涼に抱かれて
二人だけの涼の家で、気が付けば窓の外はオレンジ色が消えて、薄紫に変わっていた。
「さ……沙都?」
涼がわたしの髪の毛をかきあげて来た。
わたしは涼のベッドにうつ伏せのまま。
「沙都? 大丈夫か?」
涼があんまり優しい声でそう言うから涙が込み上げて来た。
「もうすぐ……母さんが帰ってくる」
「うん……」
涼の顔が恥ずかしくて見られなかった。
「お前……断われよ」
「……」
「青木なんかと付き合うなよ」
「じゃあ……涼が彼氏になってくれるの?」
枕に顔を押し付けてそう言った。
「今さら……だよな」
「え?」
「今さら、沙都と付き合ってますなんて、宣言しにくい」
「はあ?」
「お前、クラスのみんなに言えるか? 俺が彼になったって。父さんや母さんたちにいえるか?」
いつもみんなでつるんでいるメンバーが頭に浮かんだ。
そして、自分の両親の顔も頭に浮べた。
この上なく冷やかされるに決まっている。
「確かに……言いにくい」
「オヤジには、結婚相手がいなかったら沙都にしろとか冷やかされてるし……そのまんまだし、シャクにさわる」
「沙都、ほら、早く服着ろ」
涼が制服のブラウスを放り投げて来た。
「涼……ブラがさき。取って」
枕に顔を押し付けて、腕だけ涼に差し出した。
「ブラって……」
涼がベッドの下に落ちたブラを拾って渡してくれた。
「沙都……意外と、胸あんだな」
「きゃー!きゃー!思いださないでよ」
そう叫んで薄手の布団を頭からかぶりこんだ。
「もう、涼の頭からわたしを消してー」
「ごめん。そう、怒んなよ」
「怒る!メッチャ恥ずかしいんだから!」
「俺……沙都がなんて言おうと、今日のことは一生忘れないからな」
かぶり込んだ布団から少しだけ顔を出して
涼を見ると、わたしの視線に合うようにしゃがんで、じっと顔をのぞき込んできた。
「俺、今日の沙都、絶対忘れないから」
チュッ
顔だけ出したわたしの額に軽くキスを落として来た。
「俺らさ、内緒で……付き合おう」
「内緒で?お母さんたちにも?」
「うん。内緒で……」
涼のわたしを見る目が昨日までと全然違ってた。
全然違って……
とっても優しくなった気がした。
薄紫色の部屋の中で、涼がニコリと微笑んだ。
「俺、下にいるから。その間に服着ろよ」
それだけ言って涼が部屋を出て行った