9
よく晴れた日の夜。雲はない。けれど、やっぱり星は見えない。
学校は大会前の運動部が体育館を使っているらしく、まだ開いていた。だから、足は自然と図書館に向いた。
「あ、藍田君。こっちです」
小畑さんもやっぱり図書室にいた。
駆け寄り、体調を伺ってみる。そんなに悪そうには見えない。でも一応、
「大丈夫?」
「大丈夫です。失敗するかもしれないけど、やってみますね」
渡り廊下に出て、空を見上げる。夏場で日が長いとはいえ、八時になると暗い。
この空に、星が瞬く。
ニュースになるだろうか。みんな感動するだろうか。
小畑さんが、深く息を吸い込んだ。
「いきます」
息を吐き、人差し指を空に向けた。
「……」
「……」
星は、見えない。
「……うぅ」
手を下ろし、今度は両手の手のひらを、空に向ける。
「……あと…………ちょっと……!」
ぽん
そんな音がした。ような気がした。
空に、金平糖が浮かぶ。
空じゃない。ぼくたちの目の前だった。
「あ、間違えちゃった!」
すかさず、念のため持ってきていた懐中電灯を鞄から取り出し、それで金平糖を照らす。
「小畑さん、金平糖でいいから!」
「はい!」
右手の手のひらをそのまま、左手の人差し指で金平糖を指す。
金平糖が、宙に浮いて、輝いた瞬間だった。
「おい! あれなんだ?」
渡り廊下の下から、男子生徒の声だった。まずい。誰かが金平糖に気づいた。小畑さんを止めなきゃ。
「小畑さん!」
声を掛けると、金平糖がぱらぱらと地面に散らばっていった。
右手を下ろし、左で宙を指差したまま、小畑さんが声を震わせ、言った。
「藍田くん……あれ」
指差すほうを見る。そこには、空がある。星のない夜空……
違う。
星だった。流れ星。ひとつや二つじゃない。何百個という星が、夜空に流れていた。
「すご……あれ、小畑さんが?」
「いえいえ、あんな超上級魔法、使えませんよ!」
偶然なのだろうか。
それとも誰か別の……
そんなことはどうでもいい。
「きれい……」
「本当に……」
満天の星空。
想像してたのと少し違う。でも想像よりずっときれいだった。
「藍田……くん」
「ん?」
「私、限界です……」
小畑さんが、ぼくにもたれかかってきた。
「え?」
小畑さんの体が熱い……これは
「熱がある!」
あわてて小畑さんを支えて、学校を飛び出した。