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ぼくが空を仰ぐとき  作者: あざみ
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 校舎の二階の渡り廊下を渡った先にある図書室。赤紫のじゅうたん、大きなステンドグラスの天窓。

異国を思わせる雰囲気と、その本の多さから、ぼくはすっかり常連となってしまった。他校と比べてもずいぶん大きく、この学校の誇りでもあるらしい。入学のパンフレットにも大きく取り上げられていたのを覚えている。


 今日は、来る時間が早かったせいか、だれもいなかった。


 二階から一階に続く階段をおりて、生徒証を司書の先生に渡す。これはこの学校のルールだった。


「こんにちは」


「こんにちは。今日は早いのね」


 中年太りの、優しそうな先生。名前も知らないし、よく話したこともないけど、ぼくはこの先生に妙な親近感を抱いていた。


「この前呼んだ本が面白かったので、早く続きを読みたくて、」


「そう。それは良かった。ゆっくり選んでね」


 会釈をしたとき、ぼく以外の生徒証があることに気づいた。


 一番のりかとおもったのに、違ったらしい。


 本を探すふりをして、先に来ていた人物を探す。


 その人はすぐに見つかった。


 小柄な女子生徒だった。靴の色で、同級生だということがわかる。


 高いところの本を取ろうとしているらしい。必死に背伸びをして手を伸ばしている。


「あの……」


「えッ? あ、はい! はい」


 慌てた様子で、スカートの裾をさわる。照れくさいときの女子の反応だ。もしかして、人が苦手なのだろうか。


「よかったら、本、取りましょうか」


「え? いえ……あの……はい。お願いします」


「えっと……どれですか?」


「あの、一番上の、左から二番目の……魔道書です」


「魔道書?」


 思ったより大きな声が出た。驚いたのは、この女子生徒がそれを読もうとしていたからじゃなくて、そんな本が学校にあっからだ。


「あ、すいません、大きな声出して。えっと、一番上だとぼくも届かないので、梯子を借りてきますね」


「あ、はい。すみません……」


 恐縮した様子で、何度も謝る。


 どちらかというと、謝らなければいけないのは大きな声をだしたぼくのほうだとおもうのだが……。


 梯子を借り、一番上の左から二番目の本を取る。



『簡単魔道書~星~ 下』



 古ぼけた表紙にしては、字がいまどきの書体だった。


「これでいいんですよね」


「はい! それです」


 梯子に乗ったまま、本を手渡す。


「あ、ありがとうございます」


 大事そうに本を抱え、深々と頭を下げた。


「いえ、どういたしまして」


「……」


 女子生徒は立ち去りがたそうにぼくをちらちらと見て、何かを言いかけ、またうつむいてしまう。


「……」


「……」


 ぼくまで立ち去れなくなってしまった。こういうとき、君島がいれば話をつないでくれるのに。自分でしたこととはいえ、君島を置いてきたことを後悔した。


「……変わった本、読むんですね」


 沈黙が痛かったので、しゃべり続けることにした。


「私、魔法とか、この歳になっても信じてて、勉強すれば、つかえるようになるんじゃないかなって……思って……。あ、バカですよね。ごめんなさい」


 なんだか謝られてばかりだ。


「いえ、ぼくも魔法とかあればいいなーって思ってますから、全然、変じゃないとお思いますよ」


「ホントですか?」


 勢いよく顔を上げ、よっぽど嬉しかったのか、満面の笑顔を見せた。


「あの! 私、小畑風璃(おばたふうり)っていいます」


 突然の自己紹介。どう反応したらいいのか分からず、


「変わった名前だね」


 といってしまった。また余計なことを……。


「よく言われます。えっと……お名前聞いてもいいですか?」


「あ、藍田浩平(あいだこうへい)です」


「藍田くん、ちょっとこれ、見てくれますか」


 さっきのおどおどした態度は消え去り、急にはきはきとした調子になる。ぼくの手を引っ張り、図書館の奥に進んでいく。


「私、この本の上巻を読んで、とある魔法を習得したんです」


「……は?」


 言葉の意味が理解でなかった。魔法を習得……。それは、魔法を使えるということなのだろうか。


「まだ初歩の初歩なんですが、見てもらえますか?」


「え……と、はい……はい?」


「見ててくださいね」


 右手を伸ばし、手のひらを上に向け、握り締める。



 静かに、風が吹いた。図書室の窓を見る。どの窓も閉まっている。


 風は、床から流れていた。


 小畑さんは、目を閉じ、その表情は真剣そのものだった。



 どれくらい、そうしていただろうか。


 そんなには長くなかったと思う。精々三分とか五分とか、それくらいのはずだ。


 小畑さんが、ゆっくりと、握り締めていた手を開いた。


 開いた手を覗き込む。


 金平糖があった。


「……これは」


「初歩の初歩の魔法です。星と聞いて連想する身近なものを生み出す魔法なんです」


「金平糖……」


「星っぽくないですか?」


 かりっと、金平糖をかじる。


「……星」


 ぼくは、すごいことを思いついてしまった。


「その魔法さ、練習すれば、星を作ったりできる?」


「えぇと……作り出すことはできませんが、空に流れさせたり、輝きを強くすることはできると、上巻

に書いてありました」


「ねえ。小畑さん」


「はい」


「その魔法、習得してくれないかな」





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