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早くきたつもりだったのに、小畑さんはもう来ていた。
「早いね」
「えぇ、まぁ。はりきってますから!」
元気に笑い、鞄からさっき借りた本を取り出した。
「えっと……場所を移動しましょうか。放課後は人が多いですし」
「うん。そうだね」
「こっちです」
図書室の奥に進む。突き当りの壁を、小畑さんが力いっぱい押した。
ぎぎぎ
嫌な音を立てて、壁がへこむ。回転しているようだった。
ほこりが舞う。その奥に、小さな部屋が見えた。
「ここ……」
「隠し部屋なんです。紫門《しもん》先生に教えてもらって」
「紫門先生?」
「司書の先生です」
はじめて名前を知った。
「先生も昔、魔法を使おうとしてたみたいで、この本のことを教えてくれたのも先生なんです。私が魔法使えることを知ってるのも先生だけで」
「そうだったんだ」
「じゃあ、人が来る前に、入っちゃってください」
「うん」
まっくらな部屋に、足を踏み入れた。
ほこりっぽくて、カビのにおいがする。それなのに、夕焼けを見たときに抱く、懐かしさと似たような感情がわいてきた。
「妙に落ち着くでしょう、ここ」
「そうだね……なんだか、懐かしい」
「でしょう! 私もそうなんです。はじめてきたときに、あ、ここ懐かしいって思って。お気に入りな
んです」
部屋の中には、小畑さんの私物と思われる、ノートや時計、懐中電灯、ぬいぐるみがあった。
「ドア閉めるので、懐中電灯、つけてもらってもいいですか?」
「うん」
大きめの懐中電灯をともしたのと同時に、ドアが閉められる。随分薄暗くなる。
「えっと……」
「あ、懐中電灯」
「はい」
ぼくから懐中電灯を受け取り、小さな机の上で例の本、『簡単魔道書~星~ 下』を開き、真剣に読
み始めた。
そういえば、手伝いって、何をすればいいんだろう。
「ちょっと見ててくださいね」
「え?」
ぬいぐるみを真上に放り投げ、両手を上に掲げた。
ぬいぐるみが、空中に止まる。
手を下ろすと、ぬいぐるみも一緒におりてきた。
「い、今のは?」
「空中浮遊の魔法なんですが、面白いでしょう」
そういえば、どうやって魔法を習得しているんだろう。精神統一みたいなものなのだろうか。
聞いてみたが、やはり精神統一や集中力がどうのと帰ってきたので、
「ぬいぐるみ、かわいいね」
と、話をそらした。
「これ、入院していたとき、看護婦さんにもらったものなんです」
「入院?」
「高校に入学してか今月まで、入院してたんです。実を言うと、今も保健室登校なんですけど」
だから放課後図書室に来るのが早いのか。
「大丈夫なの?」
「はい。魔法を勉強してるときは、体も楽だし」
「そっか」
にっこり微笑んで、また本を読む。
しばらくその場をうろつき、何分かごとに、懐中電灯の光が強くなっているかを確認した。
今日は、だめだったようだ。
閉館ぎりぎりに、隠し部屋から出て、それぞれの家に帰る。
次の日も、その次の日も、放課後になると、隠し部屋に入って、小畑さんは魔法を習得するために頑
張って、ぼくは邪魔にならないように、そばでそれを見守って――
少しずつ、懐中電灯の光が、強くなってきたかなというとき、突然小畑さんが図書室に来なくなった。




