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ぼくが空を仰ぐとき  作者: あざみ
2/11


 今日は暑いくらいに太陽が輝く晴れ空だった。


 ぼくの通っている私立高校は、冷暖房設備が設置されていて、夏場に窓が開けられることはほとんどないので、風を感じることができない。


 ぼくの席は窓側で、空を見るにはベストポジションなのだが、まぶしいとか、暑いとかいう理由で、今の時期はカーテンが締め切られている。そして窓も開いていないので、空が見えることもない。


 空調が整っているせいか、クラスメイトの大半は机に突っ伏して、気持ちよさそうに寝息をたてている。教科が数学というのも理由のひとつだろう。真面目にノートを取っているのはぼくを含めて十人ほどだった。


 黒板に公式を書き終え、こっちに向き直った先生と目が合ってしまった。


「藍田、この公式当てはめて、プリントの三番やってみなさい」


 指名されてしまった。仕方なくプリントを片手に立ち上がり、黒板に向かう。そんなに難しい問題じ

ゃなくて良かった。


 公式を書き終え、席に戻る。よく見ると、さっきまで起きていた数人も顔を伏せていた。


「ん。正解だ」


 先生が赤いチョークで丸をつける。なんだか恥ずかしい。


「この公式はテストに出すからな、覚えておけよ」


 とうとうぼく以外の全員が顔を伏せてしまい、マンツーマンの個別授業のようになった。


 ぼくが寝たらどうなるのだろうか。


 そんな好奇心にかられたとき、


「プリントの残りは宿題だ。提出は明後日の授業。忘れるなよ」


 号令もなしに、先生が教室を出て行った。号令をかける委員長が寝ているのだから仕方ないか。


 時計を見ると、チャイムが鳴る一分ほど前だった。


 先生が去ったあとも、誰一人顔を上げなかった。クーラーの稼動音と、寝息だけが聞こえる。


 黒板を消すのは日直の仕事なのだが、暇だし消すことにした。


 実のところ、どうにも解答に丸を付けられたのが照れくさかったので、早く消してしまいたかったのだ。なぜこんなに照れるのか自分でも良く分からないが。


 黒板消しで丸をなぞるように消したあと、右端から消していく。そうしているうちに、チャイムが鳴った。


 振り返ってみるが、やはりまだ誰も起きない。


 また黒板に向き直り、字を消していく。筆圧が濃いのか、なかなか消えない。苦戦していると、教室の外が騒がしくなってきた。それに気づいた何人かが起きたようだ。


 よく寝たー。まだ眠たい。そんな声と、椅子を引き立ち上がる音が聞こえてくる。そしてすっかり、休み時間独特のにぎやかさになった。


「藍田くん、ありがとー」


 クラスメイトの女子が、ぼくの腕を軽く叩きながら教室を出て行った。今日の日直だ。


「いいよ、別に」


 廊下の友達としゃべっていた彼女に、ぼくの声は届かなかったようだ。


 黒板を完全に消し終え、軽く手を払ったあと、席についた。


 カーテンを少し開け、空を見上げる。今日、何度目だろう。


 いつもどおり、綺麗な蒼空だ。あの空に、本当に溶け込んでしまえたなら……あの空に、触れてみた

い。


「藍田ー」


 不意に肩をつつかれて、反射的に振り向いた。そこにいたのは、友達の君島だった。


「悪いんだけどさ、さっきのプリント写させてよ。実は寝ちゃってさー」


「知ってるよ。はいこれ」


 机の上に広げたままだったプリントを渡す。


「サンキュー」


「残りの問題、明後日までの宿題な。あと、公式、テストにでるらしいから」


「うわ、マジかよ。助かったー。次の休み時間に返すわ」


「おう」


 君島が席に着いたのを確認して、もう一度カーテンをめくろうとしたとき、


「藍田ー。これどういうこと?」


 自分の席から、君島がぼくをよんだ。


「どれ?」


「ちょっときてよ」


 カーテンにかけていた手を離し、立ち上がる。


「どこ」


「この公式。どうやって計算するの」


「えぇと……」


 君島に公式を説明しているうちに、休み時間は終わってしまった。






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