ドラッグストアへ
玄関を出てから、早足で、駅へと向かった。家の近所にも何軒かの薬局はあるが、もし、知り合いに見られでもしたら……
例え、別人のように化粧を施していても、気付かれたらと思うとどう言いわけすればいいか分からない。
言いわけなど出来ない品物。用途は一つしかない。
駅に着いて、繁華街へと向かう電車の時刻表を見上げた。持ち合わせたお金はそれほど無かった。
青木クンの病院へ行く度に、お菓子や缶コーヒーの差しいれをしていたもんだから、今月のお小遣い全部を持って来たけど、千円札が三枚ほどしかない。
往復の電車料金を考えて、検査薬の値段を差し引けば、それほど遠くへは行けない。
高校生になったばかりのわたしが出来ること言ったら本当にしれている。
検査薬を買うことすらままならない現状。
パパやママなしじゃあ、生きて行かれない今のわたしと涼。こんなわたしたちが子供など育てていけるはずがない。
最悪の事態だけはどうしても、免れたい。
ホームに電車が滑り込んで来て、開くと同時に中へと飛び乗った。
この時間、乗客は疎らだった。座席には着かず、出入り口に立ったまま、手すりにつかまり、流れて行く景色だけを茫然と見ていた。外は少し、曇っていて、厚い雲が立ち込めている。
必死で家を飛び出してきたせいか、今日は暑いのか、晴れているのか、空模様さえ気付かずにいた。 それほど、気が動転していたのだ。
電車は隣駅へと滑り込んだ。ホームにクラスの女子が数人ほど立っているのが見えた。
今は夏休みの真っただ中だ。繁華街へと遊びに行くのかもしれない。
電車が止まると同時に、弾かれたようにその場を離れ、その女子たちが乗り込むはずの車両とは反対側の車両へと移動した。
誰にも会いたくなかった。
似合わない厚化粧を施した顔など、知り合いに見られたくはなかった。
一つ隣の車両とは言え、電車が到着するまで、彼女たちに見つからないかと冷や冷やしていた。電車が停止すると同時に、飛び降りて、ホームを走り、階段を駆け降りた。
猛スピードで向かった先は、駅から少し離れた場所にあるドラッグストアだった。
さっき降りた駅地下内のテナントにもドラッグストアはあったが、もし、さっきの彼女たちが入って来たらと思うと、駅からは出来るだけ離れたかった。
暑い日差しの中、歩道を走っていたが、途中で気分が悪くなって来た。
夕べも今朝も食事を摂っていないせいだ。
立ち止まって、少しだけ休憩することにした。
ドラッグストアまで、後、三百メートルほどだ。
カバンからハンドタオルを取り出して汗を拭いた。




