プロローグ
熱い、体が熱い、誰か、誰か助けて……。
あまりの熱さに、僕は飛び起きた。
そんな僕に、声が聞こえた。
聞き覚えのない、でも、優しいと分かる声。
――力が欲しいか?
僕はまだ、恋もしていない。夢も見ていない。
だからこそ、力が欲しい。
生きる力が。
――ならば、我々のもとへ来るがよい。力を授けよう。
僕は、声に導かれるまま、部屋を抜け出し、“施設”の屋上へと向かった。
不思議なことに、誰にも会わなかった。
いつもなら、今の僕のような、脱走者を部屋に連れ戻すために、誰かしら配置されているはずなのに。
不思議に思いながらも、でも、異常だとは、思わなかった。
ああ、この優しい声の持ち主が、きっと、どうにかしてくれたのだろう。
屋上へと辿り着いた。普段なら、しっかりと施錠されている扉は、押すだけで簡単に開いた。
「よく来たな、坊や」
そう言って、僕を迎えたのは、金髪の少女だった。
ツリ目がちな、見たこともない衣装を着た少女だった。
腰まで伸びる金髪が、夜風に揺れていた。
「ほう、確かに。もう、この坊やはこの世界では生きていけないだろう。このままでは、処分対象だ」
金髪の少女の横で、腕組みをしている存在がいた。
茶色い蜥蜴? そうとしか判断できない。
彼――声から判断するに彼だろう――は、黒いマントを着て、赤いマフラーをしていた。
赤いマフラーが夜風にたなびいていた。
「坊や、よく聞け。君の体の中には、世界を滅ぼしかねない程の魔力が眠っている。この“施設”では、君を処分対象に決めた。君は、もうこの世界では生きていけないよ」
僕は、何を聞いたのだろう?
この世界では、生きていけない?
「我々は、君の処分を頼まれたモノだ」
「だが、ワガハイらはたかだか10年生きたくらいの子供を殺すほど、腐ってはいない」
「だから、坊や、君に選択肢をくれてやる。一つは、君のような存在でも生きていける世界に我々の力で送ってやろう。そこでなら、あるいは生きていけるかもしれぬ。もちろん、どうやって生きるか、どのように生きるかは我々が少しばかりは手助けしてやるが、基本的には坊や自身が決めないといけないよ」
「もう一つの選択肢は、このまま、この世界で生きる事を望み、しかしワガハイらに殺される事よ。さて、どうする? もちろん、逃げてもいいが、無駄だがね」
僕は、どの選択肢を選ぶ?
でも、どちらにしろ、この世界では僕は生きてはいけない存在なんだ。
でも、僕は――。
「僕は、生きたい!! まだ、恋だってしていない!! 夢だって見てみたいんだ!!」
僕は、叫んだ。ありったけの声で、命を叫んだんだ。
「よかろう。“契約”は完了した。君を、今すぐこの世界から別の世界へ、君が生きてもいい世界へ送ろう。願わくば、君の人生に幸多からんことを」
優しく微笑んだ少女。
「貴様の魂に、いくらかの枷をつけよう。貴様が生きて、力を蓄えれば、その枷はどんどん外れていくだろう」
どこか、からかうような茶色の蜥蜴の声。
「では、な。我輩も力を貸そう。きっと、遠からず出会えるであろうよ、我輩の力を帯びるモノと」
「どこか、別の世界でも、ワガハイと出会うであろう。力を借りるがよい」
その二人(?)の声を聞き、僕の意識は闇に包まれた。
「では、な。……よ」
何人か、同一作者の登場人物が登場しますが、一応他作品を読まなくても分かるように物語は作っていく予定です。作者がアホなため、地名、人名、世界観設定などは、かぶることが多々あります。同じ名前の別の世界だとでもとらえていただければ、と思います。