ノハル、がんばっちゃいますよ? 1
数十分、彼は泣き続けていた。
そんなルートの泣き声に僕は心が痛くなったし、彼の両親に対しては怒りの気持ちでいっぱいだった。
彼を助けてあげたい、僕が銀狐姿になってルートの両親が、彼にしてきたことをバラしてしまえば簡単なことなんだろう。
しかし、先のことを考えると僕が銀狐だと言うことをバレるような行為をするのは、ルートの為にもしない方がいいと思う。そのせいで、ルートはまた苦しい思いをするかも知れなくなるのは、僕にとって一番辛いことだから。
僕のことでルートを巻き込んでしまって、僕のせいでルートは死んでしまうかもしれないと考えると、ルートの両親に銀狐姿で今までしてきたことが、どんなに残酷なことなのかを教えるのは非常に厳しいことなのだ。
他にも手はあるが、一番良いのが父さんに頼むことなんだろうけど……。
しかし、父さんに頼むとしたら、ルートに虐待したと言う決定的な証拠が必要となってくる。
僕が勝手に動く分には本人の言葉を聞いて動けるが、父さんが立場上ではアルファーセル大陸の領地主であるのは間違えないことなのだから。
僕はルートが嘘をついていないとは信じているが、本人の証言があっても、上の立場である父さんを動かすためには、それを決定的づける確実な証拠がなければならない。
僕にはどのぐらいの証拠があれば、父さんが動けるのかが正確にはわからないので、ここは本人に聞くのが一番だろうと僕は考えている。
……父さんに協力を求めるなら、アートお兄さん達にも協力をしてもらなければいけなくなるのだ。
でもその前に、父さんに報告石で相談してからお兄さんに協力を求めると言う形が一番だろうと言うのが僕の考えである。
ルートとルーカ様の婚約をどうにか出来るのはアルファーセル大陸の領主である父さんと、サーバント大陸の王であるロスト父上と第一王子であるアートお兄さんだ。
しかし、僕らアルファーセル大陸は人外が集まる大陸なので、反逆ではないかと見られる可能性がないとは言えない。 なので、この計画が成功するためにはサーバント大陸の王であるロスト父上と、第一王子であるアートお兄さんの力が必要。
しかし、それでは婚約を取り消さないんではないかと思う方もいると思う。
だがしかし、アルティメット大陸が反抗した時に一言こう言えば、アルティメット大陸の王族達は静かになるだろう。
「婚約をやめなければ、輸出をやめる」とそう言えば、彼らは何も言えなくなってしまうだろう。
それは何故か。それは、サーバント大陸やアルファーセル大陸からの輸入が止まってしまえば、彼らは国が成り立っていかないからである。
だから、彼らは自動的に婚約を破棄をしなければならなくなる。 まあ、この一言はいつまでもずっと引き下がる時の最終手段であるが。
アルファーセル大陸は表立っては行動出来ないので、ロスト父上とアートお兄さんに頼むのが一番確実だと判断した。
二人が協力してくれるかどうかはわからないが、頼むだけ頼んでおこうとは思っているが……。
アルティメット大陸は、サーバント大陸の援助なしでは国が成り立っていかないので、反逆するとは考えにくいし、反逆したと同時に輸入が止まって自滅してしまうことだろう。
だから、刃を向けてくるのはルーカ様ぐらいだと考えていいだろう。
国全体ではきついが、ルーカ様ぐらいなら汚い手段を使って刃を向けてきたとしても、僕がなんとか出来ると思うし。
「ノハル……ごめんな、ごめん…。お前を巻き込んじゃって……」
まだ、涙目な彼はそう言った。……彼は僕が何をしようとしているのか、勘づいているのだろう。
僕がルートの両親の児童虐待を暴き、ルートを救おうとしていることも、勘の良い彼は僕の様子から気付いているのだろう。
両親のルートへの虐待をばらして欲しくないとルートが望むなら僕はそうしよう。でも、ルートの様子を見る限り、僕の想像以上にルートは自分の両親に酷い虐待をされている。
親友が虐待をされていることを知ってて僕は、絶対に見逃せない。そんな僕を止めようとしないと言うことなら、本当にルートは限界なんだ。
ルートの心はもう、悲鳴をあげている。助けて欲しいと。虐待から解放されたいとそう、願っている。
なら、僕は……ルートをその苦しみから逃してあげたい。僕は父さんやアートお兄さんやロスト父上に断れたとしても、必死に説得できるし、ルートのために行動できるんだ。
「ルート……そんな悲しそうな顔をしないで。僕は望んで巻き込まれているんだよ。だから、ルート……。ルートが心から笑顔になれる手伝いをさせてよ。ね?」
そう僕が言うとルートは服の袖で涙を拭いて、彼はコクンと頷き、こう言う。
「ノハルが巻き込まれてしまった時は俺も一緒に巻き込まれてやるからな。だから、だから……力を貸して欲しい。確かに両親には産んでくれたことには感謝している。だけど……もう、暴力をふるわれるのはもう嫌なんだ。だから、自由になるために力を貸して。ノハル!」
ルートは戦うことを決意した顔になる。
僕はそんなルートに力強く頷いた。後のことはその時になって考えればいい、だから……今は彼の幸せを掴むために僕は、彼のために手を貸そう。
かつて、海王様が僕の幸せを祈り転生させてくれたように……。次は僕が、ルートの幸せを祈る番だと思うから。
「勿論だよ、ルート。僕はルートが幸せを掴める手伝いをさせて頂くよ。嫌だって言ったって、止めないんだからねっ!!」
「協力してくれと頼んだけど、ノハルが怪我したら、元もこもないんだからな。手加減してくれよ、ノハル。大切な『親友』を失いたくないからな」
今……ルートが、僕のことを『親友』って言ってくれたことに僕は涙目になりながら、僕はコクリと頷いた。
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「良かった。幸せそうだ。ルート……ノハルのことを頼んだよ。我は……もう、行かねばならぬ。ノハルに背負わせてはならぬものを消しに……行かねばならぬから。我の代わりにノハルを見守っていてくれ。そして……」
海王様は、声をださずにこう言っていた。
『ノハルの心のずっと奥にある闇を取り除いて欲しい。ノハルは我の大切な………………■■■だから』




