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ルートに対して、アプローチをする精霊王。――いや、正しくは精霊女王だろうか。
精霊王がとある理由で無くなってから、精霊女王が精霊王の代わりに役割を行ってきた、――そんな精霊女王が何故ルートにアプローチするのか。
理由は簡単である、ルートが精霊王の纏う空気と似ている空気を纏っていたからである。しかし、ルートの纏う空気が精霊王の纏う空気に似ていた理由は単純である。
前世で、ルートは強すぎる霊眼を持っていたから。――そんなルートに精霊王の面影を重ねていた精霊女王は、何度もルートにアプローチしたが、敢えなく失敗に終わるばかり。
そんなルートの態度に、勝手に痺れを切らした精霊女王はこうして見合いの場を設けたのである、――そんな精霊女王の行動に、ルートは迷惑そうな顔をしながら、溜め息をつく。
誰とも付き合う気は無いと、何度言ったらわかるんだよ、――精霊女王の耳は耳の形をしたただの飾りなのかと内心、毒を吐きながら苛つく。
表上では精霊王が亡くなっていることは公にはなっていない、精霊王が亡くなった場合、次の精霊王を選ぶのは精霊女王の役目である。
ルートは精霊王になるつもりなんて一ミリたりともない、精霊世界に縛られて自由に自分の好きなことが出来ないなんて、二度とごめんだからだ。
『おい。どういうつもりだ、精霊王。――俺はお前とは結婚しないと断ったはずなんだが。見合いの場まで用意するとは、上司だからだと今までは許していたが、ここまでくると少し鬱陶しいな。
俺はしつこい女は嫌いだ、不愉快だ。精霊王のお前と例え結婚したとしても、ヤキモチを妬かれて縛られるなんて考えらんない、――お前は知らないだろうが、ノハルのいる空間には色々な種類の力の源がある。
今のノハルにとっては、魔力であって魔力じゃない精霊の力の源を生み出すことなんて、息を吸うことと同じくらいに簡単なことなんだよ。
精霊世界に来なくたって、ノハルに頼めば俺は死ぬことはない。――ノハルも喜んで頼まれてくれるだろうな、本当は研究に夢中になりすぎるからさせたくはなかったんだけど、仕方がない。
お前と結婚するくらいだったら、ノハルに研究するように頼む。無茶をしようとするからこれだけはさせたくなかったんだけどな、……とここまで俺に言わせればわかるよな、どれだけあんたと結婚することが嫌なこと。
これ以上、しつこくするんだったら……ノハルに協力して貰って、自分の部下達を引き抜き、一生精霊世界には来ない』
と、ギロリと、目線だけで恐怖で腰が抜けてしまいそうな程の鋭い目付きをした後、ルートは踵を返すように魔法陣を描いた。
『もう少し周りを見ろよ、精霊王。俺じゃなくたってあんたを見てくれる人はお前の周りにはいると思うぞ、ノハル達を待たせてるんでな、これにて失礼』
そう言って、ルートは愛想笑いを浮かべながら、ノハルのいるアルファーセル大陸の地下へと戻ったのだった。
一方、精霊女王に一方的にそう告げていた間、ノハルは何をしていたかと言うと……、ルートの残留魔力を採取して、精霊が持つ独特の魔力の研究をしていたのだった。
ノハルは、とある方法で気体だった魔力を液体状に変化させた後、残留魔力の密度を計算して、似ている魔力数値に照らし合わせて似たような魔力を製作し、ある程度魔力が似てきたところで、後は少しずつ数値を精霊が持つ魔力へと合わせるだけ。
色々な種類の力の源を気体から液体にして、精霊が持つ独特の魔力の特徴にあった力の源を選び、少しずつ足していく。――そんな作業を一時間、失敗を繰り返しながらも精霊が持つ独特の魔力を作り出すことに成功させた。
成功した方法は、実験の最中に書きなぐるように書いたメモを清書しながら、一冊のレシピ本として、簡単には見られないように鍵つき本棚へと、ノハルはしまった。
ノハルが精霊が持つ独特の魔力の実験に成功した時には、とっくにルートは帰ってきていた。――苦笑しながらルートは、実験に成功した充実感を満喫するノハルの頭を優しく髪型が崩れないように撫でた。
『ノハルにしては随分と旧式な方法で、丁寧にやったんだな。……それほどに精霊が持つ独特の魔力は繊細な作業を必要とするものだったのか』
と、満面の笑みで興味深そうにルートは、ノハルの頭を撫でながら、そう言っていた。
精霊が持つ独特の魔力は、何重も重なった数式により構成されていて、それを限界まで似せて、精霊が持つ独特の魔力を作るには新式の方法では難易度が高過ぎる。
新式の実験の方法では早く結果を導くことは出来るが、ある一定の情報量を超えると……、全ての実験の情報がまるで最初からなかった実験のように消えてしまう。
そうならないためには、情報量を気にしながら実験を進め、尚且つ情報量を超えたときにはいくつかの数式を構成しなおさなければならない、――簡単に言えば実験をしたデータを記憶させないといけないと言うことだが、その作業は簡単ではない。
実験を進めつつ、情報量を超えたときに構成し直すことは用意ではないと言うことだ、――つまりは多数で実験を行っている時、もしくはわりと単純作業な実験の時に向いている実験方法なのだ。
今より昔、ノハルが生きていた頃は研究者が多いとは言えず、使われていた方法が旧式である。――新式と言う実験方法が生まれたのは、ヒカリがアルファーセル学園を創立させた時位の年の頃である。
今では研究者の数が増え、新式の方法の方が定着しつつもあり、現代の技術では結論に導けるであろう、精霊が持つ独特の魔力の作り方が、新式の実験に頼りすぎているせいで今まで判明することがなかった。
旧式の実験を用いると言うことに気づいていれば、研究者だったら誰だって、今の現代の技術力では解明することが出来たと言うのがノハルの考えである。
今の研究者は、新式の実験方法は万能だと考えているものが多く、旧式の実験方法を研究者の中でも知らないものもいるだろう。
だが、ノハルの考えは違う。新式も旧式も使い分けることで、新たな謎を解明が出来るのだと、ノハルはそう考えていた。
『ふふっ、何重も重なった数式により、精霊が持つ独特の魔力は構成されていてさ、それを本物により近く構成するのは流石に神経が削られたよ。
精霊が持つ独特の魔力を作るには、新式では情報処理が追い付かない。――新式ではきっと、精霊が持つ独特の魔力を作り出すのは不可能に近いと言える。
精霊が持つ独特の魔力を作り出すには、旧式の実験ではないと、細かい部分まで似せることが出来ない。――精霊が持つ独特の魔力はとても繊細だ、一つ一つ手作業に近い状態でやらないと……、精霊が持つ独特の魔力を作り出すのは難しいだろうね』
と、そう言うと、ルートはしばらく考え込み、ヒカリは聞いたと同時に情報の整理を終えたのか、考え込むルートの様子を満面の笑みで眺めていた。
ロフトに関しては、ノハルが言ったことを理解するのも諦めたのか、呆然とした様子で天井を仰ぎ見ていた。
情報の整理を終えたルートが確認のためか、僕にこう言ってきた。
『つまりは精霊が持つ独特の魔力は、何重も重なった数式により発言していて、それを再現するためには、新式のデメリットである情報処理をしながら、実験をするのは無理で、手作業のような細かい作業が必要となる旧式じゃないと、精霊が持つ独特の魔力は再現出来ないと言うこと?』
そんなルートの言葉に満面の笑みで、『そう言うこと』と言った後にもう一つの仮説をルート達に話すことにした。
『そう言うことでもあるんだけど……、精霊が持つ独特の魔力は古くから伝わっている。なので、旧式ではその魔力を構成している何重も重なった数式を見つけ出すことが出来るけれど、新たに生まれた新式の方法では、その数式すらも認識出来ないのではないかと言う、もう一つの仮説を立てている』
と、ノハルは真剣な表情をしながら、淡々とした様子でそう話す。
その後、つまりは……と先程の会話に続けるように切り出そうとすると、ルート達はなんとなく僕が言いたいことを察したのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。
『旧式の実験方法は、もう古代魔法として認められているんじゃないかと言うのが、もう一つの仮説の結論だ』




