過去の話
ルートの影のある様子が気になって、あとの授業時間はずっとそのことばかりを考えていた。
帰りのホームルームが終わったことをルートに声を掛けられていなければ、ずっと気付いていなかったんじゃないかと思うほどに。
それから急いでノアとノーテルが待つ場所へと向かい、その場所へとたどり着く。
「お帰りなさいませ……ルート様と一緒なのですね、ノハル様」
「うん、ただいま」
そうノアが言うとノーテルが僕に手を差し出してきた。僕はその手を取り、ノーテルと繋いでいない方の手でルートと手を繋ぐ。
その様子をノアとノーテルが見守っていた後、ノアはノーテルの手を取り、繋いでいない方の手で移動石に魔力を込めた。
そうすると一瞬で周りの景色は変わった。僕はノーテルと手を繋ぐのをやめて、ルートと手を繋いだまま僕の部屋へと向かった。
「……ノア、ノーテル……僕がいいよって言うまでは、僕の部屋には二人とも入らないでね」
僕は二人にそう言い残して、二階にある僕の部屋へと歩いて行った。
少しだけ歩いて僕は自分の部屋のドアを開けて中へと入り、僕らは椅子に座った。下を向きながら、あきらかに暗い表情をするルートが口を開くまで僕は静かに待っていた。
「あの……あのな……、その……」
ルートは下を向きながら、小刻みに方を震えている。そんなルートを見て僕は椅子から立ち上がり、ルートの膝の上で白くなるほどに強く握られている右手を、僕の手を安心させるように重ねて僕は言う。
「ゆっくりでいい……、ゆっくりでいいから落ち着いて話してごらん?
僕はルートが落ち着いて話せるまで待ってるから、少しずつでいいんだ」
重ねていない方の手で、ルートの頭を数回撫でる。その後、僕はルートの手を重ねていた方の手も一旦離し、僕はフードを外す。
髪の毛の色を元の銀色に戻した。その後に防音結界を強化してから明かりをつけたその時、ルートは口を開き、ゆっくりとこう語り始めた。
「俺の家、パルフェ家は優秀な召喚士が生まれてくる家系らしいんだ。
それで俺は、小さい時から英才教育をずっと受けてきたんだ。遊びにも連れていってはくれず、遊びにもいけない。勉強ばかりの毎日だった。
一問、間違えればムチで背中をうたれたりと暴力を振るわれる毎日が続いたんだ。そんな日が毎日続いたら、俺だって精神状態だって不安定になる。
そうすれば、俺は人より良く『見えて』、人より良く『聴こえる』から、そんな俺を乗っ取ろうと考えるあやかしも出てきた。実際にあやかしに乗っ取られて、父様達が必死になって追い出してくれた。
だけど……、そのあやかしが出ていった後には父様母様に「恥知らずがッ!」って言われながら、殴る、蹴るの暴行…。それ……でもッ、頼れる人がいなかったからッ!……一人で我慢するしかなかったッ。……辛かったッ……苦しかったッ……痛かったよ……」
ルートは小刻みに震えながらそう言っていた。僕はそんなルートを抱きしめ、ルートの頭を無言で撫でる。
「そんな中……ルーカ様との婚約が決まった。それからは、もっとひどくなったんだ……。俺が一言でも気に食わない発言をしたら、家に帰ってからずっと……俺が気絶するまで……殴り続けた。
俺は、それから逃げるためにルックノット学園にきた。もう嫌だッ……もう痛い思いなんかしたくないよぉー……ノハルー……」
そう言って、ルートは僕に抱きついた。泣きながら、苦しそうに……数年間、ずっとため込んでいた涙をだすようにルートはずっと泣き続けていた。
そんなルートの頭を撫でながら僕は彼にこう言うことしか出来なかった。
「痛かった、痛かったね。妖精達以外は誰もルートの苦しみや痛みに気付いてくれなかったんだね。
怖かったね、苦しかったね。良く今まで我慢したね、今まで一人でルートは耐えてきたんだね……。
でも、ルートはもう一人じゃないよ。君が僕に勇気を振り絞ってくれたおかげで僕は、ルートの苦しみに気付けた。
ルート、もう僕がいるから一人じゃないんだよ。それに君には妖精達がいるじゃない。ルートは一人じゃない。もう一人で悩む必要なんてない、もう一人で泣く必要なんてないんだから」
「の……のはるっ……」
僕はそう言った後、ひたすらに泣き続けるルートをただ、無言で……抱きしめ続けたのだった。




