プロローグ完結編
僕の目に映るのは、無数の星。いや、無数の星のようなモノ。
まるで、どこか、宇宙空間のような場所を旅しているかのようだ。浮かぶ、沈む、でも、何処かへと向かって行くのは分かる。でも、何処へ行く?
何か、強烈な衝撃を感じて、僕の意識は覚醒した。
水だ。口の中まで入ってくる。苦しい!!
誰か、誰か助けてくれ!!
必死で水をかき分け、何とか浮かび上がろうとするものの、僕は泳いだことなんてなかった。
死ぬ? こんなところで?
嫌だ、まだ死にたくない。ついさっき生きたいと願ったばかりじゃないか。こんなところで、死んでたまるか!!
僕の願いに体は応えてくれなかった。自分の体が、水中深く沈んでいくのが分かる。
生きたいと願う事は、罪なのだろうか? 僕がここで死ぬのは、当然の結果なのだろうか?
何かに右腕をつかまれ、ひっぱりあげられる感触を感じながら、僕は意識を失った。
この湖の周辺はモンスターもほとんど出ない。ピクニックには、もってこいだ。
久しぶりに家族そろってピクニックだ。平和を取り戻しつつあるこの国でも、国境付近の辺境部にあたるレムリア領では、戦火が及ばなかったこともあり、昔から平和、らしい。よくわからないけど。
私は、岸に腰かけ、足首だけ湖に入れて、向こう岸を見つめていた。
後ろのほうでは、両親が仲良く微笑みながら私を見ているだろう。それとも、執事のアルフレッドが言うように「万年新婚夫婦」の両親はお互いを見ているのだろうか?
そんなどうでもいいことを考えながら湖を見ていたら、いきなり水しぶきが上がった。
数瞬後、一人の少年が顔を出した。私と同じくらいで、十歳くらいの少年だろうか?
よく分からないけど、苦しそうにしている。溺れているのかな?
そんなのんきな事を考えている場合ではなかった。
「お父さん!!」
「待ってろ!!」
お父さんが上着を脱いで、少年の方まで泳いでいく。
やがて、少年のもとまで辿り着いた父は、少年を抱きかかえながらこちらの方まで連れて来た。お父さんは、泳ぎも上手なんだなあ、そんな事を考え、また一つお父さんの事を好きになった。
「意識を失っているようだ。息はしているので、もう少ししたら目を覚ますだろう」
草の上に寝かせた少年を見る。
白の上下に身を包んだ少年を見て、私の胸は高鳴った。
黒髪、身長はだいたい私と同じくらいだろうか?
優しそうな顔立ちをしていた。優しそうな、って、どんな感じだろう?
「どうした? アリス、見惚れちゃったのかな?」
からかうようなお父さんの声も気にならない。
でも、何だろう? 何故か目を離せない。
あ、目を覚ました。でも、目を覚ましちゃったら、この子はどうするんだろう? 近くに親がいるのかな? でも、岸から結構離れていた場所に落ちるなんて、普通あり得ないよね?
薄目を開いた少年と、目があった。
「天使……?」
少年がそんな事を言った気がした。天使? 私が?
でも、少年はまたすぐに目を閉じ、寝息を立て始めた。
誰かに顔を叩かれる感覚がある。少し痛い。
痛い、という事は、僕は死ななかったのだろうか? 生きていていいのだろうか?
何とか、目は開けられるようだ。僕は、何とか目を開けて、周りを見ようとした。
一人の女の子と目があった。
肩までかかる金髪の蒼い目をした、綺麗な顔立ちの女の子だ。
その時、僕には彼女が、まるで僕を迎えにきた天使のように見えた。
「天使……?」
ああ、天使が迎えに来たのなら、しょうがないかな。
でも、最後にこんな綺麗な天使を見る事が出来たのなら、僕の人生も悪くなかったのかもな。
僕は、もう一度意識を手放した。
とりあえず、これでプロローグは終了を予定しています。
ただ、しっくりこなかったら、またプロローグが追加されるかもしれません。
いい加減な作者で申し訳ありません。
ところで、十歳前後の子供って、あんなしっかりした考え、してますかね?
次話からは、数年経過した後の話にしようか、と考えています。