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小畑さんと一緒に、人の増えてきた図書室を後にする。
「すみません、生徒証を」
分厚い本を読んでいた司書の先生が、メガネを外しながら、ぼくと小畑さんの生徒証を取り出してくれた。
「これ、借ります」
「貸し出しね。ちょっとまって」
パソコンで、本に付いたバーコードを読み取る。横においてあった印刷機が唸り、伝票を吐き出した。
慣れた手つきで伝票を切り取り、片方を本に挟んだ。
「返却は二週間後ね」
「はい」
「藍田君は、本は借りないの?」
「あ、はい。ちょっと今日は……」
「そう、また来てね」
きたときと同じように、会釈をして図書室を出た。
出ると、そこには君島がいた。
「お、藍田」
「あぁ、君島」
「図書室は? もう用事すんだ?」
「うん」
「じゃあ教室に……あれ? 知り合い?」
「えー……うん。まあ」
「なるほど、そういうことか」
君島がどんな想像をしているか、聞かなくてもわかる。
「言っとくけど、小畑さんとは付き合ってるとかそういうのじゃないぞ。ね、小畑さん」
「はい!」
「そんなかわいい女の子と並んで歩いて、よく言うよ」
「私が本を取れなくて、藍田くんに助けてもらっただけなんです」
ぼくに向き直り、小畑さんがお辞儀をした。
「藍田くん、本当にありがとうございました。それじゃあ」
「うん、ばいばい」
本を抱え、早足で渡り廊下を進んでいく小畑さんを見送り、姿が見えなくなってから歩き出した。
「藍田」
「なに」
「正直に言え。おれにだけは、本当のことを」
あきれて、思わず笑ってしまった。
「笑うな!」
「本当のことも何も、本当にただ本を取ってあげただけなんだよ」
不服そうな君島を置いて、渡り廊下を走った。