気が付いてしまったからだ。とっさにディノが言った不審者の文字が頭の中で浮かぶ。ただ実際不審者ではあるけれど、私に対して何かしようとはしてこない。

 ただただジッとこちらを見ているのだ。……一体、いつからそこに居たのか。

「……あの。何か?」

 私は不審な人影に対して声をかける。

 一時的にだが、図書館で寝泊まりした事があるので、幽霊などの怪奇現象は起こらない事は知っているので、相手は人間だ。

「あ、あの」

 私の呼びかけに、人影もビクッとすると、ゆっくりとその姿を現した。

 そこに居たのは、銀色の髪の青年――エナメルだ。見た目は、ヘキサ兄と同じクールビューティーに見えるけれど、何となく雰囲気は違う。どこかビクビクしている気がする。

 何か怖がらせるような事をやっただろうかと思うが、覚えがない。そもそも、混ぜモノが怖いなら、私の家に単独で来る事なんてできないだろうし。


「ああ。やっぱり無理ですっ!!」

「は?」

 さっと再び本棚の後ろに隠れるエナメルを見て私はあっけにとられる。何が無理なのか? 

「あの? エナメルさん?」

 私が声をかけると、そろりとエナメルは本棚の後ろから顔だけ覗かせた。その顔は、暗がりだけれど真っ赤だと分かる。

「ここここここ」

「こ?」

「心、心の準備が出来るまで……待って……くだっ」

「は?」

 心の準備?

 意味が全く理解できなくて、私はきょとんとしてしまう。

「こんな早く、会えるだなんて! か、感激なんですけどっ!! でも、話す事を考えてなくて、緊張してしまって。あわわ。僕はえっと――」

 あれ? この間家に来た時はもっとしっかりした青年だと思ったのだけれど。

 何だコレと思いながら、私はエナメルという青年を何か勘違いしていたのかなぁと遠い目になった。

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