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強烈な出来事が起きてしまった朝なのですよ??

 僕は朝、使用人ではない誰かが部屋の前を通った気配を感じ取ったことで、目が覚めて誰の気配かを探るために、この部屋のドアを開けた。

 だが、気配すら残っていなく気のせいだったのだろうか? と考えていた。

 その後、すぐに誰にも入られないようにドアを閉めて鍵を掛ける。

 やっぱり、しばらく歩くといつもとは屋敷の雰囲気が違うような気がして。

 僕はなんとなく一番、危険な出来事が起きそうな気がするお兄さんの部屋に入り、無事かどうか確認しに行けば……、この判断は正しかったとそう思った。


 苦しそうな表情をし、お兄さんはサバイバルナイフを持った女の子に馬乗りされている状態だったから、あの時部屋に二度寝しなくて良かったとそう思う。

 アルファーセル大陸に住む種族なら、あの体勢になることは可能かもね。

 でも、あの女の子は違う。

 恐らくあの女の子は、お兄さんをストーカーしていた当本人なのだろう。

 つまりは種族は人間。例え、武術の師範代の資格を持つ女性だろうと、物理攻撃もなかなか得意なお兄さんが、何らかの戦略にはまらない限りは負ける可能性がとても低いんだよね。

 お兄さんの様子を見れば一目瞭然。

 呼吸はしているものの、僕がいることに気づいていないのか、それとも痛みのあまり身体を自由に動かせないのかは定かではないけど、あまり良い状況ではないことは誰でもわかる。

 見た目には外傷はないものの、お兄さんは精神魔法をかけられている。

 その様子を見てすぐに、お兄さんのストーカーである彼女と僕達の母である学園長が手を組んでいるとわかった。

 今、精神魔法を躊躇いもなく使うのは……、あの理事長くらいだ。


 それに学園長は、僕が生まれる前まではここの屋敷に住んでいたのだから抜け道の一つや二つ知っていているか、作っていてもおかしくないと思う。

 いや、むしろ知っていない方がおかしいと考えた方が良いかもしれない。

 学園長は良くも悪くも強かだ、こうなることも計算のうちならば、抜け道の一つや二つ、事前に調べておかないはずがない。……再婚をするための計画を当時から立てていたら、と言う話前提で考えればの話だけれども。


 深く考察してみると、僕よりも学園長が魔法の実力があるのではないかと思う人もいるかも知れない。

 でも、魔法が得意なために闇に落ちた学園長と一緒にして欲しくないし、強さを比べても欲しくない。

 法律を犯してまでも、僕は強力な魔法を身に付けたいとは思わないし、今よりももっと身分が高くなりたいとか、そう言う成り上がりたいとも思わない。

 何の目的で、理事長はこんなことをしているのかはわからないけど、僕の大切な人々を傷つけるような真似をするのであれば、こちらにも考えがある。


 ああ、話がずれてしまったよ。 ああ、話がずれてしまったよ。この話は一先ずおいといて……。

 何らかの方法で彼女をこの屋敷の中に入れたか……と考えるとおかしい。

 僕が創りだしたこの結界の対策なんてある訳がないし、彼女はアルファーセル大陸に入ることすらも出来ないはずなのに……、何故あの女の子はアルファーセル大陸ならともかく、この屋敷内に入ることが出来たのだろうか?

 理事長の魔力や魔法を感じた瞬間にアルファーセル大陸をおおう結界魔法が反応して、その魔法を追い返してしまう仕組みを仕込んでおいたはずなのに。

 やはり、学園長は他の禁忌魔法を使って何かを造り出して、アルファーセル大陸にストーカーの彼女にその魔法を使わせたとしか考えることが出来ない。


 その魔法のせいで、あの女の子はこの屋敷に侵入することが出来てしまったのかもしれないね……。

 それに今思えば、あの女の子がヤンデレやストーカーになってしまったのも、全ては学園長が自分の計画を進めるためのことで、そんな理由のためにあの女の子に精神魔法で狂わせているかもしれないとも考え始めてしまっている。

 何故、僕がそう考えているかと言うと……、彼女がお兄さんを一向に直ぐ刺そうとしないからだ。

 だから、僕はそう思ったんだよね。

 ……なら、僕が今出来ることはただ一つくらいじゃないのかな?

 それは、ストーカーとヤンデレになってしまった彼女を止めること……。


 僕はお兄さんを守るように、彼女からお兄さんを庇うように彼の前に立つ。

 そして、お兄さんに彼女に聞こえないように話しかけたの。


「お兄様、お兄様? 聞こえておりますか? 聞こえているなら、返事をしてください!」

「の、ノハルか……。うん、大丈夫。喋れていないだけで聞こえてはいるよ」


 苦しそうにそう答えているお兄さんにかけられている禁忌魔法の心当たりが、僕には一つだけあった。

 痛覚の幻術の禁忌魔法だ。

 この魔法は見える攻撃ではなく、精神的苦痛を与えるための魔法なの。攻撃を与えていないと言うにも関わらず、攻撃されたように痛みを感じるようになる幻術でもあり、……尚且つ痛さを何段階にもコントロールが出来てしまう魔法でもある。

 その魔法をかけられた本人もその魔法をかけた本人も精神が狂ってきてしまう可能性があると考えられた結果、恐ろしい魔法として禁忌魔法とされた。

 禁忌魔法の部類に含まれている精神魔法と言う種類の魔法は、この世界の魔法書から抹消されている。

 だから、禁忌魔法の魔法書があるのはひいお祖父さんの書庫くらいなもの。

 ある可能性があるとすれば、サーバント大陸の立ち入り禁止書庫にしかないかぐらいだと思われる。


 ひいお祖父さんの書庫と言っても、地下の方の書庫の方だから読める可能性があるのは僕だけで。

 まあ、禁忌魔法自体に興味がないからその魔導書を読むつもりはないのだけど……とそう考えながら、精神魔法で与えられている痛みを中和する回復魔法を使い、お兄さんにかけられていた痛覚の幻術の魔法を強制的に解除しようと思いついた。

 案の定、回復魔法で中和することにより、その魔法の効果を解除した後にそんなお兄さんを支えるために、彼の隣に行って支えるように腕を僕の肩に乗せた後、僕の左手を彼の腰へと回して支えた。

 お兄さんがすまないと僕に言ったのを僕は何かイラついたので、シカトして無詠唱で強力な結界魔法で僕らを守るように結界を張れば、僕の方側だけが何故か上手く結界が張れなかったようだったけど。


 そんな状態にある僕に、完全に狂ってるストーカーな彼女は視線を向けていて、その視線はあからさまに僕を刺してしまおうと物語っていた。

 その視線を向けられた瞬間、僕はお兄さんを支えるのを瞬間的にやめ、それと同時に向かってきた彼女の攻撃は、あまりに感情的な攻撃で避けることを苦には感じさせないもので。

 僕は勢い良く、後方に飛んで彼女から距離を取り、無詠唱で氷魔法で弓を造り出した後、相手をなるべく傷つけないように狙いを定めて……手に握っていたサバイバルナイフだけを攻撃した。


 狙いは見事に命中して、彼女の手からナイフは床に落ちる。そのことに驚いたストーカーな彼女は、魔法で剣を造り出して僕に襲いかかって来たから、僕は魔法で造り出した弓を床に落とし、また無詠唱で棒術で使う棒を造り出した。

 その後、彼女の鋭い攻撃を攻撃の力を受け流し、躊躇うこともなく懐に入りこんで、僕は気絶する程度に腹部を攻撃すれば、気絶して床に倒れ込んだ。

 万が一のことを考えると僕は彼女との戦いを長引かせるにはいかなかった。

 だから、彼女にはしばらくの間気絶しておいて欲しいと思い、気絶する最低限の力加減で攻撃したの。

 相手はストーカーだとは言え、女性だから手加減を間違えれば何処かしらの骨まで傷つけてしまうからね。一応は手加減したよ? ……怪我してないかは保証出来ないけど。


 ……なんて考えながら、氷魔法で造り出した棒を床に放り投げて壊した後、お兄さんの元へと駆け寄って精神を安定させる魔法を丁重にかける。

 お兄さんの場合、すぐに痛覚の幻術を調和させる回復魔法をかけたので大事には至らなかったようだ。

 ちなみに、痛覚の幻術を調和させる回復魔法はアートお兄さんに依頼されて造り出した魔法である。

 アートお兄さんも学園長が精神魔法を使っていることに気づいていたらしく、サーバント大陸から選びに選び抜かれた研究者達に精神魔法を研究することに許可を出して、極秘に研究を続けているようだ。

 僕の場合は、アルファーセル大陸の第二王子だと言う立場を隠して生活をしているため、この依頼はアルファーセル大陸の第二王子として依頼されたから、極秘依頼としてその研究を進めていた訳だけどね。この魔法の副作用がなくなるようにする作業には、流石に随分と苦労させられたよ。魔導書を実際に読んでないから特にね。

 まあ、理事長が実際に使っているところを見てたから、おおよその魔法陣は理解出来てたから良かったけど。


 僕が依頼されるのは、回復魔法か防御魔法の二つくらいだ。

 アートお兄さんもロスト父上も僕が攻撃魔法が嫌いだと知っているのもあるし、意外と頑固だから攻撃魔法の研究依頼を絶対に引き受けないのを知っているため、一度頼まれて以降、それからは一度も頼まれなくなったんだよね。

 ほら一度、攻撃魔法の研究依頼をされたって言ったでしょ? その話を聞いた瞬間に思わず殺気を放ってしまったことがあったから、それ以来は攻撃魔法を研究してくれと言うことは一切なくなった訳ですよ。

 殺気を放ったことは勿論、怒られなかったよ。逆にあの二人が宰相のユートさんに怒られていたし。


 あれは、説教コース三時間になりそうなほどの饒舌な説教だったよ……。

 しかも、あの方はクーデレなので余計に怖かったよ。見ているこっちも悪いことしたような気分になったよなぁとそう思い出していると、ふと気づくと考えている内容が関係ない内容になっていることに気づき、魔法にかけることに集中しようと思い直したと同時に精神を安定させる魔法をまんべんなく全身に行き渡った。

 そのため僕はお兄さんから離れて、ストーカーな彼女が目が覚めて暴れださないように身体強化魔法を応用して、彼女が動けないくらいに重力を通常より重くした後、お兄さんの元へと戻って結界魔法を無詠唱で解除してからお兄さんに話しかけた。


「大丈夫ですか? お兄様……単刀直入に聞きますが、あの方がお兄様のストーカーですか?」

「あぁ……そうだよ。クラウンも明日……じゃなかった。今日着ようと思っていた僕の服のポケットに潜んでいてくれたみたいなんだけど……」


 不安そうな顔をしてそう言うお兄さんに安心して欲しくて、今日のお兄さんが着る洋服のポケットを確認すると明らかに睡眠魔法をかけられていた眠っているクラウンさんがいた。

 僕は慌ててクラウンにかけられている睡眠魔法を強制的に解除するとクラウンさんは目を開いたので、僕はお兄さんの元へと向かうと僕を追っかけるように、クラウンさんがついてきてお兄さんにこう言った。


「ごめんな……こんなに近くに居たのに、すぐにやられちまって……。

怖い思いをさせてしまってごめんな。大丈夫か? 何処も怪我したりしてないか? 毒とか盛られたりしてないよな?」


 そう二人が会話している間に僕は、床に落ちているサバイバルナイフのようなナイフを拾って、念のために観察しているば……、薄く毒が塗られていたのがわかったので、すぐにお兄さんの部屋にあるベルを三回鳴らす。

 ちなみに、ベルを一回鳴らした時は使用人が仕事をしている場合は仕事を優先していいくらいの用事。

 二回ベルを鳴らした時は急用。三回ベルを鳴らした時は緊急事態である。

 そうすると、勢い良くバタバタと使用人やらお父さんが勢い良く入ってきて、呼んだのはベルを持っている僕だとわかったらしいラセルが僕に話しかけてきた。


「どうか致しましたか? ノハル様」

 と、心配性なラセルは顔を歪めながらそう聞いてきたけど、僕は淡々とした口調でその質問に答える。


「このナイフには薄く毒が塗られているから、まず処分をしておいて。

それから、お兄様をストーカーする女を捕まえた。魔法で動けなくしているが、万が一と言うこともある。武道派の使用人、数名……見張りを頼んだぞ。

次にストーカーの女が目を覚ましたら僕に伝えてくれ。それとお兄様はしばらくは僕の隣の部屋に移動してくれる? 相手は精神魔法を使ってくるから、その魔法の対処が苦手なお兄様は戦うのは難しいだろうし、体調が万全じゃないからね。

それからシェフ達に知らせてくれ。手間をかけるが、今日の朝メニューではなくお兄様とクラウンさんには胃に優しい食べ物を用意してくれと。思い出して食べ物を吐いてしまう可能性もあるから今日一日は取りあえずは彼らには別メニューにしてくれ。今日はアルファーセル大陸の頭脳派の種族は年のために外出禁止。

武道派の種族は狩りに行くのは許可するが、狩りに行けない頭脳派の種族に必ずお裾分けするように伝えろ。使用人の皆さん頼んだぞ。見張りの役目の使用人は僕らがお兄様の部屋から出てから、見張りの役目についてくれ。お父様はここに残って頂けるとありがたいです」


 そう指示する僕に話の内容に頭がついて行けないラセルは戸惑いを見せつつも僕の指示通りに誰がどう動くのかを指示していて、ラセルは指示をし終わった後に一斉に使用人達はお兄さんの部屋から出ていった。それを確認した後に僕はお兄さんの元へと向かい、こう質問した。


「辛いかもしれませんが、質問に答えて下さい。彼女の名前と学年と何組かを答えて下さいますか?」

「クロノア マティカ……。俺と同じ年だ。出身はアルティメット大陸で、上流貴族。ノハルと同じく見た目を偽っていたから、俺は平民だと思われていたんだ。……俺の彼女だって、傷つけられたんだ……。黙って見てられるか……」

「えっ!? 彼女いたのですか。知りませんでした……。てっきり、ブラコンなんで政略結婚をなされるのかとばかり思っていましたのに! どうして教えてくださらなかったのですか!? 僕、会いに行きましたのに!!」


 そう僕が言うと、複雑そうな顔をしてお兄様はこう言っていたのだ。


「だってさ……彼女が出来たとわかれば、ノハル達ってば彼女のことを優先しろって言うじゃん? 彼女さ、はっきり言ってブラコンだから……別にお互いに優先しなくても良いんだよね……。それに会いに行かなくてもいいよ、アイツさ……はっきり言って変態なんだ。ブラコンにもアイツには色々趣味があってなぁ~……。だから、お前達には会わせたくない。ノハル、興味本意でくるなよ……絶対に!」


 今、一瞬思ったんだけど……お兄さんの周りには変態が多いんだなと。お兄さんの周りには変人さんしかいないのだろうか……?


「ノハルちゃん、今、失礼なこと考えたでしょ?」

「いいえ、……お兄様は変人なお方が好きなんだなと思っていただけですから、気にしないで下さい」

「まともなのは、アルノマしかいねーんだよ……残念ながら……」


 お兄さんはカクンと項垂れるように頭を下げて、ため息をついていた。僕はお兄さんに心の中でドンマイと声をかけるのだった。






実は、ノハルが知らないだけで彼女がいたお兄さん……。

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